社会保障を救貧対策に限定し、負担増と給付削減をねらう
厚労省案は撤回を
2011年5月17日
全国保険医団体連合会
政策部長 三浦 清春
厚生労働省は5月12日、社会保障改革案を「社会保障改革に関する集中検討会議」に提示した。
厚労省案は「震災後の社会保障制度改革」を理由に、「これまで以上に、給付の重点化、選択と集中、優先順位の明確化が求められる」と提起。国民に負担増と給付削減を意味する「給付の重点化」「選択と集中」を迫っている。一方で、大企業に対しては「グローバルな経済競争が激しくなる中、これまでのように企業が社会保障において一定の役割を担うことは容易ではない」と財界の言い分を認め、社会保障に対する役割を免除しようとしている。国と大企業の負担を軽減するために、国民負担増と給付削減を迫ることは断じて容認できない。
厚労省案は「社会保障の定義」について、国民全体の「『悲しみや負担の共有』を通じた『幸福の分かち合い』」であり、「政府が最低限の生活を保障する」対象は、「どうしても自立できないほどの困窮に陥る」国民に限定し、「『共に助け合う』ことが、社会保障が本来目指すべき姿である」とまで規定した。憲法に基づく社会保障への国の責任を放棄した「社会保障」像を提示、「自助」「共助」を基本にして、国が責任を持つのは救貧対策に限定する方向性を示していることは看過できない。「人間の尊厳に値する生活を保障する公的な仕組み」である社会保障制度の構築を強く要求する。
厚労省案は、貧困と格差を拡大させた「構造改革」路線への国民の批判を意識し、「貧困・格差」「低所得者対策」を強調している。しかし、高額療養費制度の見直しでは、「財政中立」が前提とされており、「低所得者」の負担上限引き下げと一体で「一般所得者」の負担上限引き上げが示されている。また、医療・介護・保育・障害の各分野の利用者負担の総額に世帯単位で上限を設ける「総合合算制度」の新設が提起されているが、その前提として「社会保障と税の共通番号制」の導入を求めている。さらに、「最後のセーフティーネットである生活保護の見直しを実施する」として、生活保護費の引き下げ、医療扶助への自己負担の導入などを示唆している。「構造改革」路線により生み出された貧困と格差の拡大を改善する方向での施策を推進すべきである。
厚労省案には負担増の具体案は示されていないが、医療、介護の「保険給付の重点化」が位置付けられ、入院期間の短縮、高齢者医療費・介護費での高齢者の負担増、国保運営の都道府県単位での広域化などが提示されている。すでに厚労省は、70〜74歳の患者負担や介護保険の利用者負担を2割に引き上げることを議論しており、民主党の「社会保障と税の抜本改革調査会」では、外来で受診するたびに、窓口負担に一定額を上乗せする「受診時定額負担制度」の導入が提起されている。経済的理由によって医療、介護を受けられない事態が深刻化している状況で、これ以上の負担増と給付削減計画は撤回すべきである。
菅政権の「社会保障と税の一体改革」とは、国と大企業の負担を軽減するために、国民負担増と社会保障の給付削減を求め、震災復興の財源確保を理由に、消費税の大幅引き上げを国民に迫ることがねらいであることが明確になってきた。保団連は、大震災からの復興が国家的最優先課題となる中で、憲法の生存権保障に基づく、社会保障と防災を基盤とした国づくりを掲げて国民的運動を推進することを表明する。