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国民の受療権を制限する厚労省の「定額上乗せ」案に断固反対する                              

     2011年5月23日
全国保険医団体連合会
政策部長 三浦 清春

厚生労働省は5月19日、すべての外来患者の窓口負担に「定額上乗せ」を求める案を発表した。負担額は示されていないが、民主党内では1回当たり一律100〜200円程度を上乗せする案が示されている。

外来受診時に一律に「定額上乗せ」を求めることは、複数の病気を抱える高齢者、乳幼児、慢性疾患の患者など医療機関の受診頻度が多い人ほど負担が重くなり、受診を事実上制限することになりかねない。原則3割という窓口負担の高さは先進諸国でも際立っており、経済的理由で受診抑制を引き起こしていることは、保団連や民間シンクタンクの調査でも明らかとなっている。これ以上の患者負担増は、さらに受診が抑制され、重篤化させかねない。また、住民の運動で実現させた「子ども医療費」無料化制度にも波及することになる。国民の受療権を制限し「疾病の自己責任」と「受益者負担」主義を強める「定額上乗せ」案は断じて容認できない。

厚労省は、国庫負担を増やさない「財政中立」の方針を貫き、新たに生まれる財源で、高額療養費制度を拡充して、長期・高額の医療を受ける患者の負担上限額を引き下げることを提起している。 
このことは、長期・高額の医療の患者の負担軽減に必要な財源が増加すれば、連動して「定額上乗せ」を引き上げることを意味する。厚労省が目指す「共助」を基本にした社会保障像の具体案であり、国民の中に分断構造を持ち込もうとすることは看過できない。

2002年の改定健康保険法の附則2条には、保険給付は「将来にわたり100分の70を維持する」と明記されている。厚労省は7割給付を維持したままで、3割を超える患者負担を求めようとしているが、法律を形骸化させかねない重大問題である。しかも、制度が一旦導入されれば、負担額の引き上げが容易に行われるようになることは、これまでの歴史からも明らかである。

「社会保障改革に関する集中検討会議」では、「小さなリスクには自助で対応してください」と「保険免責制度」の導入を求める意見が複数の幹事委員から出されている。「保険給付の重点化」の名による「定額上乗せ」の導入を突破口にして、「保険免責制度」が導入される危険性がある。
 
風邪などを「軽い病気」と規定し、公的保険は適用しないという考え方に基づく「保険免責制度」は、財務省が2002年の医療制度改革時に「外来1回当たり500円」を提案し、2005年の小泉政権時の経済財政諮問会議が「骨太の方針」に明記するよう求めたが、国民的運動によって断念させた経緯がある。すべての疾病を広くカバーする国民皆保険制度の根本を破壊する「保険免責制度」の導入には断固反対する。

 保団連は、国民誰もが安心して受けられる医療・介護保険制度にするため、今こそ国の責任で、患者負担を大幅軽減し、保険給付を拡充するよう国民皆保険制度50周年にふさわしい国民的運動を推進することをあらためて表明するものである。