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2013年3月15日
全国保険医団体連合会
会長 住江憲勇


国民皆保険の形骸化と主権の放棄をまねく
TPP交渉参加表明に抗議する

 

 3月15日、安倍普三首相はTPP(環太平洋連携協定)交渉への参加を正式表明した。
私たち医師・歯科医師は、国民皆保険制度および日本の主権を守る立場から、TPP交渉参加表明に厳重に抗議し、ただちに撤回することを求める。

 TPP参加によって、@薬価決定過程への製薬企業の参加、新薬の特許保護の強化、A混合診療の全面解禁、B営利企業による病院経営などを通じて医療が営利化・市場化される恐れがある。その結果、「いつでも、どこでも、だれでも」安心して医療が受けられる国民皆保険制度が実質的に機能しなくなる。

 安倍首相は「公的医療保険制度はTPP交渉の議論の対象になっていない」「制度を揺るがすことはない」と発言しているが、これまでもアメリカは日本の医療を市場としてとらえ、日本政府に対して市場化・営利化を迫ってきた。営利企業の病院経営を認めるアメリカなどからすれば、営利企業の参入を禁止する日本の皆保険制度は「非関税障壁」とみなされかねない。

 また、TPPでは、投資先の国が行った施策・規制で不利益を被ったと企業や投資家が判断すれば国際投資紛争仲裁センターに提訴できる「ISD条項」や、一度規制を撤廃・緩和すると元に戻せない「ラチェット条項」などの受け入れも迫られる。自国の制度・ルールを自国民が決定することができなくなり、日本の主権は形骸化しかねない。

 そのため、3月13日の自民党外交・経済連携本部TPP対策委員会の「TPP対策に関する決議」でも、「国民皆保険が損なわれる」「ISD条項が導入される」ことに懸念が示されている。さらに「決議」では、農林水産分野の重要5品目と共に「国民皆保険制度」を「聖域(死活的利益)」として掲げ、確保できない場合、「脱退も辞さない」としている。これを受けて、安倍首相は15日の交渉参加正式表明の記者会見の席上、国民皆保険制度を「断固守る」と言及した。

 しかし、現時点での日本のTPP交渉参加は、交渉内容に何の影響も与えられないことは、この間の報道で次々と明らかにされている。2012年12月から交渉に参加したカナダ・メキシコは、先に交渉を始めた米国など9カ国がすでに合意した内容を原則として受け入れ、交渉をうち切る終結権も再協議も要求できないなど不利な条件を課せられているときく。日本は、この不利な条件を受け入れざるを得ないだけでなく、交渉の「最終段階」からの参加のため、他の交渉各国で合意された内容を全面的に受け入れることしか選択の余地はない。

 このようにTPP交渉参加は主権の放棄を意味し、日本の将来に禍根を残す。ただちにTPP交渉参加表明を撤回し、参加を断念するよう強く求める。私たち医師・歯科医師は、国民のいのちと暮らしを守るため、広範な市民・団体と連携を深め、TPP参加断念に向けてさらに全力を尽くす。

以上