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2014年12月10日

厚生労働大臣 塩崎 恭久 様

全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

エボラウイルス病(エボラ出血熱)等、感染症対策に係わる要望

前略 感染症対策をはじめとした公衆衛生行政に対するご尽力に敬意を表します。
さて、12月3日付のWHOの報告では、エボラウイルス病(EVD)の累計患者は、17,145人、死者は6,070人に達しているとされています。また、スペインやアメリカでは、この地域からの一部の帰国者に感染が確認され、機内や帰国先での二次感染の事例もあります。
日本においても、感染防止策をしっかりと行うとともに、患者(疑いを含む)が発生した場合には、万全の体制を取る必要があります。
厚生労働省は12月9日に、国内侵入を防ぐ検疫体制を強化するため、青森、高松、鹿児島など21カ所の空港に看護師などを検疫官として30人増員配置すると発表しました。
しかしながら、現状の対策ではまだまだ不十分です。エボラウイルス病だけでなく、新感染症、1類感染症、2類感染症対策を強めることは、国の責務と考えます。
当会は、地域で日々患者を診療している保険医の団体として、下記に掲げる感染症対策の早急な充実を求めるものです。

1.第一種感染症指定医療機関等と搬送システムの整備を国の責任で実施してください。
エボラウイルス病等、1類感染症に対応できる施設は、全国で3カ所の「特定感染症指定医療機関」(計8床)と、38都道府県45カ所の「第一種感染症指定医療機関 」(計86床)しかなく、青森、宮城、秋田、石川、奈良、香川、愛媛、宮崎、鹿児島の9県では1カ所も存在しません(2014年11月10日現在)。
医療提供体制は、都道府県を単位として整備されているため、9県では受け入れ先の病院との連携等における問題があります。そもそも1類感染症患者は、搬送時間や距離もなるべく少なくすべきであり、9県において第一種感染症指定医療機関の整備を早急に進めるべきです。なお、北海道は1カ所(2床)ありますが、これでは少な過ぎます。北海道においては複数の整備を図るべきです。また、全国的に搬送システムの整備が課題です。搬送訓練も含め、早急な対応を図るべきです。
医療機関の整備や搬送システムの整備には多くの費用がかかりますが、これを自治体任せにすべきではありません。費用を含めた整備について国が責任を持って実施すべきです。

2.一般医療機関を受診しないことの注意喚起の徹底をしてください。
新感染症、1類感染症、2類感染症は、深刻な症状をきたすとともに、他者への感染力が非常に高いものです。感染の拡大を防ぐためには、発生の初期段階においては、新感染症や1類感染症に罹患している疑いのある患者が、2類感染症指定医療機関を受診してはならないこと。また、新感染症、1類感染症、2類感染症に罹患している疑いのある患者が、一般医療機関を受診してはならないことの周知・徹底を図るべきです。

3.一般医療機関を受診した患者にエボラウイルス病の疑いが発生した場合の対処方法を早急に示してください。
10月24日に、都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部(局)長宛てに出された健感発1024第3号通知「エボラ出血熱の国内発生を想定した行政機関における基本的な対応について」では、「管内の医療機関から、エボラ出血熱の疑似症患者の届出がなされた場合、直ちに厚生労働省健康局結核感染症課に報告するとともに、当該疑似症患者について当該医療機関での待機を要請した上で、当該疑似症患者を特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関へ移送すること」とされています。
ところが、同日出された「エボラ出血熱の国内発生を想定した医療機関における基本的な対応について」(健感発1024第1号)では、「受診者について、発熱症状に加えて、ギニア、リベリア又はシエラレオネの過去 1 か月以内の滞在歴が確認できた場合は、エボラ出血熱の疑似症患者として直ちに最寄りの保健所長経由で都道府県知事へ届出を行う」としか記載されておらず、医療機関における待機の案内がされておりません。
また、このような患者さんに使用した注射針やガーゼ等の感染性廃棄物は、患者移送の際に患者と一緒に特定感染症指定医療機関又は第一種感染症指定医療機関に移送するものと思料しますが、この取り扱いについても、明確な指示がされていません。
一般医療機関に受診した患者にエボラウイルス病の疑いが発生した場合の対処方法について、早急に示してください。

4.感染症対策全般の拡充を国の責任で実施してください。
国際的な人や物の交流が広がっている中で、感染症が国を超えて広がっています。感染症対策全般を強化する必要があります。下記の速やかな徹底を実施してください。
(1)WHO等で接種が推奨されているワクチンの定期接種化と、ワクチン接種による健康被害補償の充実
@ WHO等で接種が推奨されているワクチンの定期接種化を求めるとともに、定期接種、臨時接種、定期接種期間中に病気等によって接種できなかった者の期間外の接種等への公費負担を実施してください。
A ワクチンが接種されなかったことによる感染症流行、母子感染、ワクチン接種による健康被害の調査・研究を行い、補償を拡充してください。
(2)保健所の役割と機能を再認識し、保健所の設置数及び職員数の拡大
保健所は、人口10万人につき1カ所の設置基準でしたが、1994年の保健所法「改正」で30万人に1カ所に削減されました。保健所は、感染症対策における要とされているのに、これでは全く不十分です。保健所の設置数及び職員数を早急に拡大してください。

5.無保険者を無くし、全ての国民が医療にかかれる制度にしてください。
いつでも、どこでも、誰でも、必要に応じて医療が受けられる制度は、感染対策としても重要です。1984年以降切り捨ててきた国保の国庫負担を「窓口負担を含む医療費の45%」に戻して払える国保料に引き下げるとともに、受診抑制となる資格証明書交付を止め、低所得者対策を強化して、全ての国民が医療にかかれる制度にしてください。

以上