平成27年度介護報酬改定に関するパブリックコメント提出について
2015年3月9日
全国保険医団体連合会は、厚生労働省が3月11日まで募集している「平成27年度介護報酬改定に伴う関係告示の一部改正等に関する意見」について、下記の意見を提出しました。
意見書募集内容は、下記ホームページを参照ください。
平成27年度介護報酬改定に伴う関係告示の一部改正等に関する意見募集について
(電子政府の総合窓口e-Gov)
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【提出意見】
以下、2月6日に発出された「平成27年度介護報酬改定についての諮問・答申」の中の「改正案」に対する意見である。
意見1.介護報酬改定に関わる告示・通知を直ちに発出し、6月1日改定実施とすること
【理由】介護報酬改定によるサービス内容や負担額の変更について、事業者は利用者に事前に説明をして、4月1日から窓口負担を徴収しなければならない。このためには、事業者が改定内容を理解するための十分な周知期間が必要であるが、これまでも改定の告示・通知の発出が大きく遅れため、介護の現場や利用者に多大な負担を強いたことが少なくない。今回の改定の日程は、従来にもまして大変遅れている。介護の現場や利用者への影響を少なくするため、介護報酬改定に関わる告示・通知を直ちに発出するとともに、6月1日改定実施とすること。
意見2.介護崩壊を食い止めるため、介護報酬のプラス改定を求める
【理由】2015年4月改定では、マイナス2.27%もの大幅な引き下げを実施した。しかも、介護職員の処遇改善分を除いた改定率はマイナス4.48%にもなる。
介護職員処遇改善加算は、さらなる要件を満たした場合の加算Tが新設されたが、介護職員の給与は介護報酬全体で賄うため、総枠でのマイナス改定は、介護職員の処遇改善を困難にする。
介護報酬は、社会保障として国民が受ける介護の質と量を規定するものである。介護に関する新たな知見や介護技術の進歩を介護報酬にしっかりと反映させ、介護担当者の労働条件を改善するためには、介護報酬全体の引き上げを図ることが必要である。
国の責務は、要支援・要介護状態となってもすべての国民が健康で文化的な生活を営むことができる環境を整備することである。介護崩壊を食い止めるために、国庫負担を拡大し、介護報酬のプラス改定を行うことを求める。
意見3.施設サービス費を引き上げ、介護療養病床の廃止を撤回すること。特養の多床室の室料相当の保険給付外しを撤回すること
【理由】介護療養病床に新たな要件を満たす療養機能強化型の報酬が設定されたが、従来型個室や多床室の療養機能強化型では7〜33単位の引き下げとなり、療養機能強化型でない場合は22〜69単位も引き下げられた。また、老健施設も12〜30単位の引き下げである。特養ホームは4月に33〜53単位の引き下げが行われるとともに、8月には多床室について室料相当が保険給付から外され、報酬が47単位引き下げられる。
政府は、施設サービスの切り捨てを進めようとしているが、施設は介護を必要とする者と介護をする者が一箇所に集まることで、設備も人員も、介護のノウハウも蓄積するというメリットがある。居宅における療養環境を改善し、希望する者が居宅で必要な介護を受けられるようにすることは当然だが、施設の方が効率が良く、医療ニーズへの対応もしやすいという点を無視してはならない。介護療養型医療施設の2018年3月末での廃止を撤回するとともに、4対1や5対1の看護職員配置を評価した報酬を新設することも含め、必要な施設療養が受けられるよう報酬を引き上げるべきである。また、特養ホームの多床室の室料相当の保険給付外しを撤回すること。
意見4.リハビリテーションの評価を引き上げ、必要なリハビリテーションを受けることができるようにすること
【理由】通所リハビリテーションは38〜56単位引き上げられたが、個別リハビリテーション実施加算(1日80単位)が包括され、実質的に大幅なマイナス改定である。
また、訪問リハビリテーションと通所リハビリテーションに社会参加支援加算が新設されたが、これは他の通所サービス等に利用者の一定割合を移行できた場合に算定するものである。さらに介護予防通所介護は市町村事業に移され、基準緩和型やボランティア型の通所サービスも始まる。
要介護者へのリハビリを医療保険から介護保険に移してきたが、介護保険の中でも、訪問リハや通所リハから通所介護へ。さらに基準や報酬が低い基準緩和型やボランティア型へ移そうとしている。また、今回の改定では疼痛緩和や拘縮改善は評価されず、さらには日数により減算されることとなった。医学的管理の下でのリハビリテーションの重要性はいうまでもない。リハビリテーションの報酬を引き上げるとともに、必要なリハビリテーションを受けられるようにすべきである。
意見5.医療系介護報酬は、区分支給限度基準額の対象から外すべき
【理由】訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションは、医学的な必要に応じて実施すべきであるが、区分支給限度基準額の範囲でしか介護保険給付を受けられない。
これらのサービスや、区分支給限度基準額の対象外である居宅療養管理指導や介護老人保健施設、介護療養型医療施設における介護を除く部分は医療そのものであり、医療保険の窓口負担率を引き下げて、医療保険給付に戻すべきである。
少なくとも、区分支給限度基準額の対象に組み込まれた訪問看護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーションは、区分支給限度基準額の対象から除外すべきである。
意見6.医師、歯科医師等の居宅療養管理指導の同一建物居住者減算を廃止すること。訪問看護等の同一建物居住者減算の対象拡大を撤回すること
【理由】医師、歯科医師等の居宅療養管理指導については据え置かれたが、前回改定で導入した「同一建物居住者」に対する10%減算は、そのままである。そもそも、居宅療養管理指導は、「居宅療養上の指導や他の事業所との連携」を評価するものであって、訪問診療にかかわる費用は、医療保険で評価している。
したがって、「同一建物居住者」の居宅療養管理指導を減算する理由はなく、「同一建物居住者」に対する10%減算を廃止すべきである。
また、訪問看護等において、事業所と同一建物、同一敷地内、隣接する敷地内の建物(養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付高齢者向け住宅に限る)に居住する利用者へ訪問系サービスを行った場合は、居住する人数に関わらず、たとえ1人のみを訪問した場合であっても減算する扱いは不合理であり、撤回すること。
意見7.認知症対応型共同生活介護、認知症対応型通所介護を引き上げ、認知症対策強化を
【理由】認知症への対応の強化が求められているにもかかわらず、認知症対応型共同生活介護は45〜52単位も引き下げられ、認知症対応型通所介護(単独型・併設型)は29〜65単位も引き下げられた。
認知症への対応強化は重要であり、介護報酬を引き上げるべきである。
意見8.口腔ケアの評価引き上げを
【理由】施設における経口維持加算が再編成され、算定要件が緩和されたものの、経口維持加算Tは、医師、歯科医師、管理栄養士、看護師、介護支援専門員その他の職種による計画作成に加え、共同で食事観察および会議を行った場合に算定することとされ、1日につき28単位から1月につき400単位に引き下げられた。また、経口維持加算Uは、協力歯科医療機関を定め、食事観察および会議に医師、歯科医師、歯科衛生士又は言語聴覚士が加わった場合に1月につき100単位を算定することとされた。
口腔ケアの充実は重要であり、経口維持加算をはじめとした報酬を引き上げるべきである。
意見9.介護予防訪問介護、介護予防通所介護の新総合事業への移管を止め、全国一律の介護保険給付とすること
【理由】介護保険法「改正」によって、2015年4月より新総合事業が開始され、2017年3月までの経過措置を経て、現在は全国一律に給付されている要支援者に対する介護予防訪問介護と介護予防通所介護が市町村独自に実施する新総合事業に移管される。
しかし、新総合事業は、現行サービス相当の訪問・通所介護(市町村の判断で、報酬を引き下げ、利用者負担割合を引き上げることが可能)以外に、基準を緩和して報酬を引き下げた「緩和基準型」や「ボランティア型」(市町村の判断で、利用者負担割合を引き上げることが可能)のサービス提供が準備される。これは介護サービスに対する国の責任を放棄し、歯止めのない介護サービスの低下を生み出すこととなる。
要支援者に対する介護予防訪問介護と介護予防通所介護を全国一律の介護保険給付から外すことは止めるべきである。また、訪問介護は、介護保険制度の要であり、介護予防も含め、訪問介護の報酬を引き上げるべきである。
意見10.2018年4月以降も、介護報酬の書面による請求を認めること
【理由】介護報酬の請求について、2018年4月以降は原則として伝送(オンライン)又は電子媒体による提出に限られる。それ以降も書面での請求が認められるのは、現在、書面による請求が可能な事業者(区分支給限度基準額の対象とならない単品サービス(例:居宅療養管理指導)のみを行っている)や2018年3月31日現在で従事者が65歳以上のみの事業者で、同日までに審査支払機関に届出を行った場合に限られる。
これでは、2018年4月以降新規に居宅療養管理指導を実施する場合は書面による請求が認められない。月に数人程度しか居宅療養管理指導を算定していない医療機関も少なくない。介護サービス提供にあたって居宅療養管理指導は不可欠であり、2018年4月以降も書面による請求を認めるべきである。
意見11.国が責任を持って公費負担を拡大し、介護サービスの充実を行うこと
【理由】介護保険法の改定も2015年4月と8月から施行される。4月からは、@要支援者の介護予防訪問介護、介護予防通所介護の市町村事業化、A特養入所の要介護3以上への限定。8月からは、B所得による窓口負担割合の引き上げ、C施設の居住費・食費への資産要件とペナルティ導入(一部2016年8月)が実施される。
政府は、国庫負担を大幅に削減する一方で、利用者負担を大幅に引き上げ、介護保険給付の範囲を縮小しようとしているが、これらが実施されれば介護崩壊は一層進んでしまう。
介護は私的な問題として解決できるものではなく、憲法13条と憲法25条に基づく国民の生存権を保障するものとして公的に国が責任を持って解決すべきである。
平成22年版厚生労働白書では、『とりわけ、医療・介護分野については、経済波及効果及び雇用創出効果がある。このため、…成長と雇用の創出が期待される』、『社会保障を持続可能なものにするとともに、その充実を図り、不安を取り除くことで、消費を促し、経済を活性化させることも期待できる』と明記している。
保団連は、こうした立場から、消費税増税に反対するとともに、介護保険制度改定にあたっては、利用料や保険料負担を拡大するのではなく、国が責任を持って公費負担を拡大し、介護サービスの充実を行うよう、強く求める。
以上