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※5月13日に下記の要望を衆参国会議員に送付いたしました。

2015年5月13日

国会議員各位

全国保険医団体連合会
会長 住江憲勇

 医療保険制度改革関連法案の審議についての要望

 

 貴職におかれましては、国民の生命とくらしを守るため、日夜国政の重責を果たされていますことに心より敬意を表します。

 本会は、全国の医師・歯科医師10万5000人で構成し、国民医療の向上と保険医の生活と権利を守るために活動している団体です。

 5月13日より、参議院で医療保険制度改革関連法案(「持続可能な医療保険制度等を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律案(仮称)」の審議が始まります。

 私どもは、本法案について、(1)経済的困難を抱えながら病気とたたかっている患者をさらに追い込む負担増計画、(2)有効性、安全性が未確立な医療を「患者の自己責任」の名で広げる患者申出療養の創設、(3)都道府県に公的医療費削減の役割を担わせる「国保の都道府県単位化」(都道府県による財政運営、医療費適正化計画の見直しなど)など多くの問題ある内容が含まれていると考えており、国会での慎重な審議を求めています。

 かつて参議院は「良識の府」と言われていました。「良識の府」にふさわしく、本法案について、患者・国民の立場に立った徹底審議を求めます。

1.法案審議のあり方について

(1)衆議院の審議はまったく不十分です。参議院こそ徹底審議を

 衆議院厚生労働委員会での審議は、参考人質疑を除くとわずか3日間(4月17日、22日、24日)で19時間の審議しか行いませんでした。昨年、「審議が不十分」と批判を受けた医療・介護総合法でさえ、28時間の審議です。同法案は、国民健康保険法、健康保険法、高齢者の医療の確保に関する法律などを一括して一本の法律として提出し、その内容も多岐にわたります。それにも関わらず、短時間の審議であったため、例えば、入院時食事療養費の自己負担引き上げは全体で10数分しか議論されていません。

 このような短時間の審議で法案が採択・成立されることは議会制民主主義を危うくさせるものであり、そもそも立法府の役割に疑問を持たれかねません。

 十分な審議時間を確保し、生活をまもるため、医療や介護を利用することを制限せざるを得ない患者さん、国民のみなさんの立場にたった徹底審議を求めます。

(2)不明瞭・不備をそのままにしたまま成立させて良いのでしょうか

 不十分なのは審議時間だけではありません。「紹介状なしで大病院を受診する場合等の定額負担の導入」や「患者申出療養制度の創設」、「都道府県が財政運営の責任主体」等について、厚労大臣をはじめとする答弁は「詳細はこれから検討」という答えに終始しました。このように論議が深まらず、そのことが却ってこの法案の問題点を示しています。衆議院の議論でも厚労委員から「丁寧に詰めてから法案は出されるべき。非常に荒削り」「(患者申出療養は)不明瞭なところがたくさんある。法案の中に埋め込んで何となくこれを通してしまおうというのは非常に乱暴」という指摘がだされました。

(3)「入院ができなくなる」患者さん、「払いたくても払えない」国保加入者をどのようになくしていくかの議論を

 審議にあたっての本来の視点は、過剰な負担によって「入院をためらう」患者さん、「払いたくても払えない」国保加入者をどのようになくしていくかではないでしょうか。

 衆議院の審議でも少ないながら、入院時食事療養費の自己負担引き上げによって患者さんが入院をためらったり入院そのものができなくなることにならないかという点や、生活苦で「払いたくても払えない」国保料のため、滞納をしてしまい、短期証明証や資格証明書に切りかえられたり、一方的な差し押さえに苦しむ滞納者の実態が質問されました。

 一方で、年金生活者や非正規労働者が多く加入しているという国保の構造的な問題を無視して、「保険者機能の強化」という名目で国保保険者にいっそうの医療費抑制を促す質問や国保会計へ法定外繰り入れをしている自治体そのものを問題視する質問が相次いだことが気になります。

 ぜひ、患者さん、被保険者の立場にたった議論をお願いします。

2.患者負担増計画について

(1)入院時食事療養費の自己負担引き上げについて

@「入院そのものができなくなる」患者さんを出さないために

 衆議院の審議でも、「入院時の食事とは治療の一環」であるにも関わらず自己負担の引き上げはこれに逆行するもので1食260円から460円となると患者さんにとって臨界点を超えているといった指摘や、精神医療の現場では、食事代に負担がかかることで入院治療を躊躇し、症状を悪化させてしまう患者さんもいるとの指摘がありました。また、長期入院を必要とする、がん患者さんや難病患者さんからは不安の声が聞かれます。また、低所得者の方の自己負担は「据え置き」といいますが、患者負担は存在するため、その負担は重くのしかかります。しかも、入院時食事療養費は高額療養費制度の対象になりません。

 どうか患者さんの声や医療現場の声を聞いてください。

A「医療の一環」「治療の一環」であるなら、今回の提案は道理がない

 入院時の食事が「医療の一環」「治療の一環」であるならば、1994年以前のように「療養の給付(診療報酬)」として評価し、患者さんの負担を軽減すべきです。

 入院時の食事を「療養の給付(診療報酬)」から外した1994年に、食材費相当分を自己負担化した理由は、基礎的な給食費と治療のための給食費を分けたうえで、基礎的な部分は在宅でも入院でも必要だから負担してもらう(当時の大内厚労大臣の発言)ということでした。塩崎厚労大臣は今回の審議においても、入院時の食事療養は「治療の一環」(4月22日の厚労委員会)と発言しています。そうであるならば、今回の提案は、過去の厚労省の説明と矛盾することとなり、「治療の一環」としての食事の調理費相当額まで給付から外すことに道理はありません。

 また、医療現場では、患者さん一人ひとりの病態・病状や栄養状態を踏まえ食事を提供しています。どうか、栄養士さんをはじめ医療現場の努力や声に耳を傾けてください。

B「在宅療養との公平」を理由に負担を引き上げることに道理はありません

 塩崎厚生労働大臣は、衆議院本会議での法案の趣旨説明で「入院と在宅療養の公平を図るため、入院時の食事代を見直す」としました。これまでも政府は、「入院と在宅との公平」「在宅と施設との公平」「介護と医療の公平」と「公平」を理由に入院時の食事代の自己負担増を繰り返してきました。

・在宅との負担の公平で医療(療養の給付)から切り離し
  〜入院時食事療養費制度の創設 1994年
・療養病床は「住まい」、介護との公平を図るとして「調理費相当額」を負担増
  〜入院時生活療養費の創設 2006年
・入院と在宅療養の負担の公平等を図るとして、一般病床の食事代調理費相当額を負担増 2015

 さらに、4月24日の財務省・財政制度等審議会では、今回の法案と同じく「在宅療養との公平確保」を理由にして、今度は食費(調理費・食材費460円×3食=1,380円)とあわせて居住費(現行で、65歳以上医療区分T(一般所得)の療養病床は320円、介護保険施設だと340円)の負担を求めていくことを提案しています。

 「負担の公平」を理由に負担の高い方にあわせて負担を増やしていくやり方は道理がありません。

C難病患者の実態に沿った議論を

 政府・厚生労働省は、特定医療費助成制度および小児慢性特定疾病医療費助成制度の対象者は「当分の間、据え置き」としています。それもそのはずで、今年1月から上記対象の難病患者さんは先行して自己負担増が行われているためです。日本難病・疾病団体協議会(JPA)は4月6日の声明で、「確定診断前の入院や、風邪などの感染症による入院を余儀なくなされる場合の負担、また指定難病に指定されていない疾病患者には、長期の入院を余儀なくされる場合も多いため、大きな影響が出」ると指摘しています。

 この点については、衆議院でも同趣旨の質問がなされましたが、塩崎厚労大臣は「指定難病の患者に対して医療費助成を行うと共に今回は負担を添え置く」と法案の内容に触れるに留まり、難病患者からの訴えに真正面から答えていません。参議院では、難病患者さんの不安の声に真摯に耳を傾けて審議をしてください。

D現行制度を継続するための財源はあります

 4月17日の厚生労働省かたの答弁によれば、入院時食事療養費の自己負担引き上げによる患者負担増は、年間1200億円(公費500億円、保険料700億円)となります。現在、トヨタ自動車1社だけで研究開発減税は1200億円です。法人税の税率引き下げ(2015年度予算ベース)で、企業は6690億円の減税です。法人税減税をやめれば、(3)で触れる後期高齢者の保険料引き上げ(980億円)もあわせて、十分な財源を確保した上で中止することができます。

 むしろ、心配なのは@でも触れたように、入院しないことで、患者の重篤化を招き、結果として医療費に跳ね返ってくることです。入院時の食事療養の自己負担引き上げは今すぐ撤回すべきです。

(2)紹介状なしの大病院受診時の定額負担の導入

@衆議院の審議では「(例外として)大病院を受診せざるを得ないケース」など、以下のような具体的な制度設計が明らかになりませんでした

 ・どういう事態で、定額負担なしで受診が可能なのか。その具体的ケース

→塩崎厚労大臣「具体的なケースとしては、救急の場合や周囲に他の医療機関がない場合を想定、」「施行までに、関係の審議会でご意見を聞いた上で、必要かつ適切なケースを定めたい」
※衆議院での議論では、「どこまでが救急なのか」「大病院以外に医療機関がないという地域がある場合」や「地域によっては専門科が大病院にしかしかない場合」などはどうするのかという質問がなされた。

 ・「特定機能病院等」を対象にするとあるが、その「等」とは

→法案提出前は「500床以上」とされていたが、厚労省の答弁は「中医協で十分議論」
現在の選定療養は「200床以上」

 ・「5,000円〜10,000円の定額負担が考えられる」とされるが、その金額の根拠

 政府・厚労省は今後、中医協で議論するとしていますが、厚生労働委員からも「どういう条件で定額負担が求められるのかわからない状況で法案審議をせざるを得ない」という指摘がありました。
 制度設計が不明瞭な中で法案が成立するのはやはり患者・国民の納得が得られません。

Aそもそも外来の機能分化、勤務医の負担軽減になるのでしょうか

 衆議院の審議では、定額負担だけで外来の機能分化、ひいては勤務医の負担機能はできないという議論がなされました。答弁にたった厚労省でさえ、あくまで「外来の機能分化のための必要な措置の一環」(4月22日の唐澤政府参考人)と答弁しています。審議では、かかりつけ医機能の確立、患者さんへの理解を求める、地域での医療機関の連携などが議論されました。先の全国医学部長大学病院長会議が実施した、紹介状なしでの大病院受診の選定療養の実態調査によると、選定療養での徴収額を一定期間内で5,000円以上に引き上げた実際例で外来患者数が「横ばい」と大きな変化がないことが報告されています(4月24日の神奈川県保険医協会政策部長談話より)。

Bお金のある人しか受診できない事態は避けるべきです

 定額負担を払える方が大病院に受診し、そうでない人は受けられないという事態に陥ることはさけるべきです。

C難病患者の実態に沿った議論を

 日本難病・疾病団体協議会(JPA)は4月6日の声明で、「難治性の疾患の場合、症状があっても原因がわからず、多くの患者は診断が確定するまで複数の病院をまわることが多く、また納得のできる治療を求めて医療機関をめぐることが少なくありません。その都度紹介状を書いてもらうためにかかりつけの医師にかかれない場合も多いのが現状です。専門医のいる病院が大病院である場合も多く、定額の負担は患者・家族の経済負担をさらに重くするのみならず、患者の受療の機会を奪うものになりかねません」と指摘しています。衆議院の審議でも同趣旨の質問がなされました。それに対しても、塩崎厚生労働大臣は、「困らないようにしようというのが我々の一番大事なご説明であって」「きちっと議論して決め込んでいきたい」という答弁に留まっています。難病患者のみなさんが受診困難に陥らないよう、実態に寄り添った議論を参議院で求めます。

D「受診時定額負担」等の引き金になる

 Aで触れたように、外来の機能分化で効果がのぞめないのにも関わらず、なぜ、定額負担を導入するのでしょうか。4月27日の財務省・財政制度等審議会では、受診時定額負担の導入が提唱されました。今回の定額負担の導入が、将来、すべての患者さんに負担を強いて受診抑制を招く制度が導入される引き金になることを危惧します。

(3)後期高齢者の保険料軽減の特例措置(予算措置)の見直しについて

@法案になくても今回の「医療保険制度改革」の1つです。参議院での議論の遡上に

 予算措置であるため、今回の法案には含まれていませんが、1月13日の社会保障制度改革推進本部で決定された「医療保険制度改革骨子」に掲げられている事項です。特に75歳以上の方の6割、865万人が影響を受けるものです。負担増が集中している高齢者にとって重いものです。今回の見直しが妥当なものなのか、参議院での議論を求めます。

A激変緩和は何を想定しているか、審議で明らかにさせてください

 厚労省は、今回の見直しにあたって、激変緩和措置を講ずるといいます。この具体的な内容は今後検討するとしています。多くの高齢者に影響を受ける措置ですので、参議院の審議で明らかにしてください。

B後期高齢者医療広域連合も継続・恒久的な措置を求めています

 宮城県や愛知県の後期高齢者医療広域連合議会は特例措置の継続を求めて意見書を内閣総理大臣、財務大臣、厚生労働大臣宛てに提出しています。さらに愛知県の意見書は、「恒久的制度」とするよう求めています。廃止ではなく、その声に耳を傾けた審議を求めます。

3.患者申出療養について

 衆議院の法案審議で、多くの厚労委員が質問したのにも関わらず、制度設計の詳細が明らかにされなかったのがこの患者申出療養です。このまま法案が通ると、有害事象が起こりかねません。下記の点を議論したうえで撤回を求めます。

(1)患者申出療養はあくまで「例外」です

 衆議院の審議の中では、想定される患者申出療養の対象として、(1)先進医療であるが、地方の医療機関で実施する場合、(2)先進医療の適格基準外、(3)国内未承認の抗がん剤などの医薬品の使用などがあげられています(4月24日唐澤厚生労働省保険局長)。特に「一番出てくるのは抗がん剤」(4月24日塩崎厚労大臣)とされています。

 もし、上記が対象になるならば、(1)だと同じ治療内容でも先進医療と患者申出療養の2つのケースが平行に存在することになる、(2)だと先進医療の対象外とされた患者や、先進医療として承認されなかった治療方法も対象になる、ことが懸念されます。

 (3)の場合だと、医薬品などは、治験で安全性を評価し、承認して販売するのが本流で、患者申出療養はあくまで「例外」との答弁が塩崎厚労大臣からなされました。複数の議員から懸念の声が出されたように、治験逃れのために患者申出療養が利用されることがないようにすることが重要です。保険財政を未確立な研究・試験段階の医療に流用することは許されません。未確立な研究・試験段階の医療を患者申出療養のルートで広がらないよう歯止めをかけることが重要です。

(2)本当に「6週間」で安全性・有効性を確保できるのかあいまいなままです

 衆議院の審議でもこの点が集中しました。6週間といっても実際の事務手続きの時間を除けば実質1カ月ぐらいしか期間がないことも明らかになっています。しかし、塩崎厚労大臣の答弁は、「医学的判断が分かれる場合などは必ずしも期間にとらわれない」「持ち回りによる審議」「会議を随時開く」といった答弁で、結局、短期間での安全性・有効性の確保はあいまいなままです。

 また、現在6カ月かけて審査する先進医療会議以上の人員等の配置をするのかという答弁に対しても「まったくこれから検討」という答弁でした。

 現行の先進医療自体、効果や安全性が科学的に確認されていない未承認薬等や治療などリスクの高いものが含まれています。その適格基準外の患者を対象とすることは大きな危険を伴うものであることは否めません。

 どのようにして6週間で審議し承認するか判断するのか、制度設計はあいまいなままです。6週間の審査は患者申出療養の一番の特徴です。ここが明らかにならないままに、法案が通るのは大変危険です。

(3)責任をすべて患者に押し付けることにならないでしょうか。責任の所在があまりにも不明確です

 今回の患者申出療養は、「患者の申し出を起点とする」が、法案の一番の特徴ですが、患者さんの自己責任ということで、患者保護や被害救済があいまいになっているのではないかという指摘が衆議院の審議でも多数指摘されました。国、企業、医療機関の責任の所在を明確にする必要があります。

(4)有害事象が生じた場合を真剣に議論してください

 事故や副作用など有害な事象が起こった場合についても、今後、治験や先進医療と同様に依頼者と実施期間できちんと契約書を締結することになっていること、あらかじめ保険加入などの措置を講じるなどを参考に制度設計していくとしています。この点については、衆議院で「患者が自ら申し出たことを理由に、有害な事象が発生した際に不利益を被ることのない仕組みとする」べきとの付帯決議が出されました。この点も具体的な制度設計が明らかになるようにしてください。

(5)制度上、保険収載は目指されていない

 今回の患者申出療養について「保険収載を目指す」との答弁が繰り返し行われています。しかし、法文には保険適用を目指すとはどこにも記載されていません。実施計画もこの間、厚労大臣が答弁しているように「保険収載に向けた実施計画」ではなく、臨床研究の倫理指針に基づく臨床研究、臨床試験の「実施計画」です。

 衆議院厚労員会で多くの厚労委員が指摘したように、今でさえ、未承認の医薬品や先進医療が保険適用に結びついていない中で、実際に患者申出療養の対象になったものが保険収載される可能性は低いと思われます。

(6)患者団体等の声をきちんと聞いてください

 日本難病・疾病団体協議会(JPA)も指摘しているように、患者申出療養を法案として提出する前に難病団体、患者団体へのヒアリングがなかったことが指摘されています。この制度に対して難病の患者さんが持つ不安や懸念に十分耳を傾けることが必要です。そのためにも、今回はこの制度の提案について撤回を求めるべきです。

4.国保の都道府県単位化について

 衆議院の議論では、「保険料負担と医療給付費がイコールになる」ことが保険制度という視点で国保への公費負担そのものを否定する質問が見られました。しかし、国保は社会保障の一環であり、国民皆保険を支えるものです。国保法第1条には、目的として「社会保障及び国民保険の向上に寄与する」と規定しています。また、衆議院の参考人質疑では、岡崎高知市長が「国保が崩壊すると地域の医療も当然崩壊する」と指摘しました。「払いたくても払えない」国保料を軽減するための、真の財政基盤支援を求めます。

(1)国保の財政支援について

@「払いたくても払えない」国保料で加入者が苦しんでいる実態をどう解決するのか

 衆議院の参考人質疑では、参考人から口々に「被保険者の負担も限界にきている」(岡崎高知市長)、「低所得者の方が多く、結果として所得に対する保険料負担も重くなっている」「被保険者の保険料負担率について被用者保険と比べて非常に高い水準」(福田栃木県知事)、「シングルマザー世帯の所得110万円だと国保料は年間22万円。これだと月6万円しか生活費がなく、光熱水費を差し引くと月1000円も生活費がなく子どもたちは給食とご飯にふりかけの1日2食で生活している」「差し押さえ禁止財産をも差し押さえる違法行為が自治体でまかり通っている」(寺内大阪社保協事務局長)という指摘がありました。

 まずは国保加入者の実態から出発した議論を求めます。

A総報酬割の議論について−すべての保険者の加入者が負担軽減につながる議論を

 今回の法案で、高齢者医療における後期高齢者支援金の全面総報酬割が導入されます。政府・厚労省は捻出された国費でもって国保の財政支援にまわすという説明をしているために、「被用者保険が国保の赤字を肩代わりしている」「国保は医療費の適正化など保険者機能を果たしていない」との議論が集中しました。

 しかし、本来は保険者間の財政調整に矮小化されるのではなく、財政的に厳しく、加入者の保険料負担が限界にきている国保、協会けんぽ、組合健保に対して、加入者の保険料軽減のために国庫負担の拡充をすべきです。

 それにも関わらず、平均保険料率が10%にもなっている協会けんぽに対し、「当分の間16.4%としたものの、法律の上限である国庫補助率20%の引き上げについて、塩崎厚労大臣は、「引き上げる状況にない」と答弁しています。

 「持続可能な医療保険制度」というならば、すべての保険者の加入者の負担軽減につながる議論をすべきです。

B今回の国保の財政支援だけで、加入者にとって「払える国保料」になるのでしょうか

 今回の法案提出にあたって、厚労省は毎年約3400億円の財政支援の拡充等を行うとして、「被保険者一人当たり、約1万円の財政改善効果」としています。あわせて、この3400億円という額は、一般会計からの法定外繰り入れの総額3524億円に相当するとしています。これについて、塩崎厚生労働大臣等の答弁では、「保険料の伸びの抑制などの負担軽減につなげ」ると共に「一般会計繰り入れの計画的、段階的解消」を訴えています。

 しかし、衆議院の審議でも指摘があったように、この3400億円で仮に法定外繰り入れ分を穴埋めできたとしても、これまで同様に法定外繰り入れを行わなければ、保険料の軽減につながりません。また、国会の審議では、法定外繰り入れを行っている自治体に対して、「保険者努力が足りない」「モラルハザードである」との指摘がなされています。

 全国的にみると法定外繰り入れが不十分なために高い保険料で加入者が苦しんでいる自治体やそもそも地域の産業が空洞化しているために高い国保料を設定せざるを得ない自治体も多く存在しています。また、単年度の国保の赤字を繰り上げ充用でしのいでいる自治体もあります。そのように考えると、単に法定外繰り入れ分を公費で穴埋めをしただけでは、国保の財政基盤が強化され、保険料軽減につながるわけではありません。

 また、国保の所得に占める保険料率が被用者保険と比べて高いことから、都道府県知事会も当初は財政支援を1兆円としていました。

 あわせて、4月23日の参考人質疑で、参考人の岡崎高知市長は、団塊の世代が70歳を超える2020年には国保の財政はさらに厳しくなることから、さらなる国費による財政支援を訴えています。

 以上のことを踏まえ、今回の財政支援についての議論を求めます。 

A.定率国庫負担の引き上げなど、本格的な財政支援を

 上記で触れたように、3400億円だけでは、国保財政の改善と保険料の軽減につながりません。また、B以降で触れるように、3400億円の財政支援の内容を細かく見ると、直接の財政支援とは言い難いものが含まれます。
 本来なら保険給付に対する定額国庫負担の引き上げを議論してしかるべきです。

B.「保険者支援制度」1700億円だけでは、「払える国保料」にはなりません

 2015年度から「保険者支援制度」に1700億円が投入されました。しかし、直接、低所得者の保険料が安くなるように投入するのではなく、政令軽減世帯の割合によって交付する方法であるために、現在の赤字補填に投入するなどに使われる可能性があります。そのため、引き続き法定外繰り入れをしなければ保険料を軽減することはできません。

C.自治体に医療費抑制を駆り立てる「保険者努力支援制度」は、国保加入者を窮地に追い込み、医療提供体制の抑制に繋がりかねません

 2018年から創設される「保険者努力支援制度」は、医療費適正化や保険料収納率アップなどに努力した市町村に交付するとされています。具体的な指標等について「国民健康保険に関する国と地方の協議会」で議論することになっていますが、今以上の資格証や短期証明書の発行、違法な差し押さえが起きることか危惧されます。
 経済財政諮問会議(4月16日)の塩崎厚労相の提出資料(「医療保険制度におけるインセンティブの強化」)では、「保険者の努力を判断する指標」として、「収納率向上の状況」「特定検診・特定保健指導等の実施状況」「後発医薬品使用割合」などを提案しています。
 さらに上記の経済財政諮問会議で有識者議員から「『調整交付金(国)』の算定基準に年齢、性差等のみを基準とした額、または最も効率的な保険者群の医療費を基準とした額に変更。保険者機能を強化し、受診、投薬等を適正化」が提案されています。
 この保険者努力支援制度の指標等の具体的な制度設計によって、過度な医療提供の抑制で受診抑制が広がることも懸念されます。

D.「『自治体の責めによらない要因』の財政支援の強化」は拡充されても給付費の1%以下です

 今回、年金生活者や非正規労働者が多く加入しているという国保の構造的問題について認識されたことは一定評価されます。しかし、上記の財政支援は、700?800億円にすぎず、医療給付費等総額に占める割合は、1%以下にすぎません。

E.財政安定化基金は市町村と加入者の負担軽減にはあまり寄与しません

 衆議院での審議の中で、財政安定化基金について、(1)当初予定していなかった給付増が発生した場合、(2)予期せぬような事情で保険料の収納不足が生じた場合の2つのケースで活用されるとしています。また、詳細は地方団体との協議とされていますが、災害等の場合は、「給付」、それ以外は「貸付」と言われています。実際に都道府県への納付金を納める場合に、この基金を活用すれば結局、次年度以降、返済のために保険料をあげざるを得ません。4月23日の参考人質疑でも「(自治体は)借り入れなくてもいいような保険料設定をするというふうに動く」(寺内大阪社保協事務局長)との指摘がありました。

(2)納付金・標準保険料率・国保の運営指針について

@「納付金」制度では、今まで以上に高い保険料が設定されます

 法案では、都道府県は県単位で医療費全体を管理したうえで、それに見合う「納付金」を決定し、各市町村に納付金を割り当てることになっています。

 各市町村が都道府県に納める額は、市町村ごとの「医療費水準」「所得水準」を考慮して決定するとしています。そのため医療費水準(年齢構成の違いの調整後)が高いほど、納付金の負担は大きくなることになります。

 4月23日の参考人質疑では、寺内参考人から全国の2013年度の平均収納率は約90%の現状のなかで、市町村は納付金を100%の納めるために、どのような行動をとるかを説明しています。

A.一般会計からの法定外繰り入れで不足分を対応する。今まで以上に繰り入れる必要がある 
B.市町村の国保会計の基金を繰り入れする。しかし、基金はいずれ底をつくので、基金を維持しようとすれば、納付金以上の保険料収入を得て積み上げるしかないため、当然保険料が高くなる
C.新しい都道府県財政安定化基金から借りる。借りれば当然返済しなければならず、(1)BのFで触れたように、次年度以降の保険料値上げの要因となる
D.90%の収納率でも納付金を納めることができるように、納付金よりかなり割増しの賦課総額にして保険料を計算し、90%の収納率でも100%になるようにする(この場合11%以上の割増し)。当然保険料は今よりかなり高くなる

 上記の想定を含めて考えると、この納付金制度になればこれまで以上に高い保険料を設定しなければならなくなります。また、医療費水準が高いとされる自治体は医療費を抑制するための政策をとらざるを得なくなります。仮にこの制度を導入する場合、「払える」国保料にするならば、結局、さらなる公費負担の拡充が必要になります。

Aさらに「払えない国保料」になるような標準保険料率にはしないこと。標準保険料率はあくまで自治体への「参考」です

 都道府県は、納付金と共に「標準保険料率」(都道府県が「標準的」とする保険料の算定方式と収納率に基づいて計算)を定めます。各市町村は、標準保険料率を参考にしながら、納付金を納めるのに必要な保険料を決め、保険料を徴収することになります。

 この標準保険料率はあくまで「参考」であること、保険料の設定は「市町村のご判断」であることは、塩崎厚生労働大臣の答弁(4月15日)でも確認されています。

 しかし、この答弁の一方で、「同じ所得の水準、医療費の水準ということであれば、余り違わない保険料の水準になるように目指していただきたい」(4月22日の唐澤厚労省保険局長の答弁)もあります。

 現在の保険料と標準保険料率による保険料を比較して、後者が高い設定にならないようにするには、結局、さらなる公費負担の拡充が必須になります。また、法定外繰り入れなど「払える国保料」にする自治体の努力の妨げにならないためにも、国もしくは過度な標準保険料率への誘導をしないよう、審議の中で強く求めてください。

B市町村に資格証明書・短期被保険者証の発行や差し押さえを画一的に強いる運営指針にはしないように

 今回の法改正で、統一的な運営方針を定めるとあります。運営方針の策定にあたっては、「保険料の関係の徴収に関する適正な実施に関する事項」「保険給付の適正な実施に関する事項」などを大きな柱にするとされています。具体的な事項については、国と地方の協議会の中で地方の意見を聞きながら、国でガイドラインを示したいとされています。

 私どもが最も不安視しているのは、収納率の向上を示して、画一的に資格証明書・短期被保険者証の発行を行うことにならないか、今まで以上に「払いたくても払えない」加入者に対して過度な差し押さえを行うことにならないかということです。

 すでに衆議院の審議では、「市町村側がアクションをとったがゆえに生活を困窮におとしめることがあってはならない」(塩崎厚生労働大臣)、「単に一律に対応するということにならないようにさせていただきたい」(唐澤厚労省保険局長)という答弁がなされていますが、その点を踏まえた議論をお願いします。

5.医療費適正化計画の「目標」設定の撤回を

 私たちは、今回の法案による「国保の都道府県単位化」「医療費適正計画の見直し」、昨年成立した医療・介護総合法に基づく病床削減など「医療提供体制の再編」という3つの施策をつうじて、都道府県単位で医療費抑制政策を強化するとみています。

 都道府県が策定・更新する医療費適正化計画では、「医療に要する費用の目標」を定め、病床再編を医療費推計に反映させるとしています。これについては、衆議院での議論でも病床削減や医師不足を加速化させることにならないかという質問がなされています。

 あわせて4月27日の財務省・財政制度等審議会では財務省から「入院医療のみならず外来医療についても、地域差の分析と解消」を医療費適正化計画に適用するようにとの提案がなされています。

 医療費の「目標」設定は、病床削減のみならず、外来を含めた必要な医療提供の制限につながることになり、撤回を求めます。

6.附則第二条第一項の撤回を

 今回の法案の第二条第一項には、(1)保険給付の範囲、(2)患者負担、(3)医療適正化に関する施策について、「さらに検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずる」という検討規定が盛り込まれました。

 衆議院での議論では、@受診者の給付割合を「将来にわたり一〇〇分の七〇を維持する」とした2002年の健康保険等の一部改正法の附則第二条の附則を見直すという意味であれば削除を求める、Aかつて議論された医療費総額に対するキャップ制や混合診療の拡大・解禁、保険免責制につながるのではないか、という質問がなされました。@については4月23日の参考人質疑で花井連合総合政策局長も同様の指摘がなされました。

 質問に対して塩崎大臣は、本法案の附則第二条第一項について、「施策のあり方について不断の検討を行うという趣旨を検討規定に規定したもの」としてしました。その上で、@の指摘について、「(2002年の)改正法附則が設けられた際の経緯や考え方は、政府としても踏まえるべきものと認識」しているとしながらも、「給付の割合について7割を維持することを規定したもので、保険給付の範囲について規定したものではないと思っている」と答弁しました。また、Aについては、想定していないとしました。

 おりしも、4月27日の財政審・財政制度等審議会で財務省は、受診時定額負担・保険給付制の導入や市販品類似薬等に係る保険給付の見直しや入院患者の居室代見直し(自己負担)を提案しています。塩崎大臣が否定しなかった保険給付範囲の見直しは内閣府や財務省サイドから要求されています。また、衆議院の附帯決議では維新の党の提案で「保険給付の範囲、負担能力に応じた費用負担の在り方について、必要に応じて」「検討する」ことがつけられました。さらなる給付縮小・負担増を拡大させないためにも、附則第二条第一項の削除を求めます。

以上