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【談話】国民皆保険の形骸化と主権の放棄をまねく
TPP交渉の「大筋合意」に強く抗議する

2015年10月7日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

 

 10月5日、TPP(環太平洋連携協定)交渉は、日本やアメリカなど12カ国による閣僚会合で「大筋合意」に達した。私たち医師・歯科医師は、国民皆保険制度および日本の主権を守る立場から「大筋合意」に強く抗議する。
 これまで私たちは、(1)TPPとはアメリカをはじめとする多国籍企業の利益優先の協定であること、(2)医療分野において、@薬価決定過程への製薬企業の参加、新薬の特許保護の強化等による各国独自の薬事行政への介入、A混合診療の全面解禁、B営利企業による病院経営などを通じて医療が営利化・市場化される恐れがあり、その結果、「いつでも、どこでも、だれでも」安心して医療が受けられる国民皆保険制度が形骸化すると指摘してきた。
 大筋合意の内容を見ると、「知的財産」の章で「特許期間延長制度」「新薬のデータ保護期間に係るルールの構築」「特許リンケージ制度」等の導入が掲げられた。これらによって、新薬価格の高騰やジェネリック医薬品の製造・普及が困難になる可能性がある。
 何より看過できないのは、投資先の国・自治体が行った施策・規制で不利益を被ったと企業や投資家が判断した場合、その制度の変更・廃止や損害賠償を相手国に求めることができる「ISDS条項」が盛りこまれたことである。この制度によって、国民皆保険制度をはじめとする自国の制度・ルールを自国民が決定することができなくなり、日本の主権は形骸化しかねない。
 安倍首相はTPP交渉参加を表明した2013年3月に「公的医療保険制度はTPP交渉の議論の対象になっていない」「制度を揺るがすことはない」と発言していた。今回も、「大筋合意」にあたっての記者会見で「国民皆保険制度を堅持する」「わが国の主権はまったく損なわれない」と発言しているが、「ISDS条項」がTPPに盛りこまれた以上、これらの発言はもはや「詭弁」にすぎない。本来、貿易交渉とは相手国の主権を尊重し、互恵関係の下に進めるべきものである。経済覇権主義ともいうべきアメリカ主導の交渉が進められてきたことに強い憤りを覚えるものである。
 しかし、今回の「大筋合意」がすぐさまTPP発効を意味するものではない。今後、協定文書の作成と調印、各国での批准手続きなど、さまざまなハードルが存在する。
 そもそもTPP交渉は秘密裏にすすめられてきた。国民はもとより国会議員にすら交渉内容は公開されていない。TPPの国会承認の前に交渉内容を国民の前に明らかにし、議論をつくす必要がある。
 私たち医師・歯科医師は、国民のいのちと暮らしを守るため、広範な市民・団体と連携を深め、TPPからの撤退、調印中止、国会での不承認、批准阻止に向けて全力をあげる。

以上