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※全国保険医団体連合会では、4月12日の日本経済新聞社社説「子どもの医療費減免に基準を」につきまして、当会としての意見と要望書を郵送しました(PDF版及び当該記事はこちら)。


4月12日付日経新聞社説
「子どもの医療費減免に基準を」に対する意見と要望

2016年5月31日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

 

 前略 全国保険医団体連合会は、医科・歯科保険医105,000人の団体です。
 さて、4月12日付貴紙社説で「子どもの医療費減免に基準を」と題する記事が掲載されました。社説では、子どもの医療費助成について「政策の見直しによって負担能力のある世帯まで含め一律に幅広く無料にするような形が広がるのは望ましくない。本当は必要がない受診まで誘発して医療費が膨らむだけでなく、医療現場が混雑したり、疲弊したりして、必要なときに十分な医療が受けられなくなる恐れもある」とし、「ペナルティー制度の見直しはこれらの懸念を踏まえ、慎重に検討を進めてほしい」と記述しています。

 まず、前提として現在の貧困と格差拡大の中で、どれだけ子どもの必要な医療が阻害されているかの現実を把握していただきたいと思います。
 国の医療制度は、2割〜3割の窓口負担が必要ですが、患者の窓口負担の割合によってどれだけ医療需要が抑制されるかを示した「長瀬指数」によれば、3割負担によって医療需要量は6割を切る水準まで引き下がり、2割負担でも7割程度まで引き下がるとされています。これでは親の経済状況によって子どもの受診が大きく左右されてしまいます。
 さらに、就学前の子どもが受診するためには、親が付き添わなくてはならず、医療費が無料でも受診できない場合も少なくありません。

 当会が実施した会員調査では、「過去半年間での経済的理由によると思われる治療中断」を経験した医療機関は医科で34.9%、歯科で51.7%になっています。「この半年間で医療費負担を理由に検査や治療、投薬を断られた経験」も医科で47.0%、歯科で35.3%になっています。
 また、宮城、岩手、長野、大阪の保険医協会が2013年から2015年に小中学校を対象に実施した調査では、学校歯科健診で「要治療」と診断された小中学生(約30%以上)のうち、実際に受診した小学生はおよそ半数、中学生は3割という状況です。
 子ども医療費無料化だけで受診率の低さが全て解決できるわけではありませんが、少なくとも成長期にある子どもの病気を早期に発見し、早期に治療すること、そして治療の継続を確保することは、子どもの将来にわたる心身の健全な発達にとって必要不可欠です。

 社説では「本当は必要がない受診まで誘発して」と記述していますが、その根拠はどこにあるのでしょうか。仮に子ども医療費無料化によって受診が増えるとすれば、それは窓口負担があることで必要な受診が妨げられているからではないでしょうか。
 子どもに限らず受診抑制はあってはならないと思いますが、特に子どもは心身の成長期にあり、かつ、親や社会を選ぶことはできません。心身の成長期にある子どもに受診抑制が発生すれば、将来にわたって取り返しのつかない事態になってしまいかねません。どの家庭に生まれても必要な医療が受けられるようにすべきであり、そのためには医療費の無料化が必要ではないでしょうか。

 児童福祉法では18歳未満を児童とし、第2条で「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」と規定しており、私どもは、本来は18歳まで医療費を国の責任で実施すべきと考えます。
 18歳までの子ども全ての窓口負担を無料にするために必要な財源は、年間6,460億円であると推計され、証券優遇税制廃止による税収増(7000億円〜8000億円)で賄える数字であると指摘(民医連医療455/2010年7月号15頁 芝田英昭立教大学教授)されています。
 平成21年10月から群馬県では、15歳まで所得制限無しで外来・入院の窓口負担を無料にしておりますが、平成24年5月定例県議会で健康福祉部長は、「早期の受診による重症化の防止に役立っておるのではないか」、「小中学生の虫歯の治癒率でございますが、この拡大前は全国平均と同じような水準でございました。一方拡大後は全国平均を大きく5から10ポイントぐらい上回って治癒率が向上してございまして、子どものときから歯を健康な状態に保つことは生涯にわたる健康にとってもとても大切なことでありまして、ひいては医療費の抑制につながるものかなというふうに考えてございます」と答弁しています。群馬県知事も議会で「子どもの医療費無料化は活力ある豊かな社会を築くための未来への投資」と答弁しています。

 どこに住んでいても医療を受ける格差があってはならないと考えており、子ども医療費無料化は、本来国が行うべきと思います。
 国が子ども医療費無料化制度に責任を持てば、ご指摘いただいた「今後も自治体が無料化競争に走るようなこと」はなくなるのではないでしょうか。
 ただちに18歳未満までを対象にすることは困難かと思いますが、少なくとも当面は小学校入学前までの医療費無料化を国の責任で実施すべきではないでしょうか。

 こどもの健やかな成長は、日本の将来にとって必要不可欠です。
 そのためには、国による子ども医療費無料化の実現、自治体による子ども医療費助成度の更なる拡充が不可欠であることをご理解いただき、今後の紙面に活かしていただけますよう、お願い致します。

以上