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※保団連女性部は7月20日に事業主女性のための出産・育児休業補償制度の創設等を求める以下の要請書を厚労大臣に提出しました。(PDF版はこちら)。

【要請書】事業主女性のための
出産・育児休業補償制度の創設等を求める

2016年8月27日
全国保険医団体連合会
女性部
部長 板井八重子

要請書

 

 貴職におかれましては、連日行政の重責を果たされていますことに敬意を表します。
 全国保険医団体連合会(保団連)は、全国の保険医である医師・歯科医師10万5,000人で構成し、国民医療の向上と保険医の生活と権利を守るための取り組みをしている団体です。本会女性部は、女性医師・歯科医師の就労環境改善を目的に活動しており、2015年7月から9月にかけて、女性開業医師・歯科医師の出産・子育てに関する実態を把握するため、アンケート調査を行いました。
 その結果、開業後の出産での産前休暇の取得日数は、「0日」が約3割、産後休暇は「0日」を含め30日以内が医科・歯科とも7割前後と多くの女性開業医師・歯科医師が、出産前後の母体保護のための十分な休養が取れていないことが明らかになりました。「陣痛がくるまで診療し、経済的な理由から産後子どもをベビーシッターに預けてすぐに働いたため、体がつらかった」など、過酷な実態も寄せられています(関連資料1〜23頁参照)。
 厚労省の調査によれば、2014年の医師数は2012年の調査時より男性が1.8%の増加に対して女性は6.7%の増加、歯科では男性が0.3%の増加に対して女性は4.9%の増加となっています。これからの医療を支える上で、女性医師・歯科医師の役割は非常に重要です。
 アンケートでは、診療と出産・子育てを両立させるための様々な提案も寄せられました。地域医療を担い、住民の命と健康を守るために奮闘する開業女性医師・歯科医師の就労環境の改善のために、以下の点を要望いたします。

一.事業主女性のための出産・育児休業補償制度の創設

 労働基準法では、使用者は6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合及び女性が産後8週間を経過しない場合に就業させてはならず、産後について6週間を経過した女性が請求した場合に、医師が支障がないと認めた業務に就かせることのみを認めています(65条1項2項)。
 上記の規定の趣旨については、「母性保護に係る専門家会合報告書(平成17年7月)」が、産前休暇について「妊娠末期は、胎児・胎盤の発育及びそれに伴う子宮容積の増大等により、血液量の増加や体重の増加が起こり、循環器系への負担が大きくなるなど、母体への負担が増加し、正常の動作で易疲労性、動悸、心拍 数上昇等の症状が出やすくなる。このため労働による負担を軽減するとともに 日常生活においても十分な休養をとることが求められる」、産後休暇については「産褥期間(妊娠及び分娩によって生じた子宮等の変化がほぼ妊娠前の状態に回復するまでの期間)が産後6週間から8週間であることを考慮して定められている」としています。
 開業医師・歯科医師などの事業主に労基法の適用はありませんが、上記の母体保護の必要性は、従事する職業に関わらず、出産する女性全員に当てはまるものです。たしかに事業主は使用者から強制された職務に従事するのではなく、自己の裁量によって仕事内容をコントロールできる側面はあります。しかし開業医師・歯科医師の場合、患者の命と健康を預かっていること、従業員の仕事(収入)を保障する役割を担っていることから、休業や仕事の縮小には慎重にならざるを得ません。結果、多くの女性医師・歯科医師が産前産後に必要とされる期間の休暇を取得できないのが現状です。
 事業主女性が安心して出産・育児をするために、出産・育児休業補償制度を創設してください。具体的な制度の内容としては、以下の二点を求めます。

(1)産休時の代診確保の実態調査と利用しやすい代診制度の創設・充実

 女性開業医師・歯科医師が、産前産後休暇の取得中や子育てのために診療時間を制限せざるを得ない時期に地域医療を十分に提供するためには、代診の医師・歯科医師が必要です。
 現在は、短期の求人を紹介する事業を行っている都道府県医師会もありますが、全てではありません。また、歯科医師会ではこうした事業を行っていません。代診の派遣を医師会・歯科医師会に頼れない医師・歯科医師は、個人的な人脈に頼らざるを得ません。
 国で、全国の開業女性医師・歯科医師が産休を取得する際の代診確保の実態を調査した上で、制度を創設・充実させ、利用しやすいものにしてください。

(2) 国保での出産手当金の給付

 開業後に出産しようとする医師・歯科医師の多くは、開業してから間がなく収入も不安定な時期の出産となります。代診を頼む費用、スタッフの人件費、自身の生活費のための資金が必要となります。これらを補助するため、国保での出産手当金の給付をしてください。

二.開業医師・歯科医師のニーズに合わせた保育の充実

  開業女性医師・歯科医師が子育てをしながら診療を続けるには、保育所の利用は不可欠です。医師・歯科医師の場合、通常の診療時に加えて、患者の急病時、診察時間の延長時、学会出席など、様々なニーズに対応できる保育が必要です。
 「経済財政運営と改革の基本方針2016」(内閣府)でも、「出産後・子育て中の就業や子供の体調不良への対応など様々な保育ニーズに対応し、保育所、企業主導型保育、病児保育等多様な保育の受け皿や放課後児童クラブや放課後子供教室等の整備」を推進するとしています(7頁)。消費税増税の先送りを理由に、これらを先送りするのではなく、保団連の財源提案などに基づいて財源を確保し、実現してください。

(1)必要な人が誰でも利用できる認可保育所の増設

  厚労省の発表によれば待機児童の数は2015年10月時点で4万5,000人程度となっており、保育所不足は明らかです。認可保育所で質の良い保育を受けることは子供の権利でもあります。
 誰でも入れるよう、認可保育所を増設してください。

(2)国の責任での病児保育の充実

 「子どもが病気のときは親が看るべき」という考え方もありますが、開業している女性医師・歯科医師が子どもの発熱時などに急に休診になれば、困るのは患者です。
 病児保育施設は、利用者数が安定せず、季節変動も大きいことなどから経営が難しく、施設数が不足しています。安心して病気の子どもを預けるためには、質の確保も重要です。
 安心して子どもを預けられる病児保育を国の責任で充実させてください。

以上