保険医の願いも阻む―「共謀罪」法が成立
(全国保険医新聞2017年6月25日号より)
6月15日に「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法が成立した。全国保険医団体連合会会長の住江憲勇氏(写真)は、国民皆保険制度を守り、発展させる保険医の取り組みにとっての「共謀罪」法の危険性を指摘する。お金の心配なく受けられる医療を目指す運動でさえも弾圧された戦前のような時代を二度と繰り返してはならないと語る住江氏に、「共謀罪」法の問題点を聞いた。
日常的な監視・介入可能に
15日に成立した「共謀罪」法は、医療・社会保障の拡充を世論に訴え、患者、国民ともに実現を目指す私たちの取り組みにとっても無関係ではありません。
話し合いや合意のみによっても犯罪の嫌疑がかけられるため、捜査機関の権限が著しく拡大します。たとえば、患者負担増計画の中止を求めるなど政府の方針に抗議する取り組みを日常的に監視・介入することも不可能ではありません。
戦前への反省から保険医運動が出発
この法律は、戦前の治安維持法との類似点がよく指摘されます。
治安維持法は天皇制と私有財産制を否定する団体のみを取り締まることを目的として定められました。しかし濫用され、一般の人々がお金の心配なく受けられる医療を目指し、実践していた医師らも検挙され、投獄されました。同時期に、多くの医師が軍医となり、戦争に加担することにもなりました。
戦後の保険医運動は、こうした時代を二度と許さないという保険医らの痛切な怒りと後悔から始まったのです。
戦後の保険医運動は、患者の受療権の保障と保険診療で医師自身が生活できる制度を目指し、1961年に国民皆保険を実現させました。
しかし80年代以降、わが国の医療・社会保障は抑制、改悪の方向に大きく舵がとられます。自己責任論を押し付け、社会保障に回す財源がないと主張し、さらに公的保険を「納付に見合う給付」として民間保険化し、社会保障の概念そのものを崩壊させることが狙われています。
この動きが進めば国民は黙っていられません。そうした国民の批判を封じ込めるため、政府が防衛装置として出してきたのが「共謀罪」法と言えるでしょう。
あやまち繰り返さない
患者に最新・最善の医療を提供することはすべての保険医の願いです。そのためには充実した皆保険制度は不可欠で、これを阻害する動きに対して機敏に対応し、改善を求め続けていくことが必要です。
「共謀罪」法はこのような保険医の取り組みに対する攻撃とも言えます。戦前の過ちを二度と繰り返してはなりません。
以上