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※全国保険医団体連合会は、2017年8月30日に女性部として厚労省要請を行い、 地域で住民の命と暮らしを守るために奮闘する医師・歯科医師が安心して出産・子育てできる環境整備を求めました。
要請書は以下の通りです(要請書及び別紙を含めたPDF版はこちら[PDF:1.1MB])。

 

要請書

2017年8月30日
全国保険医団体連合会
女性部部長 板井 八重子

 

 貴職におかれましては、連日行政の重責を果たされていますことに敬意を表します。

 全国保険医団体連合会(保団連)は、全国の医師・歯科医師約10万5,000人で構成する団体です。本会女性部は2002年に結成され、これまで女性を中心とする医師・歯科医師の就労環境改善に向けた取り組みをしてきました。
 2015年に保団連女性部では、全国の女性開業医師・歯科医師の産前・産後休暇の実態を把握するため、アンケート調査を行いました。その結果、産前休暇「ゼロ」が約3割、産後休暇も「30日未満」が約7割等、産前産後に必要な休暇がとれていないことがわかりました。「陣痛がくるまで働いていた」というコメントもありました。
 私たちは、この結果を深刻に受け止め、開業している医師・歯科医師が出産・子育てをしながら安心して就労できる環境を目指して取り組みを進めたいと考えています。
 厚労省の調査によれば、2014年の医師数は2012年の調査時より男性が1.8%の増加に対して女性は6.7%の増加、歯科では男性が0.3%の増加に対して女性は4.9%の増加となっています。医師・歯科医師が出産・子育てをしながら働く環境を整えることは、今後の医療を支える上でも非常に大切ではないでしょうか。
 地域で住民の命と暮らしを守るために奮闘する医師・歯科医師が安心して出産・子育てできるよう、以下の点についてご検討をお願いいたします。

 

一. 事業主のための出産・育児休業の保障に向けて

 労働基準法では、使用者は6週間以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合及び女性が産後8週間を経過しない場合に就業させてはならず、産後について6週間を経過した女性が請求した場合に、医師が支障がないと認めた業務に就かせることのみを認めています(65条1項2項)。
 この規定の趣旨については、「母性保護に係る専門家会合報告書(平成17年7月)」が、産前休暇について「妊娠末期は、胎児・胎盤の発育及びそれに伴う子宮容積の増大等により、血液量の増加や体重の増加が起こり、循環器系への負担が大きくなるなど、母体への負担が増加し、正常の動作で易疲労性、動悸、心拍 数上昇等の症状が出やすくなる。このため労働による負担を軽減するとともに 日常生活においても十分な休養をとることが求められる」、産後休暇については「産褥期間(妊娠及び分娩によって生じた子宮等の変化がほぼ妊娠前の状態に回復するまでの期間)が産後6週間から8週間であることを考慮して定められている」としています。
 開業医師・歯科医師などの事業主に労基法の適用はありませんが、上記の母体保護の必要性は、従事する職業に関わらず、出産する女性全員に当てはまるものです。事業主は自己の裁量によって仕事内容をコントロールできる側面はありますが、従業員の仕事(収入)を保障する役割を担っており、開業医師・歯科医師の場合はそれに加えて患者の命と健康を預かっていることから、休業や仕事の縮小には慎重にならざるを得ません。結果、多くの医師・歯科医師が産前産後に必要とされる期間の休暇を取得できないのが現状です。
 事業主の出産・育児休業の保障に向けて、以下の2点を求めます。

 

(1) 出産・傷病時の代診の確保について実態を調査すること

 開業医師・歯科医師が、産前産後休暇を取得する時期に、地域医療を十分に提供するためには、代診の医師・歯科医師が必要です。
 現在は、短期の求人を紹介する事業(女性医師バンクなど)を行っている都道府県医師会もありますが、全てではありません。また、歯科医師会ではこうした事業を行っていません。さらに、こうした事業では派遣される医師・歯科医師の質の担保がされておらず、利用への強い不安の声が上がっています。そのため、多くの医師・歯科医師が、個人的な人脈に頼るか人材紹介会社を利用する等して代診を確保しているのが実情です。
 出産時のみならず、子育てや急な病気・けがの場合など、代診確保は男女問わず医師・歯科医師にとって重要な課題です。
 安心して利用できる代診制度の構築に向け、まずは国として、こうした代診の実態を調査してください。

 

(2) 国保の出産手当金・傷病手当金を法定給付に 

 開業後に出産しようとする医師・歯科医師の多くは、開業して間がなく収入も不安定な時期の出産となります。代診を頼む費用、スタッフの人件費、自身の生活費のための資金が必要となります。病気・けがによる休診時の経済的不安は、男性医師・歯科医師にも共通です。
 国民健康保険法58条では、出産手当金・傷病手当金を任意給付としているため、多くの医師・歯科医師が加入している医師国保組合、歯科医師国保組合では、出産手当金・傷病手当金の給付がほとんど実施されていません。国保加入者は被用者とは異なり、就業の有無や収入の水準が多様で出産や傷病に伴う給付水準の決定が困難なことが、任意給付とされている理由として挙げられることもあります。しかし国民健康保険実態調査報告(平成27年度)によれば市町村国保世帯の5割以上が就業しており、国民健康保険事業年報によれば国保組合の加入世帯数は約140万となっています。これだけの人々が、出産あるいは傷病時に無収入となる経済的不安にさらされていることは看過できません。
 同条を改正し、国保での出産手当金・傷病手当金を、必ず給付しなければならない法定必須給付としてください。

 

二. 開業医師・歯科医師のニーズに合わせた保育の充実

  わが国では共働き家庭が増加し、多様な保育のニーズが非常に高まっています。開業している医師・歯科医師が子育てしながら診療を続ける際にも、通常の保育のみならず、患者の急病時、診察時間の延長時、学会出席などに対応できる保育が必要です。

 

(1) 必要な人が誰でも利用できる認可保育所の増設

 厚労省の発表によれば待機児童の数は2016年10月時点で4万8,000人程度となっており、保育所不足は明らかです。認可保育所で質の良い保育を受けることは子供の権利でもあります。
 国の責任で認可保育所を増設してください。

 

(2) 国の責任での病児・病後児保育の充実

  開業している医師・歯科医師が子どもの発熱時などに急に休診にすれば、困るのは患者です。私たちの行ったアンケートでも、病児・病後児保育拡充を求める声は非常に多くありました。
 病児・病後児保育施設は、当日キャンセルや季節変動などで利用者数が安定しないため経営が難しく、2013年度厚生労働科学研究費補助金「病児・病後児保育の実態把握と質向上に関する研究班」の調査では、運営上の課題として、病児対応型では「利用児童数の日々の変動」65%、「当日キャンセル」50%、「人件費等採算」40%で、病児・病後児対応型のいずれも運営収支は平均値・中央値ともにマイナスでした。職員配置についても、特に病児対応型施設は、現状の基準(病児3人につき保育士1人)では室内感染防止や状態の急変等に対応するのは困難であり、多くが病児2人につき保育士1人と規定より手厚い配置としているのが現状です。
 また、自治体によって利用者助成制度が異なり、病児・病後児施設がなかったり、助成対象を在住者に限っていたりする自治体も多いため、利用に格差・制限が生じています。
 安心して子どもを預けられる病児・病後児保育を国の責任で充実させてください。

 

三. 必要な社会保障財源の確保

 保団連では社会保障に必要な財源確保のために、@健保組合中心に被用者保険の保険料収入を増やす、A法人税課税を先進国並みに高める、B所得に応じた所得税課税を提案しています(別紙参照)。財源がないからと社会保障を削減するのではなく、こうした方法で財源をしっかりと確保してください。

以上