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※全国保険医団体連合会は、2月7日に答申された2018年度診療報酬改定について、下記の談話をマスコミ各社に送付いたしました(PDF版はこちら[PDF:237KB])。

(2018年度診療報酬改定に関する医科談話)
入院評価体系の大幅再編 、「地域包括ケア」で
安上がりな医療提供体制構築を推進するマイナス改定


2018年2月7日
全国保険医団体連合会
副会長 武村 義人

 

1.全体マイナス、医療改善にはほど遠い本体増

  今次改定は、本体を0.55%引き上げる一方、薬価・材料を1.45%引き下げる。また薬価制度抜本改革で0.29%引き下げる。「別枠」部分を含めると全体で1.25%のマイナス改定となる。今回薬価引き下げ分はマイナス1.36%で、前回(マイナス1.22%)よりも0.14%大きく引き下げる。それにもかかわらず、本体にはわずかしか上乗せされていない結果となった。本来、医療機関等の交渉努力などで引き下げられた薬価財源は、本体部分に完全に充当されるべきものである。
 この間取り組まれてきた「地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化・強化、連携」に引き続き重点を置き、医療と介護の「棲み分け」も進められる。医療従事者の負担軽減や、働き方改革の推進、生活習慣病の重症化予防の取り組みなどを重要な課題として掲げ、個別の課題でも、複数医療機関からの訪問診療料の算定を可能としたことやターミナルケアの評価の充実など、高齢化社会に対応した改定や一部地域医療の実態に見合った改定も行われるが、入院医療では更なる機能分化に向けた再編・強化が行われ、在宅・外来・薬局での常時対応等の「かかりつけ機能の評価」などを軸に、安上がりの医療・介護提供体制をつくるものである。これは政府が企業に労働者の賃金3%アップを要請していることと大いに矛盾する。医療現場の疲弊、入院難民の増加など「医療崩壊」の進行が懸念される。
 改定内容の詳細な分析と評価は、正式な告示・通知等を踏まえてあらためて行うが、現時点での主要な特徴と問題点を指摘する。

 

2.「かかりつけ」関連初診料に加算新設で誘導、不十分なプライマリケア評価

 外来医療では、多職種連携、業務の共同化・移管や算定要件一部緩和等で「かかりつけ」関連点数の算定を広げ、地域における患者の受入機能の強化をはかる。地域包括診療料・加算等、在宅時医学総合管理料等(在支診、在支病に限る)届出等医療機関の初診料に「機能強化加算」が新設され誘導が図られるが、一定の機能を有する医療機関のみの機械的評価ではなく、地域医療改善のためには、第一線医療を担う全医療機関の底上げが必要だ。
 「遠隔診療」では「オンライン診療料、オンライン医学管理料」が新設される。緊急時対応等の医療安全管理、情報通信機器の水準、患者の個人情報保護、オンライン診察に対する医学的エビデンスに基づく十分な審議がされていない中、拙速な保険導入はやめるべきである。
 ヒルドイドなど医療用保湿剤については、今後審査で対応する方向性を示したが、次回改定に向け引き続き検討することとされた。必要な医療の保険給付制限は認められない。 また処方箋様式に新たに「分割調剤指示に係る処方箋」が追加される。長期処方が進む中、健康への影響が広がらないか懸念される。投薬では向精神薬多剤処方の制限範囲が拡大される。算定制限は撤回し、必要な薬剤治療まで制約されないようにするべきだ。
 紹介状なしの大病院外来受診の定額負担については、特定機能病院及び許可病床400床以上の地域医療支援病院に拡大する。社会保障審議会でも効果に疑問の声が出されており、受診抑制を利用した外来誘導は行うべきではない。

 

3.維持期リハビリ1年限り方針、実態見据え廃止撤回を

 要介護被保険者等の「維持期リハビリテーション」は、2018年度末までとされ、4月以降は介護保険に移行される方針が示された。しかし「リハビリ専門職の人員確保が困難」、「介護保険でのリハビリは介護報酬低く採算が採れない」など、大量のリハビリ難民を生み出しかねない。そもそもリハビリは医師の指示に基づく医療行為であり、患者の病態に応じたきめ細かな対応をするためにも、移行は中止するべきである。

 

4.在宅に「包括的支援加算」新設―評価の一方で対象外は適正化

 在宅医療については、一般診療所の在宅への参入を促し、複数の医療機関で患者を支え合う方向に誘導する。一方で介護医療院を新設し、介護老人保健施設に準じた報酬設定を行うが、位置づけを「自宅等」とし、報酬設定は低く抑える方向である。また訪問看護については複数施設との連携の強化、24時間対応体制の評価及び強化が図られる。総じて安上がりに患者を管理することが狙われているが、地域における在宅患者の療養を支えていける十分な報酬設定をするべきである。
 在宅患者訪問診療料については、複数医療機関が行う場合の評価の新設が打ち出された。その一方在医総管等に通院困難や特に支援を要する患者に対する「包括的支援加算」が新設される。対象患者は「要介護度」など6項目とされ、対象患者以外は評価が引き下げとなるなど、より在宅の機能分化が進められる。点数の付け替えによる重点評価ではなく、外来同様全体の底上げを行うべきだ。さらに問題となっている単一建物診療患者数の規定が訪問薬剤や訪問栄養にも拡大する。医学管理の内容は変わらないのに人数によって大きく点数差が出るこのような算定方式は撤廃するべきだ。

 

5.入院評価体系を大幅組み換え、患者選別懸念

 入院では、一般病棟入院基本料、療養病棟入院基本料、地域包括ケア病棟入院料、回復期リハビリテーション病棟入院料が、看護体制等による基本部分と看護必要度等の実績部分を組み合わせた評価体系に再編・統合される。
 一般病棟は、10対1看護配置を基本評価とし、重症度、医療・看護必要度(以下「看護必要度」)の患者割合による7段階の報酬区分とする「急性期一般入院基本料」と、15対1看護配置を基本評価とし、看護配置や看護必要度の測定実績による3段階の報酬区分とする「地域一般入院基本料」が設定される。なお、「急性期一般入院基本料」で患者割合の最も高い入院料1は、7対1看護配置を要し、入院料2、3は、7対1病棟からの転換しか認めない。
 療養病棟は、20対1配置が原則とされ、医療区分2・3の割合8割以上が入院料1、5割以上が入院料2となる。25対1配置は医療区分2・3の割合5割以上でも現行点数の10%減額とされ、5割未満なら現行点数の20%減額とされる。25対1配置の最終的な経過措置の終了時期は次期改定時に改めて検討することとしたが、地域における療養病床の役割は重要であり、廃止を撤回し報酬を引き上げるべきだ。
 なお、一般病棟も療養病棟も看護必要度などの指標が報酬評価の大きなウエイトを占めるようになり、「実績」を出すための運営が迫られることとなる。入院医療費の抑制ありきで、このような基準を現場に押し付ければ、患者に必要な医療・看護が確保できない事態にもなりかねない。また「実績」や「結果」に結びつかないと判断された患者の選別が起こらないかが危惧される。このような評価体系の大幅な見直しは、今次改定で拙速に行うべきではない。
 また、回復期リハビリテーションや地域包括ケア病棟も、評価体系が大きく組み替えられる。回復期リハビリテーションは、「アウトカム評価」をさらに推進することとされ、リハビリテーションの実績指数が組み入れられる。15対1看護配置の基本報酬は、現行より 10点引き下げられ、実績指数、重症割合、回復割合、自宅等退院割合、看護や療法士配置によって6段階の報酬区分とされる。また、地域包括ケア病棟入院料の基本報酬も、現行より20点引き下げられ、看護必要度、在宅復帰率、室面積、看護や療法士等配置によって4段階の報酬区分とされる。しかし、アウトカム評価や在宅復帰率などの要件は患者の選別に繋がりかねない。患者の疾患の状態に見合った治療の推進こそ重要であり、これに反するアウトカム評価等は廃止すべきである。
 また、有床診療所は介護連携強化のための要件緩和及び加算が新設されるが、地域医療に果たす役割を積極的に評価し、基本点数を大幅に引き上げるべきである。
 保団連は、必要な医療が提供できるよう、医療関係者、患者・国民と手を携えて、診療報酬の引上げ・改善、患者負担増等の中止をこれまで以上に強く求めていく。

以上