※全国保険医団体連合会は、2月7日に答申された2018年度診療報酬改定について、下記の談話をマスコミ各社に送付いたしました(PDF版はこちら[PDF:148KB])。
(2018年度診療報酬改定・答申に関する歯科談話)
歯科医療機関の差別化をやめ、口腔の健康格差解消のために、
歯科医療費総枠拡大で歯科医療の抜本的打開を
2018年2月7日
全国保険医団体連合会
歯科代表 宇佐美 宏
1.2018年度診療報酬改定率は、昨年12月18日、加藤勝信厚生労働大臣と麻生太郎財務大臣が合意し、本体がプラス0.55%、薬価等を1.45%(薬価マイナス1.36%、材料価格マイナス0.09%)引き下げ、全体では1.19%のマイナス改定とされた。
この間、医療・社会保障費の削減を重点課題とした「経済・財政再生計画」のもと、2016年から2018年の3年間、社会保障費の自然増が毎年5,000億円に抑えられてきた。高齢化に伴う自然増の圧縮財源とされたのが、診療報酬改定と医療・介護の患者・利用者負担増である。
2.全国保険医団体連合会は、今回改定にむけて、診療報酬の本体10%以上の大幅なプラス改定を強く求めてきたが、歯科診療報酬本体は0.69%プラスに止まった。歯科医療経営の厳しい現状を打開し、抜本的に改善するためには余りにも低すぎる改定率と言わざるを得ない。
保団連調査では、歯科診療所の収支差額(月額)の最頻値が、1993年から20年間で約60%も減少する中、昨年発表された「第21回医療経済実態調査」では、人件費など諸経費の削減を行い、なんとか経営を維持している歯科診療所の厳しい実態が浮き彫りになっている。このままでは、経営が立ちゆかなくなる歯科診療所が続出することは明らかである。 さらに、今回改定においても歯科衛生士や歯科技工士の技術と労働が、歯科診療報酬上、正当に評価されておらず、委託歯科技工料問題は放置されたままである。コ・デンタルスタッフの労働を診療報酬上に正当に評価することと、社会的な問題になりつつある技工士の長時間労働・低収入を改善するための処方箋を示すことは、制度を管轄する厚労省としての責務である。
3.今回改定の内容の詳細な分析と評価は、今後の告示や通知を踏まえて改めて行うが、現時点での主な特徴点を指摘したい。
今回の改定では、「地域包括ケアシステムの構築を推進するうえで、かかりつけ歯科医機能やチーム医療を推進する観点からの医科歯科連携」、「患者にとって安全で安心でき、より質の高い適切な歯科医療を提供できるよう、口腔機能の評価・管理や、口腔疾患の重症化予防や生活の質に配慮した歯科医療の提供等」にかかわる項目が盛り込まれた。
個別項目では、▽医科歯科連携や在宅歯科医療の推進にかかわる評価、▽歯科疾患の継続管理などにかかる点数の整理・評価、▽歯科疾患管理料への小児対象の「小児口腔機能管理加算」と高齢者対象の「口腔機能管理加算」、総合的な管理を目的とした「総合医療管理加算」などが新設された。
前回改定で導入された「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所」は、地域包括ケアシステムにおける地域完結型医療推進を目的に施設基準による高いハードルを課し、処置などの包括化と引き換えに、高い点数設定による経済誘導を行った。
今回改定では、継続的管理の実施実績とともに、在宅療養支援歯科診療所や医科、他業種との連携の実績を施設基準に導入し、地域包括ケアシステムへの積極的な参加を要件に盛り込んだ。その結果、「か強診」と、それ以外の診療所の機能分化がより明確になった。今後2025年に向け、歯科においても機能分化がより一層強まり、歯科医療機関が機能毎に分断されるとともに、そうした中で患者の差別化をはかられることが懸念される。
院内感染防止対策が盛り込まれたことは協会・医会、保団連の要求の成果であり評価したい。しかし、初診料・再診料に包括という形で、低評価で、施設基準を伴い導入されたことは問題である。施設基準が未届出の場合は基本診療料が減算されることになったが、患者のニーズにこたえるために、すべての歯科医療機関が実効ある感染防止対策がおこなえるようにすべきであり、減算をおこなうべきではない。実体上見合わない点数で導入し、施設基準で縛り、実施責任を歯科保険医療機関に押しつけることには、断固改善を求める。院内感染防止対策は、すべての歯科医療機関が必要な対策を十分に行えるよう、条件抜きの基本診療料引き上げと独立した感染防止対策の評価が求められる。新たな仕組みの押しつけには反対である。
地域包括ケアシステムへの対応として歯科訪問診療が見直された。さらに外来診療から在宅医療に移る高齢者への対応が図られたが、20分未満の歯科訪問診療料、訪問歯科衛生指導料における「単一建物」の考え方共に大幅なマイナス改定になる。これまで取り組んできた施設への訪問診療や、歯科衛生士による口腔ケアが困難になることが懸念される。
歯科技工関連では院内技工の算定対象が拡大されたが、補綴関連の評価は依然として低く、抜本的解決にはほど遠い内容である。
一方、長年協会・医会、保団連が要求してきた歯科の麻酔薬剤等の算定方法が一般的な薬剤料の算定方法に見直され、▽診療に必要な患者情報の照会についても実態を踏まえた「診療情報連携共有料」の新設、▽施設基準での歯科衛生士等の人員要件についての常勤換算などが今回実現した。
歯科医療の現場の実態に即した項目の引き上げや見直しが行われたことは重要である。
4.全国の協会・医会と保団連は、患者、国民とともに保険で良い歯科医療の実現、診療報酬の大幅引き上げを要求し、厚労省、政党、衆参国会議員、歯科医療関係の団体や学会などに要請、懇談を行い、理解と協力を求めてきた。また、受診実態調査、学校歯科治療調査、要介護高齢者の口腔状況調査、歯科技工所アンケートなどを実施し、歯科医療の実態を告発し、その改善を訴えてきた。さらに、2007年以降、診療報酬改定にむけて2年に一度取り組んだ国会請願署名はのべ約175万筆を集め提出をした。これらの粘り強い運動を通して、2008年度以降では僅かではあるが、毎回の歯科診療報酬の本体部分はプラス改定となっている。
しかし限られた財源のなかでは、歯科医療の危機を抜本的に打開することはできない。危機の最大の要因は、長年にわたる低歯科医療費政策と、窓口負担増による患者の歯科受診抑制・治療中断の増加などの結果である。さらに、格差と貧困が拡大する社会的状況のなかで、子どもから高齢者まで口腔の健康悪化や「口腔崩壊」ともいえる深刻な実態も放置されたままとなっていることも深刻である。
いつでも、どこでも、だれもが、お金の心配をせず、保険でよい歯科医療を充実させるため、歯科医療費総枠拡大と診療報酬の抜本的引き上げが喫緊の課題である。
私たちは、保団連に結集する歯科医師が医科会員とともに、これまでの運動の教訓に学びながら、患者・国民と手を携え、歯科医療の抜本的改善に向け、「保険で良い歯科医療の実現」のための運動をこれまで以上に強く進めていく決意である。
以上