※全国保険医団体連合会では、下記の声明をマスコミ各社に送付いたしました(PDF版はこちら[PDF:507KB])。
【声明】あらためて「ゼロ税率」による抜本解決と、
消費税10%増税の中止を求める
医療機関の損税拡大、窓口負担・保険料の患者負担増は必至
2019年1月20日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇
医療の消費税問題「抜本的解決」には程遠い―ゼロ税率の適用を
自民、公明両党は昨年12月、2019年度与党税制改正大綱(「大綱」)をまとめた。
「大綱」は医療機関の控除対象外消費税(いわゆる「損税」)について、「診療報酬の配点方法を精緻化する」とし、これにより「医療機関種別の補てんのばらつきが是正される」とした。「実際の補てん状況を継続的に調査」し、「必要に応じて、診療報酬の配点方法の見直しなど対応していく」と言及したことや特別償却制度の拡充・見直しなど、医療機関の損税負担に一定の配慮を示してはいる。
しかし、つまるところこれまでの診療報酬での補てん対応の継続であり、昨年度の「大綱」で示されていた「抜本的な解決」とは程遠いとりまとめと言わざるを得ない。
第1に、あくまで医療機関種別のシミュレーションに基づく補てんであり、個別医療機関に実際に生じている損税を完全に補てんするものとはなりえない。「精緻化」を図るにしてもばらつきは必至であり、これでは医療機関間の分断を招じかねない。
第2に、なによりも患者の窓口負担や保険料に消費税対応分が上乗せされることになる。命と健康を保障する保険診療には消費税を課税しないという消費税法の趣旨に反して、実質的に消費税を患者に転嫁するという矛盾は何ら解決されない上、医療者と患者の分断にもつながりかねないものである。
医療の消費税問題に関して、日本医師会は「今回の税制改正大綱をもって『解決』と考えている」との認識を示した。昨年8月、補てん相当額を超過する部分を実質的に還付する「新たな仕組み」を提言した三師会・四病院団体協議会も、一定の評価を示している。
しかし、病院団体中心に「会員の納得が得られない」(全日本病院協会)、「診療報酬での対応には限界がある。今後は、課税の方向も考えなければならない」(日本精神科病院協会)、「診療報酬の補てんによる対応は、医療機関ごとに見ると、まだまだ問題が残っている」(日本医療法人協会)などの声が相次いでいる。
消費税10%への対応を検討していた11月の中医協分科会では、最終的に文書への記載は見送られたものの、「診療報酬での対応は限界」との認識で一致した。自民党税制調査会の宮澤洋一会長は、「大綱」発表の際の会見で、「課税転換をすればいろいろな対応が可能」「課税転換もできないということになると、税における対応は不可能」と説明している。
これらの発言から、形だけの「非課税」を維持したままでは、損税の解消はできないことが共通認識となっていることは明瞭である。
当会は、今回の「大綱」でのとりまとめが医療の消費税問題の抜本的解決になるものではないこと、抜本的解決のためには、医療機関にも患者にも消費税負担をさせることのない「ゼロ税率」の適用以外にないことをあらためて訴えるとともに、医療界において検討を深めていくために力を尽くすものである。
政府は「増税中止」の決断を
政府は、現時点では最終的な判断を留保しつつも、10月からの消費税10%を実施する方針を示している。「大綱」でも「確実に実施する」と強調している。
医療機関の消費税問題が、上記のように抜本的解決から程遠い結果となっている中で消費税増税が行われれば、個別医療機関に生じる損税はさらに拡大することは明らかである。特に、病院団体が強く懸念するように、地域の病院経営への影響は必至である。
これは個々の病院の経営問題であるにとどまらない。病院と診療所が密接に連携し、補完しながら構築されている地域の医療提供体制にも多大な影響を及ぼし、地域の診療所、ひいては患者・住民に及ぶことは明らかである。
加えて、消費税対応として19年10月から診療報酬が0.41%引き上げとなる予定であるが、今回の改定は診療行為の内容・質・量の充実ではなく、単に消費税対応の診療報酬上乗せであり、消費税分を患者や保険者に転嫁させることになる。
いま貧困と格差が拡大し、国民の賃金、消費は相変わらず低迷している。このような中での消費税増税は、国民生活にもさらなる負担を生じさせることになる。複数税率や「景気対策」と称する複雑な仕組みの導入により、消費者と事業者、とりわけ地域の中小の事業者に不安や懸念も広がっている。
個別医療機関の経営や地域の医療提供体制、さらに国民生活と地域経済に多大な困難と混乱をもたらすことは必至である。医療に係る消費税の問題が依然として解決がなされない中、当会は、「消費税増税中止」の決断を、政府に求めるものである。
以上