※全国保険医団体連合会では、下記の声明を厚生労働省及びマスコミ各社に送付いたしました(PDF版はこちら[PDF:234KB])。
【談話】CAR-T細胞療法製品キムリアの薬価算定について
2019年4月5日
全国保険医団体連合会
政策部長(医科) 竹田 智雄
政策部長(歯科) 池 潤
再発・難知性の白血病などに対するCAR-T細胞療法を利用した製品「キムリア点滴静注」(ノバルティスファーマ製品)が、3月27日の中医協総会において、医薬品として薬価算定することが了承された。CAR-T細胞療法は、治療法が確立していない重篤・致死的な疾患に対する治療として期待される一方、キムリアについては米国で5千万円を超える価格がつけられていることなどから、日本での薬価収載が注目されている。
国内初となるCAR-T細胞療法による医薬品として、原価計算方式で算定されることが予想される。米国に倣う形で超高額な薬価が算定された場合、その後、同様の医薬品が開発・承認されたとしても、現行の薬価算定制度の下では類似薬効比較方式により、先行製品の「キムリア」の薬価が踏襲されることとなる。
新薬の薬価算定過程については、算定案を検討・策定する審議は非公開の上、議事録も作成されておらず、算定薬価を決める中医協には審議概要の結果が示されるにすぎない。製造総原価の内訳やその妥当性、加算評価の根拠などがブラックボックスな下で、キムリアに超高薬価が算定される事態が懸念される。
今回の承認に関わる国内での投与対象患者は年250人程度と見込まれているが、適応拡大が考えられる患者数は1万人を超えるとも指摘されている。また、薬事承認に先立つCTL019(CAR-T細胞療法)の稀少疾病用の再生医療等製品の指定に際しては、効能・効果の申請に係る患者数(合計)は指定要件となる5万人未満を超えており、「際どくて悩ましいところにいる」(厚労省)との発言も見られる(薬事・食品衛生審議会再生医療等製品・生物由来技術部会、2016年3月30日、議事録)。
当初の想定より、適応拡大などで患者数が急増した場合、市場拡大再算定により薬価を引き下げることができるものの、最大半額引き下げ(年間販売額1500億円超)に留まる。適応拡大などがされた時点で全て再算定し、半額を超える引き下げも可能とすることが必要である。
米国におけるキムリアの価格については、ノバルティスがCAR-T細胞療法の技術(ウイルスベクター方式)に関わり支払う高額なパテント料や営業利益などが価格に反映され、5千万円を超えているとの指摘もある。他方、CAR-T細胞療法の技術を独自に開発した名古屋大学では100万円以下で製造・治療、CAR-T細胞療法の臨床研究が多い中国では100万円程度で治療実施といった事例も聞かれる。市場規模(患者数)、パテント料や営業利益などの実態やその是非が問われないまま、5千万円の超高薬価を当然視することはできない。
薬剤費の大半が国民の負担する税と保険料、患者負担から支払われる、わが国の公的医療保険制度の下で、高すぎる薬価は許されるものではない。キムリアの薬価算定については、市場規模(患者数)、原材料・開発費用や営業利益はじめ各種コストなどを徹底して精査するとともに、算定に至る経過、議事録や審議資料を原則公開し、算定プロセスを透明化することが必要である。
以上