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※全国保険医団体連合会では、下記の談話を厚生労働省及びマスコミ各社に送付いたしました(PDF版はこちら[PDF:239KB])。

【談話】白血病新薬キムリアの算定薬価について
〜情報開示等に基づく適正な薬価算定を求める〜

2019年5月22日
全国保険医団体連合会
政策部長(医科) 竹田 智雄
政策部長(歯科)  池 潤

 

 再発・難知性の白血病などに対してCAR-T細胞療法を利用した製剤「キムリア点滴静注」(ノバルティスファーマ)が、5月15日の中医協総会において、原価計算方式により3,349万円(1患者当たり)の薬価で収載されることが了承された。投与患者数はピーク時(8年度目)で年216人とされ、72億円の販売金額が見込まれている。

 この間、保団連は、談話(4月5日)などを通じて、CAR-T細胞療法は、治療法が確立していない重篤・致死的な疾患に対する治療として期待される一方、「米国におけるキムリアの価格には、ノバルティスが開発提携先に支払う高額なパテント料などが反映され5千万円を超えているとの指摘がある。名古屋大学や中国では100万円前後でのCAR-T細胞療法による治療実施例が見られる」ことなどについて指摘し、「5千万円の価格水準を当然視すべきではない」と主張してきた。こうした中、キムリアの薬価は、米国価格よりも3割程度低い価格で算定されることとなった。価格が下げられたことは一定評価できるが、それでも国内で過去最高額の薬価である。

 しかも、ノバルティスが薬価算定組織(非公開)に提出した資料(非公開)では、パテント料含め原材料・労務・製造・開発経費など製品総原価(2,363万円)の内訳について、薬価算定組織に対する開示度は最低ランクの50%未満と判定されている。かりに、開示度が最高ランクの80%以上であれば、更に1,000万円以上高い薬価が期待できたにもかかわらず、1,000万円下げてでも開示を拒むということは、2,363万円の総原価も適正ではなく、高い価格が付けられているものと思わざるを得ない。薬価算定組織の坪井正博委員長も「ブラックボックスが大きく、困っている」と述べている。補正加算率を上乗せする係数上の措置がなくても、製薬企業は総原価の内訳などについて薬価算定組織に完全に開示すべきであるとともに、薬価算定組織は議論した内容や資料は原則全て公表することが必要である。

 適応の拡大による医療保険財政への影響も懸念される。毎年、5万人以上が血液がん(白血病、リンパ腫、骨髄腫)にり患する中、各国の臨床試験の状況などからも、今後、適応の拡大が見込まれている。欧州では、大腸がん、中皮腫、神経芽腫など固形がんでの臨床試験も開始されつつあるとも報告されている。適応拡大等で患者数が急増した場合、市場拡大再算定により薬価を引き下げるが、最大25%の引き下げに留まる。今回、「著しく単価が高い」などとして費用対効果評価の対象とされたが、費用対効果が悪いと判定された場合も、最大1割強の引き下げにすぎない。今後も超高額な新薬の登場が予想される中、適応拡大等に十分に対応できる算定ルールへの改善が必要である。
 公的医療保険制度の下、営利企業である製薬メーカーの過度な利潤追求を適正化することは行政の責務である。大学などアカデミアによる独自の安価な医薬品開発への支援も必要である。キムリアについて、情報の開示・公表に基づく適正な薬価算定を求めるとともに、引き続き、本会は公正で透明な薬価制度に向けて取組みを進めていく。

以上