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※全国保険医団体連合会では、下記の要請書をNHK会長、NHK放送総局長、NHK長崎放送局長及びマスコミ各社に送付いたしました(PDF版はこちら[PDF:155KB])。

【要請書】NHK長崎放送局作成の
「『焼き場に立つ少年』をさがして」に関する要請

2019年9月8日
全国保険医団体連合会
非核・平和部長 永瀬 勉

 

 拝啓 初秋の候 ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
 当会は、全国の保険医協会、保険医会が加盟する団体で約10万7千人の医師・歯科医師が参加しています。長崎県保険医協会(以下「長崎協会」と略す)も加盟団体の一つです。

 さて、NHK長崎放送局では、7月26日、「もういちど“長崎の原爆“をみつめる「焼き場に立つ少年」をさがして」を長崎地方にて放送されました。故ジョー・オダネル氏が撮影した写真「焼き場に立つ少年」をテーマにした番組です。同番組は、8月3日に長崎地方にて一部修正の上、再放送され、8月9日には、全国でも放送されました。

 長崎協会は今年6月から、長崎放送局からの要請があり、少年の素性や撮影場所に関する情報について取材を受け、その後も調査に協力してきました。
 しかし、報道された内容は、吉岡栄二郎氏の著書「『焼き場に立つ少年』は、何処へ」に依拠するところが多いにもかかわらず出典の説明が不十分だったため、視聴者に誤解を与えかねないものでした。
 取材に協力した長崎協会は、7月26日に不適切な部分が散見されたため、「要望書」を提出されました。NHK長崎放送局からは、8月8日に回答が寄せられました。

 番組では少年の被爆地点の候補としての「戸石村の牧島の見える港近くの浜辺」は理由もなくカットされました。戸石村は爆心地から10km離れた地点で、少年の被爆地点が戸石村とすると、少年と弟は残留放射線により被爆したことになります。おそらく残留放射線による被爆では被爆者とは認めないという国の方針に配慮したものと思われますが、都合のよい情報は採用し、都合の悪い情報はカットするのはよくないと思います。

 また、7月の放送の中で、少年の被爆した場所に関して重要な住民の証言のシーンでは、住民が話している会話とは異なる「親子で長崎(中心部)のほうに左官の仕事で引っ越した」という字幕が流れていました。この点については、長崎放送局からの回答で、字幕の間違いは聞き間違いとの説明がされましたが、地元長崎で通常は「長崎に行きよらした(行っていた)」を「長崎へ引っ越した」とは聞き間違えたりしないのではないかとのことでした。なお、長崎協会より、この点での訂正を求めていたところ、8月3日の再放送では字幕は「親子で長崎(中心部)のほうに左官の仕事で行っていた」と修正されていましたが、番組内で修正のご説明はありませんでした。

 また、写真のカラー化のシーンで「体中が出血しやすくなっていたと、考えられるからです」と断定的に表現しています。しかし、目に出血の跡の可能性があるからといって、「体中が出血しやすくなっていた」とはいえません。番組内の医師が指摘したのは一般的な出血の可能性です。鼻栓と目に出血の跡の可能性があるからといって少年が銭座町で被爆したとはいえません。さらに、少年の鼻にあるのは鼻栓と断定された訳でもありません。断定できることと断定できないことの峻別を間違えると結論も違ってきます。

 また、「上戸明宏」と長田小学校の卒業名簿の「中村明廣」が同一人物であることは証明されていないのに関わらず、名前が似ているということだけで裏付けもとらずに劇的シーンとして放映するのはいかがなものでしょうか。視聴者は「同一人物」であると勘違いするのではないでしょうか。事実、その後の聞き取り調査で「中村明廣」と「上戸明宏」は別人であると判明しました。

 写真「焼き場に立つ少年」は、原爆の悲惨さを訴える写真としてローマ法王も引用し、来日も控えて、関心も高まっています。貴会が8月の広島、長崎の原爆の日にちなみ、こういう内容を制作・放送されたことの意義は大変重要だと考えます。
 だからこそ、この写真を通じて広島・長崎の原爆・戦争の悲惨さについて理解を深めていけるような番組制作を進めるためにも、今後はもっと「裏付け」「根拠」に基づく正確な報道を求めます。

敬具