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※全国保険医団体連合会では、6月25日に出された生活保護基準引下げ違憲訴訟名古屋地裁の不当判決への抗議として会長声明を発表し、総理、厚生労働大臣、及びマスコミ各社に送付いたしました。(PDF版はこちら[PDF:152KB]

【声明】コロナ危機の今こそ生存権保障を
生活保護基準引下げ違憲訴訟名古屋地裁の不当判決に抗議する

2020年7月17日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

 

 国は2013年から3回にわたって平均6.5%、最大で10%もの生活保護基準引き下げを行いました。この引き下げが憲法25条の「生存権」に違反する違憲違法であるとして、全国29都道府県で1,000人以上の人が引き下げ処分の取り消しを求め裁判を行っています。6月25日には、名古屋地裁で全国初となる判決が出されましたが、原告の請求をすべて棄却する不当なものでした。
 裁判を通じて、国が生活扶助基準引き下げの根拠とした「デフレ調整」、「ゆがみ調整」に大きな問題があることが明らかとなりました。特に「デフレ調整」は「物価偽装」と指摘されるほど恣意的なものとなっており、生活保護基準の専門的評価・検証を行っている厚労省社会保障審議会生活保護基準部会の意見も聞かずに独断で採用されたものでした。しかし、名古屋地裁判決は、厚生労働大臣の裁量の範囲を広く認め、これらの問題を裁量の範囲として許容しました。
 さらに判決は、基準引き下げに自民党の政策が影響した可能性を認めた上で、「自民党の政策は、国民感情や国の財政事情を踏まえたものであって、厚生労働大臣が生活扶助基準を改定するにあたり、これらの事情を考慮することができることは(略)明らかである」としました。国民の健康で文化的な最低限度の生活を決める生活保護基準が、政権与党の思惑で、「国民感情」や国の財政状況によって左右されても構わないという本判決は、法に基づき行政をチェックし歯止めをかけるという司法の役割を自ら放棄するものと言わざるを得ません。まさに現政権への忖度であり、司法権の献上そのものです。
 今もなお続く新型コロナ感染拡大の下で雇用や営業、暮らしが悪化し、今年4月の生活保護申請は前年同月にくらべ約25%も増加しています。まさに国民の生存権が脅かされる事態となっており、生活保護制度の役割が増しています。また、生活保護基準は最低賃金や税・保険料の減免など様々な制度に連動しており、国民生活全般に影響を与える暮らしの土台とも言うべき制度です。国民生活の不安が増している今、生活保護制度の拡充こそが求められています。
 新型コロナ感染拡大の下で、検査体制の不足、病床の不足、人手の不足、マスクや消毒液の不足など、医療・介護現場は崩壊の危機に直面しました。それだけでなく、雇用、教育、保育など国民生活の様々な場面で矛盾が噴出しています。これは政府が「効率化」、「制度の持続性」、「自己責任」といった言葉で国の責任を後退させ、社会保障費を抑制し、社会を脆弱化させた結果と言えます。生活保護基準引き下げもまさに政府の社会保障費抑制政策の流れの中で行われました。
 私たちは、全国の生活保護基準引下げ違憲訴訟において、国による生存権保障の立場から司法の判断が下されることを強く求めます。また、政府に対し、コロナ危機の今こそ国民の暮らし、命、健康を守るために、患者負担増などの社会保障制度の改悪を止め、社会保障充実の政策へ転換することを求めます。

以上

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