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※全国保険医団体連合会では、7月17日に閣議決定された「骨太の方針2020年」について、会長名談話を発表し、総理及びマスコミ各社に送付いたしました。(PDF版はこちら[PDF:200KB]

【談話】コロナ危機を教訓に、政府は医療費抑制路線とは決別すべき

〜「骨太の方針2020」について〜

2020年7月21日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

 

 政府は7月17日、2020年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。新型コロナウイルス感染拡大を通じて、30年以上に及ぶ医療・社会保障費抑制の下で弱体化された医療・社会保障の深刻な状況が改めて明らかになったにもかわらず、引き続き患者・利用者負担増を進める「骨太の方針」2018・2019を着実に進めるとした上、更にはポストコロナ時代の「新たな日常」の実現を謳い文句に、低医療費・医療費抑制を念頭に医療提供体制の再編・構築を図ろうとしていることは極めて重大である。

 緊急を要する医療機関への経営支援策について、「医療機関・薬局の経営状況等も把握し、必要な対応を検討し、実施する」として、具体策は明記されていない。受診控えなどにより4月の保険診療収入(支払基金)は診療所で20%減、半減近い診療科もあり、5月以降も厳しい状況が続いている。患者の疾病・健康状態の悪化も危惧される。コロナ治療と平時医療の確保に向けて、政府は感染防護具等の迅速な供給に努めつつ、患者・国民に必要な受診を促すなど政策対応を図るとともに、減収額に応じた医療機関への診療報酬の概算払いなど実効性のある財政措置を講じるべきである。

 コロナ危機は、平時より余裕のある医療提供体制が必要なことを痛感させた。医療従事者の協力や病床・医療機器の利用等を「調整する仕組み」の構築、「感染症への対応の視点」による地域医療構想の手直しなどに留めず、急性期病床等の削減や病院の再編・統合は直ちに中止し、保健所の増員も含め、これまでの医療従事者養成のあり方を抜本的に問い直すべきである。

 「新たな日常」に対応した医療、予防・健康づくりとして、「診察から薬剤受取までオンライン(診療)で完結する仕組み」の構築や、スイッチOTC化の拡大も見据えた「一般用医薬品等の普及などによるセルフメディケーションを推進」などが示されている。あくまで、医療は対面診療を基本とすべきであり、オンライン診療やスイッチOTC化などについては明確なエビデンスに基づき、医療の質・安全、安心が十分に担保されることが不可欠である。初診からのオンライン診療については医療事故の増加が強く危惧されるなど、恒久化すべきではない。
 医療界が見送りを強く求めた中間年の薬価調査・薬価改定では、薬価調査は実施した上で、薬価改定は「コロナウイルス感染症による影響も勘案して、十分に検討し、決定する」としている。コロナ下で適正な実勢価格の把握は困難であるだけでなく、第2・第3波に備え医療機関への支援に全力を注ぐことが急務であり、少なくとも今回の薬価調査は中止すべきである。

 また、国民の健康に影響を及ぼす雇用・働き方に関わって、「新たな日常」に対応した「新しい働き方」などとして、低賃金、長時間労働や不安定な働き方の拡大につながるテレワーク、兼業・副業の促進やジョブ型雇用への転換などを進めていく方向性が示されている。働く者の心身が更に損なわれていく危険があり、医療者として看過しえない。

 コロナ危機の下、世界では、医療・社会保障を脆弱化させるとともに、一握りのグローバル企業、超富裕層・大資産家に富を集中・独占させてきた新自由主義の誤りを指摘する声が広がりつつある。政府は、医療費抑制路線とは決別し、医療・社会保障の充実による所得再分配機能の強化、安定した正規雇用を基本に据えた環境整備、応能負担を徹底した税財政など、誰もが安心して暮らせる社会に向けて抜本的な政策転換を図るべきである。

以上

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