※全国保険医団体連合会では、乳腺外科医裁判の不当判決に対し下記の抗議声明を発表し、マスコミ各社に送付いたしました。(PDF版はこちら[PDF:126KB])
【声明】乳腺外科医裁判の不当判決に抗議する
2020年8月9日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇
東京高裁は7月13日、女性患者への「準強制わいせつ罪」を問われていた東京・病院勤務の乳腺外科医に対する控訴審の判決において、東京地裁での無罪判決を破棄し執行猶予なしの懲役2年の実刑判決を下した。
この事件は、2016年に自らが執刀した右乳腺腫瘍摘出手術の術後の診察時、患者の左胸をなめたなどとして外科医が逮捕・勾留されたが、一審の東京地裁では客観的証拠不十分で無罪判決となったものである。
今回の判決では、「せん妄」の専門家である医師の「幻覚であった可能性が高い」という証言を退け、専門家ではない検察側の医師の証言とカルテにせん妄の記載のないことなどを持って、せん妄による幻覚の可能性を否定した。「証拠が十分であるとは言えない」とした一審の評価は誤りであり、患者の証言を「直接の証拠として強い証明力を有する」と位置づけ、「本件当時の精神状態をせん妄による幻覚として説明することは困難」とした。さらに、DNA鑑定の結果について「科学的な厳密さの点で議論の余地がある」としながら、「検証可能性の確保が科学的厳密さの上で重要であるとしても、これがないことが直ちに本件鑑定書の証明力を減じることにはならない」とした。
科学的な証拠が不十分であっても、有罪の可能性がわずかでもあれば有罪であるという判決は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事訴訟法の原則の否定であり、あまりにも不当で許し難い判決である。
科学的な証拠が曖昧にも関わらずこうした有罪判決が広がれば、医師にとって常に訴訟のリスクと隣り合わせにさらされ、手術や診療を安心して行うことはできない。国民にとっては必要な医療を受けることが困難な状況になりかねない。
我々は、東京高等裁判所の今回の不当判決に強く抗議する。
以上