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※全国保険医団体連合会では、下記の要望書を発表し、総理、財務、新型コロナウイルス感染症対策担当大臣、厚生労働大臣及びマスコミ各社に送付いたしました。(PDF版はこちら[PDF:342KB]

【要望書】新型コロナ感染症対策要望書

新型コロナウイルス感染症拡大を阻止し、国民の命と健康を守るため、
第3次補正、21年度予算案を大幅に組み換え、医療・歯科医療、介護・障害者福祉の
確保を求める

2021年1月18日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

 

 新型コロナウイルス感染症が急激に拡大する中で、医療供給体制は全国各地でひっ迫の度合いを増し、国民の命と健康が脅かされている。
 こうした事態を招いた大きな原因は、全ての感染者を把握・保護するために必要不可欠な検査体制の拡充や、医療供給体制の抜本的な拡充と財政支援といった積極的な対策を渋り、感染が広がっているにもかかわらず「Go-Toトラベル」や「Go-Toイート」を強行に推し進めたことにあり、菅政権の失政に他ならない。
 また、OECD諸国と比べて少ない医師数の抑制、保健所の削減、急性期病床の削減など歴代政権による医療費抑制政策が、状況を更に悪化させている。
 ところが菅政権が1月18日からの通常国会に提出予定の「第3次補正」では、一般会計の追加歳出は21.8兆円だが、感染拡大防止策は総額で4.4兆円しかなく、地方創生臨時交付金の追加やコロナ対応を行う医療機関向に対する緊急包括支援交付金の拡充が盛りこまれたものの、医療機関の減収補填はなく、PCR検査の拡充に必要な全額国庫負担の予算もない。
 しかも、持続化給付金や家賃支援給付金は打ち切られる一方で、「Go-To」キャンペーンは6月末まで実施するとして1兆826億円を計上している。さらに、経済構造の転換、生産性向上と称して大企業を中心とした施策・支援を11.7兆円も計上。兵器購入の前払い経費すら押し込んでいる。
 また2021年度予算案も、社会保障予算は高齢化に伴う自然増すら大幅に削減している。
 今年に入り、感染者数や重症者数も過去最高を更新し続けている。感染力が強いとされる変異ウイルスが国内で相次いで発見されており、今後さらなる感染爆発も懸念されるなど、3次補正編成時とは比べ物にならないほど、状況が悪化している。
 国民の暮らし、いのちと健康を守るためには、3次補正や21年度予算案を大幅に組み替え、休業や時短を要請する事業者への十分な補償、コロナ禍で仕事を奪われた労働者や倒産・休業を余儀なくされた事業者への支援策の継続・拡充を行うとともに、医療・歯科医療、介護・障害者福祉サービス事業者に対して、次の事項の実現を強く求めるものである。

1.新型コロナウイルス感染症患者の治療はもちろん、コロナ以外の病気の治療体制を整備することは国民の命と健康を守る上で、大変重要である。このため、すべての医科・歯科医療機関、介護・障害者福祉サービス事業所等の経営破綻を阻止すること

1-1.

医科・歯科すべての医療機関について

@ 実質的な減収を補填する財政支援を緊急に行い、少なくとも感染拡大による損失(赤字)が生じないようにすること。これまでの包括支援交付金を来年度も基本的に継続すること。申請窓口を国にし、速やかな支給を図ること。
A 2次補正予算の空床補填、感染防止対策補填、慰労金等を速やかにもれなく支給すること。3次補正での感染拡大防止等補助金を増額し、簡便、迅速に給付すること。
B 感染拡大局面において、医療・歯科医療に携わるすべての従事者を対象に、改めて慰労金(感染拡大特別手当)を支給すること。
C 感染拡大防止等支援事業は、対象拡大とともに金額を2倍化し継続すること。
D 雇用調整助成金の特例措置、持続化給付金、家賃支援給付金制度を継続し、支給要件を緩和すること。持続化給付金は事業規模に応じた金額とすること。
E 自治体独自の医療機関への支援策拡充のため、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を増額すること。
F 感染症対策のための取り組みを評価し、初診料・再診料、訪問診療料、入院料等を緊急に引き上げること。新設された小児への加算点数については歯科を医科並みに引き上げること。2021年4月からの初・再診料、入院料の加算点数を大幅に引き上げること。特例的な診療報酬引き上げは、患者負担増とならない措置を講じること。
G 今後の感染拡大による減収に対して、迅速、簡便な減収補填策として昨年4月以前の診療実績をふまえた診療報酬の概算払いを希望する医療機関に認めること。

1-2.

介護や障害者福祉サービス事業所についても、上記に準じた対応を図ること。

1-3.

新型コロナウイルス感染症患者の入院治療等を担う病院が赤字にならないよう、また、新型コロナウイルス感染症患者に対応する職員の尽力や身体的・精神的負担に報いることができるだけの給与・賞与が十分に支払えるよう、必要な財政支援を行うこと。感染防護具・衛生材料等の確保についても国・自治体で援助すること。

1-4.

新型コロナウイルス感染症患者を受け入れていない医療機関等でも、新型コロナ感染症拡大によって職員の勤務や患者の受診状況が大きく変化し、施設基準要件を満たせない状況が生じている。新型コロナウイルス感染症が収束するまでは、「緊急事態宣言」の有無にかかわらず、全ての医療機関の既届出施設基準について、当該施設基準を満たしているものとして取り扱い、適時調査再開時に自主返還の対象にしないこと。

2.新型コロナウイルス検査体制を抜本的に拡充すること

2-1.

保健所等が担ってきた相談・検査体制を縮小したり、民間医療機関に丸投げせず、新型コロナ感染症に対応する保健所等の人員と予算を大幅に増やし、全国どこでも相談・検査が実施できる体制を構築すること。

2-2.

PCR検査、抗原検査等の検査料及び判断料を全額公費負担とした上で、公費請求額を大幅に引き上げ、検査を実施する医療機関の尽力が報われるようにすること。また、医師の自己診療を認め、周知すること。なお、すべての保険医療機関を「行政検査に関する委託契約を締結した」とみなし、希望する保険医療機関が医師の判断でPCR検査及び抗原検査を実施し、公費請求できるようにすること。

2-3.

病院や介護・福祉施設でのクラスター防止に向け、下記の対象者に新型コロナウイルス検査を公費負担により必要に応じて適宜実施できるようにすること。

@ 医科・歯科医療機関及び介護・障害者福祉サービス事業所などの、全ての職員
A 入院患者及び入所サービス利用者(予定者を含む)
B 手術や胃カメラなど感染の危険性が高いと想定される行為の予定患者

2-4.

地域の医師・医療従事者が協力して検査を行う「地域外来・検査センター」を増やすこと。そのため、設置・運営費用について、国が全額を負担し、出務する職員等に十分な給与・出務費を保障すること。

3.発熱外来への補助金等について

3-1.

発熱外来に対する補助金制度を抜本的に改善し、最低給付額を設けるとともに、診療・検査を行った数に対する補助金を設けること。少なくとも、「診療・検査対応時間」において通常の患者を診察した場合に、「発熱外来診療体制確保支援補助金」を減額する取り扱いを止めること。

3-2.

職員への危険手当の制度化や、感染した場合の休業補償、損失補填を行うこと。

3-3.

インターネット等を通じた医療機関名の公開は、希望する医療機関に限ること。

4.医療機関や医療従事者等への誹謗中傷・風評被害や、コロナ陽性患者に対する誹謗中傷を根絶するため、医学的根拠に基づいた広報や教育の実施等、これまで以上に対策を講じ、医療機関や医療従事者への誹謗中傷・風評被害を根絶すること。

5.一般診療や、介護・障害者福祉サービス継続のための緊急対策を実施すること

5-1.

マスク、消毒液、ディスポーザブルのガウン、ゴーグルやフェイスシールド、手袋などの感染防護具等を確保し、医療・介護現場に供給すること。

5-2.

受診抑制は、国民の健康に悪影響を及ぼしている。「第3波」下で受診控えが拡大しないよう、感染予防・疾病の重篤化予防の大切さ、医療機関は感染対策を徹底していることなどを紹介しながら、国、行政によるテレビ、新聞、ネットなども活用した受診、予防接種、健診を呼びかける広報活動を行うこと。

5-3.

75歳以上の窓口負担2割導入と紹介状なしでの病院受診時定額負担の拡大、介護保険利用料の引き上げを行わないこと。低所得者及び収入が減少した世帯の医療保険・介護保険の保険料・患者負担・利用者負担の徴収を直ちに免除すること。また、特に妊産婦や子どもの受診抑制をなくすためにも、中学生までの子どもの窓口負担無料制度と、妊産婦の窓口負担無料制度を国の制度として創設すること。

5-4.

通常の国保証をすべての加入者に届け、国保資格証明書の交付を止めること。

5-5.

無保険者をなくすこと。当面無保険者であっても通常の医療が受けられるようにし、受療案内を徹底すること。

5-6.

生活保護審査を簡素化するとともに、保護要件を大幅に緩和すること。

6.新型インフルエンザ等対策特別措置法及び感染症法の「改定」について

 政府は、感染症法を改正し、入院勧告を拒否した感染者に対し刑事罰を含む罰則規定を盛り込み、軽症者の自宅・宿泊療養の義務化などを検討している。また、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく休業・時短要請を拒否した場合の罰金(罰則)を盛り込むことも検討している。しかし、罰則を強化すれば検査を受けなくなる感染者等が増加する危険性が高く、かえって市中感染が拡大する危険性がある。安易な罰則規定は盛り込むべきではない。そもそも特措法に基づく休業・時短要請に実効性を担保するためには、罰金(罰則)の導入ではなく、事業者への十分な補償を実現すべきである。
 また、入院・宿泊療養がひっ迫し、入院できない感染者(待機者)が続出しているが、報道によると政府は、感染症法改正(案)に、厚生労働大臣や知事が医療機関に協力を勧告できる規定を設け、勧告に応じない医療機関を公表できる規定を盛り込むことを検討しているとされている。しかし、こうした状況を生み出した大きな原因は、公的・公立病院の統廃合を促進するとともに、効率化の名のもとに診療報酬を抑制し、民間病院にはギリギリの病床数や人員で経営せざるをえなくしてきた公的医療費抑制政策である。
 新型コロナ感染症患者を受け入れられない医療機関も、新型コロナ感染症以外の治療を必要とする患者を沢山抱えている。新型コロナ感染症患者を受け入れればこうした患者から必要な医療を奪うことになりかねず、医療機関は苦渋の選択を強いられる。協力要請はともかく、医療機関を公表するような強制的・強権的な政策は、新型コロナ感染症対策とは真逆の悪政であり、絶対に導入すべきではない。
 政府がとるべきは、こうした政策を反省し、@新型コロナに対応する医療機関や医療従事者に十分な財政的補償を直ちに実施すること、A公的・公立病院の統廃合を直ちにやめ、拡充すること、Bコロナ以外の医科・歯科の治療体制を拡充するために、全ての医療機関の実質的な減収を補填することである。

7.感染症対策の抜本的強化

7-1.

新型コロナウイルス感染症治療薬やワクチンは、国として有効性・安全性をしっかりと検証するとともに、有害事象が発生した場合の補償・治療をしっかりと行うこと。

7-2.

コロナ禍によって日本の社会保障制度の脆弱性が露呈された。充実した社会保障こそ、感染症対策の基本である。すべての人が必要な医療・歯科医療、介護・福祉サービスを受けられるよう、社会保障を抜本的に拡充すること。

7-3.

公立・公的病院等の再編統合、急性期病床を中心とする病床削減計画を直ちに中止すること。医療供給体制を弱体化させる地域医療構想の検討は直ちに凍結し、地域医療構想を前提とした医師・看護師需給計画を抜本的に見直すこと。少なくともOECD平均に遜色のない医師数を確保するため、公的責任で必要医師数の養成を行い、医師不足の解消を図ること。看護師をはじめとした医療従事者の養成に公的責任を果たすこと。

7-4.

保健所及び地方衛生研究所の数・体制・予算等を強化し、公衆衛生行政の確立を図ること。

7-5.

国立感染症研究所の機能強化を行うこと。日本版CDC(疾病予防管理センター)を創設し、感染症に対応できる仕組みを構築すること。

以上

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