※全国保険医団体連合会では、下記の要望書を発表し、厚労大臣、関係部局及びマスコミ各社に送付しました。(PDF版はこちら[PDF:195KB])
【声明】医療法改正案の衆議院本会議での採決に抗議する
2021年4月12日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇
「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」(以下、医療法改正案)が4月8日、衆議院本会議にて可決された。
医療法改正案は、医師の働き方改革、タスクシフトや医師養成課程の見直し、新興感染症と医療計画、地域医療構想、外来医療のあり方など広範囲に及ぶテーマで構成されており、個々の改正内容について十分に時間をとった審議が求められている。しかし、厚生労働省職員による送別会問題により審議時間が削られた上、委員会での実質的な審議は参考人質疑含めわずか3日間である。更に、新型コロナウイルス感染症に関わるワクチンや第4波に対応した医療提供体制の確保に委員会審議が大きく割かれるなど、法案内容の審議自体が不徹底なことは明らかである。
医療法改正案は、コロナ危機を通じて、平時より余力を伴った医療提供体制の確保、充実・強化が求められているにもかかわらず、医学部定員数を削減する政府方針を前提に、医師以外への職種への負担シフト、受診行動の変容・抑制や病床・病院の整理・削減を進めるなど、逆に医療提供体制を縮小・弱体化を進める内容となっている。
また、法案提出にあたり、医師の長時間労働に鑑みて負担軽減を図るとしつつも、過労死ラインの長時間労働などを容認した医師の需給推計が前提に置かれているなど、法案提出の前提自体に対して強い疑問を抱かざるを得ない。
特に、コロナ危機により、病床、医療従事者や医療機器等の不足が明らかになっているにもかかわらず、消費税財源(全額国庫負担)を使い病床削減を進めていくことを法制化することは本末転倒と言わざるを得ない。
医療計画に新興感染症等の感染拡大時での医療確保を位置付けるとしているが、この間の保健所、感染症病床の大幅な削減などに対する国の反省は見られない上、コロナ患者受け入れに大きな役割を果たしてきた公立・公的病院に対して再編統合を求める436病院リストは撤回すらされていない。感染症の蔓延時には多大なマンパワーや資材などを要するが、対応の要となる医療従事者の育成・確保はじめ、施設の整備・改修、医療資材・機器等の供給・備蓄や医療機関の経営補償などにおける国の責任・支援は不明瞭であり、都道府県や医療現場に医療確保に係る対応・責任が押し付けられかねない。
政府が強調する医師の働き方改革についても、2024年度の本格開始に向けて、地域での医師の確保に向けた施策、研修医等の労働時間短縮や大学院生等の「無給医」問題の解消に向けた具体的施策など議論は殆ど深められていない。かえって、過労死ライン(年960時間)以上を認める労使協定が大幅に増えている実態が指摘されるなど、年1860時間の時間外労働を追認する転倒した事態になることさえ危惧される。
政府、厚労省は、医師養成数の削減を進める方針は撤回し、医療従事者の抜本的増員・確保などに政策転換すべきである。医療法改正案については、参議院では徹底的に審議した上、抜本的な修正を図るよう強く求めるものである。
以上