※全国保険医団体連合会では、下記の声明を発表し、総理及びマスコミ各社に送付しました。(PDF版はこちら[PDF:319KB])
【談話】コロナ危機踏まえ、医療費抑制政策とは決別すべき
〜「骨太の方針2021」について〜
2021年6月18日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇
政府は6月18日、2021年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。社会保障関係費については、2022〜24年度までの3年間について、引き続き「実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す方針」を継続するとしている。長年に渡る医療費抑制政策により疲弊した医療現場に、新型コロナウイルス感染症が直撃し、医療・社会保障の脆さが浮き彫りになっているにもかかわらず、これまで同様に制度改悪を進める政府の姿勢は到底認められるものではない。
コロナ医療対策支援では、コロナ患者を受け入れる医療機関に対して、「減収への対応を含めた経営上の支援や病床確保・設備整備等のための支援について、診療報酬や補助金・交付金による今後の対応の在り方を検討し、引き続き実施する」としたが、具体的な支援策は示されていない。また、「感染症を踏まえた診療報酬上の特例措置の効果を検証する」としており、コロナ非対応とされる医療機関への支援の継続は不透明である。地域医療は全ての医療機関が一体となり面で支えている。全ての患者が地域で安定して医療を受けられるよう、全ての医療機関に対する財政支援を継続・強化すべきである。
感染症に対し強靭で安心できる経済社会を構築するとしつつも、この間大幅に削減されてきた保健所について増設・増員など体制強化は示されていない上、コロナ患者を多く受け入れてきた公立・公的病院について、再編統合を求める436病院リストの修正すら示されていない。そればかりか、「包括払い」も活用した病床・病院削減の推進、他職種への業務負担転嫁や医師等の早期養成などを通じて、医療提供体制を縮小再編し「効率的」な体制を整備することで、感染症急増時も迅速に対応するよう、自治体や医療現場に求めていく構えである。人員・人材不足や病床・設備未整備などを露呈させたコロナ禍の教訓に学ばないばかりか、医療アクセス悪化や病院統廃合による地域社会の荒廃を進めるとともに、医療現場を更に疲弊させていくものと言わざるを得ない。
また、「かかりつけ医機能の強化・普及」を掲げる一方、OTC薬に類似した既収載薬の給付制限・給付外しなど患者負担増を求めている。更に、初診からのオンライン診療を恒久化した上、医師の診察を事実上薬剤師(薬局)に委ねるリフィル処方箋を導入するよう求めている。良質なプライマリ・ケアはじめ日常医療を提供する「かかりつけ医」機能の充実・強化に逆行するものであり認められない。平時より初診からオンライン診療を実施してもよいとなれば、医療安全の確保に多大な支障を来すのみならず、対面での身体所見に基づく診断が根底から形骸化・否定され、医療そのものが変容しかねない。オンライン診療はあくまで対面診療の補完に留めるべきである。
世界では、一握りの大企業・富裕層に富を集中させてきた新自由主義の誤りを指摘する世論が広がり、大企業減税競争の先頭に立った米国、英国政府が、法人税や金融資産課税を引き上げるなど具体的な改革案を示し始めている。政府は、医療費抑制政策とは決別し、医療・社会保障の充実による所得再分配機能の強化、安定した正規雇用を基本に据えた労働環境整備、応能負担を徹底した税制改革など、誰もが安心して暮らせる社会の構築に向けて抜本的な政策転換を図るべきである。
以上