ホーム


国保・資格証明書被交付者の受診率は極めて低いことが判明--保団連調査


  資格証明書が滞納世帯の受診率を著しく抑制(2003年度)

  ○福岡県  → 一般被保険者受診率の100分の1程度

  ○神奈川県 → 一般被保険者受診率の25分の1程度


 保団連は、資格証明書で受診した場合に医療機関から都道府県国保連合会に提出された「特別療養費」届出数(2003年度分)を調査し、そのうち届出数が把握できた17都府県について資格証明書の交付を受けた被保険者の受診率を推計した。なお、8県からは、集計していない、公表できない等との理由で把握できなかった。残る22道府県については現時点では把握できていない。

 その上で、推計した受診率を、国保中央会が発表した市町村国保「一般被保険者」の受診率(退職被保険者分や老人医療分に比べ、最も受診率が低い)と比較した。なお、市町村国保「一般被保険者」の受診率は、最新の『国民健康保険の実態』(国保中央会

 2004年3月刊)にまとめられた2002年度のデータを用いた。

1 受診率の意味

 国保中央会が毎年発表する受診率は、国保被保険者100人当りの年間レセプト件数を意味する。

 資格証明書で受診した場合は、「特別療養費」届出数がレセプト件数に当たる。(通常のレセプトに「特別療養費」と朱書して国保連合会に提出する)

 また、資格証明書の交付を受けた被保険者数は、資格証明書交付世帯数(2003年6月1日現在数 厚生労働省 資料参照)を年間平均値とみなし、これに、各都道府県ごとの国保加入世帯1世帯当たりの平均被保険者数を乗じて推計した。

 これらの数値をもとに、資格証明書の交付を受けた被保険者の受診率(推計)は、「資格証明書の交付を受けた被保険者100人当たりの年間特別療養費件数」として得られる。

  

2 結果の概要

 資格証明書の交付を受けた被保険者の受診率(推計)は、一般被保険者の受診率に比べてさえ著しく低いことが判明した。(詳細は「一覧」参照 別紙A)

 資格証明書で受診する場合は、「療養の給付」(現物給付)の扱いから除外され(国保法36条1項)、患者は医療機関窓口で医療費の10割分を支払わなければならない。後日、保険給付分を「特別療養費」として保険者に請求し、償還を受ける(療養費払い)。

 資格証明書交付世帯が最も多い福岡県では、資格証明書を交付された被保険者の受診率は、一般被保険者受診率の100分の1程度である。福岡県に次いで交付世帯数の多い神奈川県では25分の1程度、3番目に交付世帯数の多い千葉県では30分の1程度となっており、必要な療養がほとんど抑制されていると言って過言ではない。

3 滞納対策の問題点

1)資格証明書の交付は収納率向上につながっていない

 資格証明書の交付は、国保保険料(税)の滞納対策として打ち出されたが、資格証明書の義務的交付が開始された2001年度以降、滞納世帯は増加の一途をたどっており、資格証明書の交付が収納率向上に奏功していないことは明らかである。自治体担当者からは、「資格証を出された加入者は、国保制度や行政に対して不信を持ってしまい、かえって保険料を払わなくなる」との声も聞かれる。

  参考:国保加入世帯に占める滞納世帯割合(市町村国保 厚生労働省調べ)

      2000年度(17.5%)

      2001年度(17.7%)

      2002年度(18.0%)

      2003年度(19.2%)


2)年々引上げられる保険料(税)水準に滞納世帯増の原因がある

 国保加入世帯は、無職世帯主が5割を突破し、「所得なし」世帯が26.6%に達する等、低所得者層及び高齢者層が多いという構造的な問題を抱えている。従って、社会保険加入者・生活保護世帯等を除き強制加入である国保制度は、保険料負担に耐えられない層の存在をもともと前提にしている制度である。保険料は低所得者でも払える程度の額であること、払えない者には軽減措置(法81条の法定減額、法77条の申請減免)が所得の実態に即して適用されるべきものである。

 しかし、所得の減小にも関わらず保険料(税)は年々引上げられており、保険料率(所得に占める保険料(税)の割合)は2002(平成14)年度は8.23%と、ついに8%を超えるに至っている。健保組合の保険料率は4.6%(2001年度)、政府管掌健保は6.7%であり、国保の保険料(税)水準は異常に高い。

  参考:保険料率(所得に占める保険料(税)の割合)の推移

              (厚生労働省・国保中央会資料より)

     1971(昭和46)年 2.72%

     1975(昭和50)年 3.53%

     1990(平成02)年 6.03%

     1995(平成07)年 6.45%

     2000(平成12)年 7.56%

     2002(平成14)年 8.23% → 初めて8%を超える

 その結果、「払いたくても払いきれない保険料」の実態が広がっており、これを無視した資格証明書の交付は、滞納世帯から医療を奪う結果のみをもたらしていると言える。ちなみに、加入世帯の26.6%を占める「所得なし」世帯からも、1世帯当たり26,142円(年)もの保険料(税)を徴収している。(2002年度 厚生労働省調べ)

                         

4 まとめ

 資格証明書の交付は滞納対策として実施されているが、義務的な交付が開始されて以降においても収納率向上につながっていないことは明らかであり、著しい受診抑制をもたらしている。また、国保の保険料率は、他の医療保険に比べて異常に高く、「払いたくても払いきれない保険料」の実態が広がっている。

 国保法はその目的で「社会保障及び国民保健の向上に寄与する」(第1条)と定めており、現物給付を本旨としている。従って、「滞納対策」と「国保加入者の療養を確保すること」とは別個の問題として扱い、滞納対策として資格証明書を交付する措置はただちにやめるべきである。 

 また、国保の保険料率を他の医療保険なみに引き下げることが、滞納問題の解決に不可欠である。

 併せて、厚生労働省として資格証明書の交付を受けた被保険者の受診実態を明らかにすることを求めたい。      


資格証明書被交付者の受診率(推計)一覧

保団連推計 国保中央会データ
資格証被交付者 受診率(推計) 一般被保険者(市町村国保)受診率
2003(平成15)年度 2002(平成14)年度
医科入院外 歯科 合計 医科入院外 歯科 合計
岩手県 16.567 3.221 612.796 102.968 739.781
福島県 17.997 2.972 21.553 556.56 101.291 680.237
群馬県 3.525 21.593 551.496 110.799 680.772
千葉県 3.68 22.188 506.953 123.256 645.006
東京都 4.135 20.581 560.443 139.091 713.74
神奈川県 21.225 5.331 542.065 128.371 685.432
長野県 10.336 0.904 11.37 536.32 113.021 669.106
愛知県 2.607 18.267 568.226 133.783 718.396
京都府 5.375 562.895 126.338 706.21
大阪府 8.391 2.219 574.436 132.896 723.9
奈良県 9.873 1.519 11.392 563.952 126.902 707.579
和歌山県 13.439 2.366 * 620.547 115.95 756.361
福岡県 1.536 7.169 553.019 116.887 695.382
佐賀県 17.583 3.398 20.981 558.968 108.779 694.446
熊本県 1.673 11.9 562.975 99.461 689.541
鹿児島県 7.468 1.649 9.225 557.022 95.151 684.821
沖縄県 57.191 426.048 81.828 528.28