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半数の協会で「中断」の事例…個別指導問題で保団連が全国調査

 

 東京で歯科保険医が監査を前に自殺するという大変痛ましい事件が起きた。2006年4月21日に最初の指導を受け、提出資料の不備などを理由にその後268日間、「指導大綱」にもない「中断」で何の連絡や説明もないまま長期間、放置された。また、指導を担当した2人の指導医療官は「こんなことをして、お前全てを失うぞ」「今からでもお前の診療所に行って調べてやってもいいぞ、受付や助手から直接聞いてもいいんだぞ」などと発言、「恫喝」に終始したという。これらのことが引き金となり、精神的に追い詰められて自殺に追いやられたことは明白である。
こうした事態を踏まえ、各地で同様の「中断」事例があるのか、また、関連して個別指導の問題事例等を把握するため、全国の協会・医会を対象に「個別指導に関する緊急アンケ−ト調査」を実施し、12月12日現在、43組織から報告が寄せられた。以下、概要を紹介する。

主な調査内容
1、個別指導で「中断」となったケ−スはあるか。(直近3年)
2、ある場合、件数ならびに期間
3、指導、監査を理由に自殺があったと思われる事例があるか。
4、個別指導における技官の暴言、対応などで人権侵害と思われるケ−スなど事例があるか。
5、社会常識を逸脱した問題事例があるか。
6、審査、指導、監査に関する最近の動向等で特徴的な内容があるか。


個別指導「中断」ケ−ス等の状況
@中断のケ−スについて
・医科、歯科ともに事例あり---11県(医科、歯科区別不明1県含む)
・医科で事例あり------------------4県
・歯科で事例あり------------------8県
医科では15県、歯科では19県において、指導の中断のケ−スがあり、歯科の方が多い状況にある。
A中断件数と期間が判明しているもの
医科では、報告があったもののうち、協会が把握しているのは22件超である。歯科では報告があったもののうち、協会が把握しているのは20件超である。
中断の理由として、持参物の不備があげられているが、特異的な事例報告もある。頻繁に中断が行われ、「書類の不備のため」という理由が主なものだが、約1カ月以上放置して疑心暗鬼を抱かせ萎縮診療に追い込み、指導再開と称しての呼び出しが急増しているという。指導本来の目的から大きく逸脱したものであり、もはや指導とはいえず、徹底した追及が必要である。
一般的に、「中断」はその後、患者調査を経て監査になるケ−スがほとんどで、東京のような事例や報告のあった「萎縮診療に追い込むための指導の中断」の即刻停止と他県への波及の阻止に対する取り組みが不可欠である。
また、指導を開始してからの中断はなく、中断の基準は@指導当日、管理者が欠席し、事務長1人が出席Aカルテ、関連資料をすべて持参しないため状況把握ができないの2点との報告もあった。

指導、監査を理由に自殺があったと思われる事例
「監査するかもしれない」と脅かされ、結果自殺に至ったという痛ましい報告があった。監査を決定する以前に、「かもしれない」などの発言は恐喝にも等しい蛮行であり、もはや指導とはいえない。その他、個別指導における技官の暴言、対応などで人権侵害と思われるケ−スが報告されている。
「威圧的な態度」「急に大声で威圧して机を叩く」「カルテを見るや否や被指導者を怒鳴った」「人格を否定される発言」など数多くの報告が寄せられている。中でも、「全国平均までレセの平均点を下げなさい」「何のペナルティもない集団指導や講習会では効果がない」「テ−プ録音は勝手にやってかまわない。そのかわりこちらは公益代表を立ち合わせてひどいカルテをビデオ録画したい」など言いたい放題の技官がいることは、看過できない問題である。

社会常識を逸脱した問題事例
「再指導のケ−スで、『医療費動向のアンケ−ト調査』などと偽り、アポもなく突然来て患者調査が行われた。また、勤務時間内に調査が行われたり、ス−パ−勤務の患者は店外のベンチで調査をされた」「監査の患者調査で、調書の内容と患者が話した内容とが大きく異なる事例があった。現在地裁で係争中」など、耳を疑うような報告がある。

最近の動向
最近の動向については、さまざまな報告が寄せられた。以下、列挙する。
・「患者リストの指定が、3日前から土日を挟んだ5日前午後5時以降に改善。患者からの通報が増加」
・「指導が社会保険庁の年金問題で2カ月ほど停止」
・「新規対象個別指導でのカルテの指定が、前日午前中から1週間前に改善」
・「個別指導でのカルテ指定が『概ね1週間前』から『概ね3日前』あるいは『2日前』に」
・「個別指導の指摘事項で、電子媒体で保存する場合は、デ−タの真正性、見読性、保存性の確保、いわゆる電子カルテの3条件の指摘が全体の5割を占めている」
・「保険者も含め情報提供が多くなっている」
・「領収書発行義務化に伴い、患者からの通報が増えており、それに比例し個別指導が増加傾向にある」
・「個別指導の患者名簿について、指導対象月を指定せず、患者がはじめて来院した時の分から持参させている」
・「昨年まで18年間取り消しがゼロだったが、07年は保険医療機関4件、保険医6名が取り消し」
・「インプラントに付随した保険診療についての指摘が多くなっている」
・「日計表、納品伝票、技工指示書の有無、記載内容を入念にチェックする傾向がある」
・「人員減、年金問題等への対応で、指導の実施会場が、13会場から5会場に集約された」

各協会・医会の粘り強い運動の成果が表れてきているが、領収書発行義務化や医療費通知に端を発した、患者・保険者からの情報提供が増加していることが特徴的なことといえよう。
また、およそ指導とはかけ離れた行政による横暴が数多く報告が寄せられており、厚労省に各地の社会保険事務局に対して個別指導の実態調査をさせることが必要である。