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国保資格書明書を交付された被保険者の受診率(2007年度)
の調査結果について

【一般被保険者の受診率と「資格書」を交付された被保険者の受診率の差】
○53分の1(45都道府県単純平均:一般被保険者=794.924、「資格書」=14.83)

2009年6月12日
全国保険医団体連合会

(はじめに)
国民健康保険(以下、「国保」)では、老人保健法の対象者等を除き保険料を1年間滞納している場合は、災害その他の政令で定める特別の事情があると認められる場合を除いて被保険者証の返還が求められ、国保資格書明書(以下、「資格書」)が交付されます。(国保法第9条第3項)
「資格書」を交付された患者が医療機関に受診した場合は、保険診療費の全額(10割)を医療機関の窓口で支払った上で、後日患者が国保課に保険診療費の7割を請求します。この場合、請求した費用が返金されるのは早くて2カ月後であり、1年半以上滞納がつづいた場合は、滞納している保険料が差し引かれる場合があります。
無職世帯が多いという特別な事情を抱える国保の財源問題の解決は、国民的課題です。しかし、「資格書」の交付は滞納対策としての有効性は少なく、すさまじい受診抑制をもたらし、必要な医療を受けられない実態が広がっているとの指摘がされています。
本来なら、厚生労働省又は国保中央会等において、「資格書」が交付された被保険者の受診状態や健康状態を把握し、今後の施策に活かすべきと考えますが、厚生労働省や国保中央会からは「資格書」を交付された被保険者の受診率は発表されていません。
「資格書」で受診した場合、医療機関は、通常のレセプトに「特別療養費」と朱書して国保連合会に提出することとなっています。
「特別療養費」の数が判明すれば、「資格書」を交付された被保険者の受診率が推計できることから、都道府県国保連合会に問い合わせを行い、「資格書」による受診率を推計するとともに、一般被保険者の受診率との乖離をまとめました。
今回の調査にご協力いただきました下記都道府県国保連合会に、心より感謝申し上げます。なお、残念ながら、下記以外の県国保連からは、返事がいただけませんでした。


北海道、青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜、静岡(4市)、愛知、三重、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、島根、岡山、広島、山口、香川、愛媛、高知、福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島(以上45都道府県)
  1. 山口県は、県国保連から回答いただけなかったため、山口県保険医協会から全市町村に問い合わせし、集計した。
  2. 静岡県は、県国保連にデータがなく、静岡・浜松・沼津・富士4市のデータによる。

 

1 受診率の意味と推計方法
(1) 通常の受診率
受診率は、国保中央会が毎年発表しているもので、被保険者100人当りの年間レセプト件数を意味します。国保中央会の受診率は、「一般被保険者分」、「退職者医療分」、「老人保健分」の3つに分類されています。


(例)
・100人が毎月1箇所の医療機関に受診している場合=100人×12ヶ月=受診率は1200
・50人が2箇所の医療機関に毎月受診している場合=50人×2×12ヶ月=受診率は1200
・国保中央会が発表した一般被保険者100人当りの受診率の全国平均は、781.211である

(2) 「資格書」で受診した場合の受診率
「資格書」で受診した場合は、「特別療養費」届出数がレセプト件数に当たります。
「資格書」の交付を受けた被保険者数の数値がないため、「資格書」交付世帯数を年間平均値とみなし、これに、都道府県ごとの国保加入世帯1世帯当たりの年間平均被保険者数を乗じて推計しました。
この数値をもとに「資格書」の交付を受けた被保険者100人当たりの年間特別療養費件数を出すことで、「資格書」の交付を受けた被保険者の受診率を推計しました。

(3) 「資格書」と通常の国保証の受診率の比較
通常の国保証による受診率は、「一般被保険者分(781.211)」、「退職者医療分(1414.970)」、「老人保健分(1878.613)」(いずれも国民健康保険の実態平成19年度版)がありますが、老人保健では「資格書」の交付がないことと、「一般被保険者分」が「退職者医療分」より受診率が低いことから、「一般被保険者分」と「資格書」の受診率推計を比較しました。

2 結果の概要(資料@-1参照)
(1) 「資格書」による受診率は、一般被保険者の53分の1
調査の結果、「資格書」の交付を受けた被保険者の受診率(推計)は、一般被保険者の受診率に比べて著しく低く、45都道府県における乖離の単純平均は、53分の1であり、「資格書」の交付を受けた被保険者は必要な療養が著しく抑制されていることが判明しました。

 

一般被保険者
受診率@

「資格書」交付被保険者
受診率A

合計
(@/A)

45都道府県単純平均

794.924

14.83  

53.602

  1. 「45都道府県単純平均」は、一般被保険者の受診率と、「資格書」を交付された被保険者の受診率合計を45で割った。

(2) 「資格書」が交付された被保険者の受診率がさらに低下
一般被保険者の受診率は、2006年と比べて全ての都道府県で上昇しているのに対し、「資格書」を交付された被保険者の受診率は、2006年対比が可能な41道府県中、27道府県で低下していました。41道府県の単純平均では、一般被保険者の受診率が21.471上昇しているのに対して、「資格書」の受診率は0.09の上昇でした。
2005年と2006年対比では、29道府県の単純平均で、一般被保険者受診率(31.583上昇)に対し、「資格書」受診率(1.12低下)でしたので、格差がさらに広がっています。
3 「資格書」の交付は、収納率向上につながらない


世帯数及び滞納世帯数の変遷

 

2000年
平成12年

2001年
平成13年

2002年
平成14年

2003年
平成15年

2004年
平成16年

市町村国保全世帯数

21,153,483

21,948,183

22,833,889

23,713,339

24,436,613

滞納世帯数

3,701,714

3,896,282

4,116,576

4,546,714

4,610,082

滞納世帯の割合

17.50%

17.80%

18.00%

19.20%

18.90%

 

2005年
平成17年

2006年
平成18年

2007年
平成19年

2008年(速報)      平成20年

市町村国保全世帯数

24,897,226

25,302,112

25,508,260

21,717,837

滞納世帯数

4,701,410

4,805,582

4,746,032

4,530,455

滞納世帯の割合

18.90%

19.00%

18.60%

20.90%

        ※ 平成19年度国民健康保険(市町村)の財政状況について(速報)より

滞納世帯数及び市町村国保世帯に占める滞納世帯比率は、「資格書」の交付が義務付けられた2001年以後、若干の変動はありますが、悪化しつづけています。
また、自治体の国保担当者からは、「資格書は警告段階では収納効果が期待できるが、いったん資格書を出された加入者は、国保制度や行政に対して不信を持ってしまい、かえって保険料を払わなくなる」との声も聞かれます。
「資格書」の交付が収納対策につながっていないだけでなく、滞納者の固定化に繋がる危険性もあることを示しています。

4 年々引上げられる保険料(税)水準に滞納世帯増の原因がある
政府管掌健康保険(以下、「政管健保」)や健康保険組合(以下、「健保組合」)の保険料率そのものは国保と大きな差はありませんが、政管健保では保険料の半分を事業主が負担し、健保組合では保険料の半分以上を事業主が負担しています。
下記に、被保険者が実際に支払う平均保険料率を示しましたが、国保加入者が実際に支払う平均保険料率は、平均でもサラリーマンの2倍以上になっているのです。

 

平均保険料率

被保険者負担分平均保険料率

国民健康保険

8.72%(2007年)

8.72%(2006年)

協会健保

8.2%(2008年)

4.1%(2008年)

健康保険組合(平均)

7.31%(2007年)

3.27%(2007年)

※ 国民健康保険は、厚生労働省保険局:平成19年度版「国民健康保険実態調査報告」、協会健保は、法定負担、健康保険組合は健保連「平成19年度健保組合決算見込みの概要」

また、国保加入世帯のうち、無職世帯主は55.4%、「所得なし」世帯は27.4%となっており、低所得者及び高齢者が多いという構造的な問題を抱えています。1世帯当たり所得額は166.9万円しかありません。(厚生労働省「平成19年度国民健康保険実態調査報告」)
国保法はその目的で「社会保障及び国民保健の向上に寄与する」(第1条)と明記している通り、憲法第25条の規定をうけた公的な医療保険制度であるとともに、社会保険加入者・生活保護世帯等を除き強制加入の制度です。
つまり、国保制度は、保険料負担に耐えられない層の存在を前提にしており、保険料は低所得者でも払える程度の額であること、払えない者には軽減措置(法81条の法定減額、法77条の申請減免)が所得の実態に即して適用されるべきものです。
しかし、所得の減少にも関わらず保険料(税)は年々引上げられ、保険料率(所得に占める保険料(税)の割合)は、2002年度に8%超え、2007年度は8.72%になっています。
しかも、低所得者にいたっては、この間、若干の改善はあったものの、年間22万の収入で、4万円もの国保料を払わなくてはなりません。これでどうやって生活できるというのでしょうか。


保険料率の変遷

 

 

 

1973年
昭和48年

1975年
昭和50年

1990年
平成2年

1995年
平成7年

2000年
平成12年

全世帯 平均保険料率

 

 

2.73%

3.85%

6.30%

6.68%

7.56%

軽減世帯平均保険料率

 

 

23.50%

22.10%

21.20%

 

2001年
平成13年

2002年
平成14年

2003年
平成15年

2004年
平成16年

2005年
平成17年

2006年
平成18年

2007年
平成19年


世帯

平均所得

190.9万円

176.4万円

170.1万円

165.0万円

168.7万円

166.7万円

166.9万円

平均保険料

148,083円

145,257円

142,745円

142,398円

142,803円

144,870円

145,547円

平均保険料率

7.76%

8.23%

8.39%

8.63%

8.47%

8.69%

8.72%

軽減
世帯

平均所得

16.6万円

17.4万円

21.5万円

21.3万円

21.4万円

22.0万円

21.9万円

平均保険料

36,482円

36,515円

39,056円

39,508円

39,952円

40,132円

40,190円

平均保険料率

21.92%

20.99%

18.20%

18.58%

18.63%

18.22%

18.32%

※ 厚生労働省保険局:各年度「国民健康保険実態調査報告」より。平均所得及び平均保険料は、年額。
※ 軽減世帯は、2割、5割、7割減免を受けている世帯の総数

5 まとめ
(1) 「資格書」の交付を直ちにやめること
滞納対策の一つとして、「資格書」の交付が実施されていますが、滞納対策としての効果が薄く、著しい受診抑制をもたらしていることが判明しました。
国保法は、第1条で「この法律は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする。」と定めており、これを実現するために「療養の給付」(現物給付)を本旨としています。
「滞納対策」と、「国保加入者の療養を確保すること」は別個の問題として扱い、国保証を返還させて「資格書」を交付する措置はただちにやめるべきです。 

なお、保団連では、2003年度分から2007年度分まで毎年、資格書による受診率調査を実施し、資格書が、すさまじい受診抑制をもたらすことを、数字で明らかにするとともに、厚生労働省に資格書交付をやめ、通常の国保証を交付するよう求めてきました。
こうした中で、共産党の小池晃参議院議員が提出した質問主意書に対して政府は、「医療費の一時払いが困難である旨の申出を行った場合には、…保険料を納付することができない特別な事情に順ずる状態にあると考えられることから、…短期保険証を交付することができる」との回答を2009年1月20日に行いました。
この取扱いは、これまで周知されておらず、自治体の窓口にこうした申し出をしても門前払いとなっていました。
今後、この政府答弁に沿って、医療が必要で医療費が払えない状況にある場合には、特別な事情に準じて短期保険証を交付できることを、市区町村国保課に周知徹底するとともに、市区町村国保課から「資格書」交付者に周知を徹底するよう、求めるものです。
なお、新型インフルエンザ対策の一環として政府は、発熱外来に「資格書」で受診した場合も、現物給付として取り扱う旨を通知しましたが、新型インフルエンザによる死者がメキシコで多く発生している理由の一つとして、公的医療保険制度が人口の58%しかカバーしておらず、公的医療保険で給付される範囲も狭いことが受診抑制をもたらし、他の病気で重症化した患者が新型インフルエンザに罹患して手遅れとなったとの指摘もあります。
こうしたことから、次の対策をとることを求めるものです。

  1. 受診抑制をなくすため、当面、新型インフルエンザの感染の疑いに限定せず、資格書による受診であっても、すべての医療機関で通常の国保証と同様に現物給付とすること。
  2. 資格書の交付をやめ、通常の国保証をすべての国保加入者に届けること。
  3. 国庫負担を元に戻し、高すぎる国保料を引き下げること。国と大企業の負担で、患者窓口負担を引き下げること。

(2) 国保に対する国庫負担を引き上げ、払える保険料に
国保の被保険者が支払う保険料の料率は、健保組合や政管健保等に比べて異常に高くなっています。
しかも、健保組合や政管健保の場合は、原則として収入に対して一定割合で保険料が課せられるのに対し、国保の場合は、応能割、応益割が組み合わされて段階的に設定され、生活保護基準より低い所得であっても容赦なく賦課されます。
平成19年度の国保加入世帯の平均年収は166万9千円ですが、年に14万5千円が国保料として徴収されています。高齢者夫婦2人世帯の場合の「生活保護水準」は、東京23区で年間155万円、地方郡部では、年間118万円程度ですが、平均的な国保世帯でも、国保料徴収によって生活保護水準の生活になってしまいます。
加えて、病気や要介護になった場合には窓口負担が必要です。がんばって保険料を払っても、病気や要介護状態になったら医療も介護も受けられない状況が広がっています。
さらに、平成19年度「国民健康保険実態調査報告」(厚生労働省保険局)によれば、加入世帯の27.4%を占める「所得なし」世帯から、1世帯当たり24,957円(年)もの保険料(税)が徴収されています。まさに「払いたくても払いきれない」保険料と言えます。
この原因は、国庫負担率の低下にあります。本来なら、所得なし層が増加する中で、国庫負担率を増やして国保の安定運営を図ることに全力をあげるべきだったにもかかわらず、むしろ国庫負担を削減してきたことに現在の国保をめぐる問題の根本原因があります。
国保に対する国庫負担率は、1984年に「窓口負担を含めた国保医療費」の45%だったものが、現在では、「窓口負担を除く国保の医療給付費」の43%(国民医療費に換算すると34%程度)に引き下げられています。
重要なことは、払える保険料にすることです。
そのためには、国庫負担率を引き上げて、他の医療保険なみに保険料率を引き下げるとともに低所得者には特別な対策をとることが不可欠です。

  1.  「資格書」交付除外対象者は、18歳未満まで拡大を

 子どもに対する資格書交付の問題について、昨年、患者・住民と、医療・福祉団体、マスコミが大きく取り上げたことによって、保険料が支払えず「資格書」の交付対象となった世帯でも、中学生卒業までの子どもたちについては、6カ月の短期保険証を交付する扱いとなりました。
これは、この間の大きな成果ですが、児童福祉法第2条では、「国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う」と規定しています。この立場に立ち、少なくとも「資格書」交付除外対象者を18歳未満まで拡大すべきです。

(4) 後期高齢者に対する保険証取り上げ、「資格書」の交付をやめること。
国民健康保険法では、高齢者に対する医療を確保する観点から、老人保健法の対象者については、滞納の理由を問わず、保険証の返納を求めていませんでした。
しかし、2008年4月より施行された「高齢者の医療の確保に関する法律」では、後期高齢者が1年以上保険料を滞納した場合には、保険証を取り上げて「資格書」を交付することとなっています。
後期高齢者も、国保と同様に、とても払いきれない保険料が課せられます。後期高齢者から保険証を取り上げて「資格書」を交付すれば、医療が受けられず死に至る事例が増加してしまいます。
こうしたことから、全国保険医団体連合会では、後期高齢者医療制度の中止・撤回を求めていますが、少なくとも後期高齢者の保険料を引き下げ、後期高齢者に対する保険証取り上げと「資格書」の交付をやめるべきです。

 

資料@-2 資格証明書受診率
資料A  資格書交付世帯数
資料B  資格書交付被保険者数
資料C  滞納世帯数等の推移
資料D  資格書、短期証割合
資料E  厚労大臣要望書

以上


参考資料
【国保法第9条第3項】
3 市町村は、保険料(国民健康保険税を含む。)を滞納している世帯主(その世帯に属するすべての被保険者が老人保健法 の規定による医療又は原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律による一般疾病医療費の支給その他厚生労働省令で定める医療に関する給付を受けることができる世帯主を除く。)が、当該保険料の納期限から厚生労働省令で定める期間が経過するまでの間に当該保険料を納付しない場合においては、当該保険料の滞納につき災害その他の政令で定める特別の事情があると認められる場合を除き、厚生労働省令で定めるところにより、当該世帯主に対し被保険者証の返還を求めるものとする。

【国保法施行令】
第一条の三  法第九条第三項に規定する政令で定める特別の事情は、次の各号に掲げる事由により保険料(国民健康保険税を含む。)を納付することができないと認められる事情とする。
 世帯主がその財産につき災害を受け、又は盗難にかかったこと。
 世帯主又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと。
 世帯主がその事業を廃止し、又は休止したこと。
 世帯主がその事業につき著しい損失を受けたこと。
 前各号に類する事由があったこと。