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2019年参議院選挙 識者に聞く                   

増税「凍結」が必要なわけ

京都大学大学院教授 藤井 聡
全国保険医新聞2019年6月25日号より)

 

デフレ下の増税で税収不足に

 自民党は7日、参院選公約で10月からの消費税率10%への引き上げをあらためて明記した。しかし4月1日に発表の日銀短観で企業の景況感が6年3カ月ぶりに大幅悪化、5月13日に内閣府が発表した3月の景気動向指数でも6年2か月ぶりに「悪化」を示すなど景気悪化は明らかだ。国民生活も経済も破綻に追い込む消費税10%増税の中止は待ったなしである。不況下での消費税増税に異論を唱える京都大学大学院教授の藤井聡氏に、「なぜ増税凍結が必要か」について寄稿してもらった。

 

元第二次安倍内閣・内閣官房参与京都大学大学院工学研究科教授
藤井 聡
ふじい さとし
社会工学者。著書『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社、2012年)、『プライマリー・バランス亡国論』(扶桑社、2017年)

増税で年20万円も賃金が下落

 我が国は今、年々その凶暴さを拡大し続けている自然災害や同じく年々深刻化しつつある諸外国との外交問題など課題が山積している。現時点の我が国において、何よりも緊急に対処せねばならない最大の危機は、「2019年10月の消費増税」である。
 この問題を日本国民が気付かず、「消費増税を試みる勢力」の思惑通りに消費増税が敢行されてしまえば、日本経済は、中長期的に、あらかたの国民が想像だにしていない最悪の悪夢的状況に陥る。その結果、貧困はさらに蔓延し、格差はさらに拡大し、国際社会における日本のマクロ経済力は激しく衰弱すると同時に、税収が下落しかえって国家財政が「悪化」していくだろう。
 現政府が認めているように、消費増税はそもそも日本の消費を激しく減退させ、その必然的帰結として日本中のあらゆるビジネスの売り上げを縮小させる。8%増税直前までは369万円だった年間消費は年々縮小し17年は335万円。一世帯あたり34万円も消費を削っている(図1)。同時に、消費増税によって物価が強制的につり上げられ、国民の実質的な賃金が確実に大きく下落する。例えば、14年の消費増税を通して、私たちの実質的な賃金が実に4.1%も下落した。つまり、年収500万円の方なら、消費増税で年間20万円もの賃金を失った。消費増税の影響で経済が低迷し、国民が貧困化する。

 

増税は最悪のタイミング

図1 消費増税前後の
世帯の消費支出額の推移

※総務省統計「一世帯一カ月間の支出(二人以上の世帯)」の各年の「1月」の名目消費支出総額を同月の消費者物価指数(2017年1月基準)を用いて求めた実質値に基づいて12カ月分の消費に調整した数値。
藤井聡著『「10%消費税」が日本経済を破壊する』より
図2 政府の総税収の推移
藤井聡著『「10%消費税」が日本経済を破壊する』より

 消費増税はこうした激しい景気後退をもたらすが、今年がどういう年なのかをよくよく考えれば、増税するには最悪のタイミングであるということがハッキリと見て取れる。
 第一に、未だデフレは終わっていない。消費税は、インフレの時には、その被害はさして拡大しない。インフレは、年率数%(例えば、1〜3%)ずつ物価が上昇していく局面で国民が皆、物価上昇それ自身を当然のことと見なしている。そして、物価の上昇率以上に、購買力があり、消費それ自身も衰えない。つまりインフレ期というのは、消費拡大に勢いがあり、物価上昇をはねのける力がみなぎる状況なのだ。事実、89年消費税導入時に、我が国には大きな混乱は起きていない。
 ところが、デフレ・停滞期には、物価はほとんど上昇しない。だから、消費税の増税で強制的に物価が2%、3%と引き上げられれば、確実に消費は縮小する。
 その結果、企業収益は悪化し、賃金も下落し、それが再び消費縮小を導く。つまり、今日のようなデフレ・停滞期における消費増税は、確実に経済停滞、デフレ化を加速するのだ。事実、97年、14年の消費増税はいずれも、激しい被害を我が国にもたらした(図1)。現状においても停滞期である以上、増税は凄まじい景気後退をもたらす。
 第二に、今年は「働き方改革」が本格化し、残業代が大きく制限され始める。その結果、労働者の賃金は圧縮され、最大で8.5兆円も労働者の所得が減るのではないかと言われている。
 第三に、東京オリンピックの投資が、今年後半から終了していくことが見込まれている。オリンピック後に、多くの過去の事例でその国の経済が不況に陥ってしまうが、我が国でも同様の現象が起きる可能性が大だ。

 

貿易紛争で景気悪化は確実に

 国内要因に加え、海外に目を移せば、日米貿易戦争やブレグジット(英国EU離脱)で、英国を中心とした欧州や中国の景気が低迷するリスクがある。そうなれば、対欧州、対中国輸出が冷え込み、日本経済に打撃を与える。
 5月13日に公表された景気動向指数では、景気判断が、実に6年2カ月ぶりに「悪化」となった。これは、中国を中心とした諸外国への輸出量が大幅に下落し、日本経済全体の景気が悪化したことが原因だ。この「悪化」判断には、米中経済戦争の「激烈化」が反映されていない。米国は今、中国の対米輸出品目に、25%の関税を課すことを決定した。これによって中国経済はさらに打撃を受けると同時に、我が国への米国、中国からの輸出品価格が上昇するなど被害は甚大だ。今後さらに貿易環境が悪化し、景気がさらに悪化することが確実な状況にある。
 しかも、日米貿易摩擦の問題も残っている。したがって、対米貿易については、トランプ大統領の対日貿易赤字を減らせという圧力がまさに今から高くなっていくことは必定だ。それもまた、日本経済の下振れリスクをもたらしている。
 つまり、我が国は今、国内についても海外についても、「消費増税をすべきかどうか」なぞという悠長な話をしているような状況には全くなく、それ以前に、大規模な景気対策をしなければならない状況に追い込まれている。逆に言えば、こんな最悪のタイミングで消費増税を敢行してしまえば、97年や14年の「不況下での消費増税」よりも、「さらに激しい経済低迷」「実質的な賃金の下落」がもたらされる。

 

デフレ下の増税は逆効果

 もちろん、多くの論者は、「日本の借金は膨大にふくれあがっている、このままでは破綻のリスクがある。だから、消費増税は待ったなしだ」とうそぶいている。しかしこんな話は、単なるデマなのだ。そもそも、消費増税を行い景気が後退すれば、所得税も法人税も大きく下落し、その結果、トータルとしての税収は、中長期的に激しく下落してしまうのだ。
 事実、97年の消費増税によって、日本は税収増加局面から、税収下落局面へと移行してしまい、それによって年間の赤字国債発行額、すなわち、政府の借金が、一気に年間20兆円も拡大してしまうという最悪の事態を迎えた(図2)。14年増税にしても、その増税によって成長率が大きく下落し、税収増加率が年率半分以下になるという最悪の事態をもたらしている。つまり、政府の借金を圧縮したいというのなら、デフレ下の消費増税は、効果的どころか「逆効果」なのだ。現下の消費増税は、財政健全化の観点から言っても、最悪のアプローチなのである。こうした当たり前の状況認識さえあれば、今年10月の消費増税など、論外中の論外だと言わざるを得ない。
 ところが、こうした諸事実について、政治家も国民も、あまりに無知である。心ある専門家たちが何度も何度もこうした警告を発しても、いわゆる「御用学者」と呼ばれる権威ある学者たちが、「財政再建のためには消費増税は待ったなしだ」「消費税増税の経済への悪影響は限定的だ」と繰り返し、そうした警告が無力化され続けている。
 このままでは、我が国は自滅する他ないだろう。
 本稿の警告が、御用学者たちのデマを乗り越え、我が国のまっとうな世論形成と政治判断につながらんことを心から祈念したい。

※総務省統計「一世帯一カ月間の支出(二人以上の世帯)」の各年の「1月」の名目消費支出総額を同月の消費者物価指数(2017年1月基準)を用いて求めた実質値に基づいて12カ月分の消費に調整した数値。  藤井聡著『「10%消費税」が日本経済を破壊する』より

以上