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首相改憲案「いばらの道」、争点は自衛隊の任務範囲
夏季セミナーで木村草太・首都大教授が講演

全国保険医新聞2019年8月5日号より)

 

憲法の役割 国の陥りやすい失敗戒める

首都大学東京教授・木村草太氏

 安倍首相は参院選後、9条改憲の議論を積極的に進める姿勢を示している。しかし自民・公明と改憲に前向きな勢力は、改憲の発議に必要となる定数の3分の2を参院で維持できず、各種世論調査でも、改憲を政権の優先課題とする回答は著しく少ない。保団連が7月13、14日に開催した夏季セミナーで記念講演した首都大学東京教授の木村草太氏も、安倍首相が目指す改憲の矛盾と実現の困難を指摘した。

 

憲法は「張り紙」

 憲法は「張り紙」と木村氏は最初に述べた。小学校で「廊下は走らない」と張り紙しているのは、廊下を走って子どもがけがをしないため。このような、失敗しやすい事柄への注意喚起が憲法の役割だ。
 強大な権力を持つ近代国家が陥りやすい失敗とは、「戦争」「人権侵害」「独裁」。これらを防ぐためのルールを立憲主義という。
 日本国憲法では、戦争を防ぐために軍隊と軍事力の行使をコントロールし、人権侵害を防ぐために人権を保障し、独裁を防ぐために「権力を分立」している。木村氏は、これらはどこの国でも立憲主義に基づく憲法には必ず盛り込まれると強調した。

 

権利ばかりが書かれる理由

 憲法には国民の「権利」と「義務」が書き込まれているが、この2つは対等なものの並列ではないと木村氏は述べた。
 憲法は国民の権利保障を目的としているため、国民の義務は、どうしても権利保障を解除しなければならない場合にのみ憲法で定められる。たとえば納税の義務は、財産権の保障を例外的に解除するために特に規定が置かれている。 
 2012年に出された自民党の「日本国憲法改正草案」は、憲法には権利ばかりではなく義務も定めるべきとの考え方に基づく。しかし、憲法の役割から考えれば、義務規定の創設には慎重になる必要がある。

 

自衛隊の書き込みが意味するもの

 安倍首相は自衛隊の存在を書き込む改憲を目指すとするが、木村氏は著書の中で、改憲の真の争点をあいまいにしており「卑怯」と批判している。
 9条改憲で問われるのは、自衛隊の任務の範囲だ。日本政府は従来から、9条の下で自衛隊は、日本が武力攻撃を受けた場合の防衛のための武力行使(個別的自衛権)しか認められないとしてきた。しかしこの解釈を変更して2015年に安保関連法を成立させ、武力攻撃を受けた被害国からの要請に基づく武力行使(集団的自衛権)を限定的にではあるが認めた。
 木村氏は集団的自衛権の容認は現行憲法に違反するとしたうえで、想定される3つの改憲の方法を説明。
 まず、国際法上許されるすべての武力行使を認めるという方法があるが、支持者は少ない。2番目に集団的自衛権を限定的に容認する改憲は、安保関連法の是非を国民投票にかけるのと同じ意味をもち、「安保関連法を賭け金にしたばくち」だ。3番目の個別的自衛権のみ認める改憲は、可決されれば安保関連法の違憲が明確になってしまう。
 木村氏は、いずれの方法をとっても、改憲は安倍政権にとって「いばらの道」と指摘した。

以上