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本質的な課題 正面から問う 新自由主義と手を切るとき

全国保険医新聞2020年11月5日号より)

 

 保団連は、以前から取り組んでいるストップ患者負担増の請願署名と併せて、10月から「クイズで考える私たちの医療(クイズハガキ)」の取り組みを始めた。年末にかけて患者負担増反対の世論を盛り上げる山場を作ろうとしている。住江憲勇会長に取り組みの意義を聞いた。

 

こんな時に患者負担増か

―75歳以上の窓口負担2割への引き上げや薬の保険外しなどの議論が、コロナ禍でも進められています。
 国民生活を見ると、新型コロナウイルス感染拡大の影響による解雇は6万人を超え、生計の維持が困難な場合に利用する緊急小口資金の申請は、リーマンショック時を圧倒的に上回る勢いで107万件を超えています。どうにか生活の維持、立て直しを探っている状況です。
 国民の苦境にもかかわらず、政府の審議会は、75歳以上の窓口負担2割への引き上げについて、今年12月に議論を取りまとめるとした予定を変更していません。
 多くの人の生活が苦境に追いやられています。こんな時に負担増など許されるのか、問い直すべきです。

 

コロナ禍は脆弱な社会が生んだ「人災」

―コロナ禍で社会システムの問題が顕在化したと言われます。

 コロナ以降、国民の日常生活、仕事や生業、医療・福祉の現場などはいわば応急対応に追われてきました。コロナ禍が過ぎ去ったわけではありませんが、混乱の中で顧みる余裕のなかった問題に、あらためて向き合わなければならないと思います。
 コロナ禍によって、この40年ほど世界を席巻してきた政治、経済原理である新自由主義の限界が炙り出されました。新自由主義は、公共政策など国家の役割を縮小し、企業の税負担などを軽減して市場での経済活動を最優先させる立場です。
 安倍政権以降、「世界一企業活動しやすい国」を目指した政策は象徴的です。この間、日本社会はどう変質してきたでしょうか。
 80年代には43.3%あった法人税を現在23.2%にまで低下させ、企業の税負担の軽減が図られました。法人税収を補うために89年に3%で導入された消費税は昨年10%にまで引き上げられ、税収はいまや20兆円を超えて所得税を上回る規模で基幹税化しています。
 また、働く人々の賃金の引き下げ、非正規雇用化によって、企業の社会保険料負担の軽減が図られました。安倍政権発足以降、物価の上昇に賃金水準が追い付かず実質賃金は下がり、非正規雇用は2000万人を超えるようになりました。
 大企業・富裕層の負担軽減と引き換えに、格差と貧困が深刻化しました。
 並行して、財源問題を盾に、社会保障の提供体制縮小、給付切り下げが横行しました。
 医療では、診療報酬は4回連続マイナス改定。医師養成数の抑制が続き、医師の長時間過酷労働は出口が見えない状況です。病床削減、医療機関の統廃合を進める地域医療構想も進められています。感染症病床が過去20年間で半減し、保健所数が大幅縮小したことは、コロナ禍に拍車をかけました。この他、70〜74歳の窓口負担の2割化、入院時食費の患者負担引き上げ、高額療養費の負担上限引き上げが行われました。
 介護では、利用料の2割、3割負担の導入と対象者拡大、低所得者のための介護施設の食費・居住費補助の削減などが実施されました。
 このような経緯を振り返って分かるのは、国民生活のこれほどの苦境、感染拡大防止策の困難、医療現場の逼迫など、つまりコロナ禍とは、ただウイルスの猛威ばかりでなく、新自由主義政策によって積み重なった社会の脆弱さが一挙にあふれ出た人災でもあります。
 新自由主義の本家イギリスのサッチャー元首相が、「社会というものはない」と言い放ったように、この間の政治は日本社会を壊すものでした。総選挙も視野に、新自由主義と手を切り、まっとうな政治の回復を目指す時を迎えているのではないでしょうか。

 

自己責任論という理不尽な考え

― 一方、そのような政治の責任を負う安倍政権は長期にわたって高支持率を維持し、菅政権の支持率も高い状況をどう考えるべきでしょう。

 背景にある根深い問題のひとつに、自己責任論があります。
 国民生活の困難は、人々の暮らしより企業の儲けを優先する政治の結果として作り出されたもののはずです。
 生活実態と政治選択のこのような乖離は、人々が自己責任論を内面化し、自分の置かれた状況の責任をもっぱら個人の問題として捉え、国や政治の責任を問う視点を持てずにいることの反映だと思います。
 しかしそれゆえ、自己責任論という世論は、新自由主義の政治を支えるものなのでしょう。実際、菅首相は、総裁選などで、「自助」や「まずは自分でやってみる」ことを強調し、自己責任論を押し付ける姿勢を示しました。
 私が指摘したいのは、今、日本は本当に自己責任を問うことができる状況なのかということです。
 雇用と賃金、医療・介護など社会保障という安定して暮らす土台が、長年に渡って意図的に壊されてきたのは、先に述べたとおりです。
 そうして到来した社会で、安定した就職ができない、家庭が築けない、子どもが教育を受けられない、貧困に陥り、病気になる…、こうした苦境がなぜ自己責任で片付けられるのでしょうか。理不尽な考えというほかありません。
 仮に「自立・自助・自己責任」が問いたいのであれば、せめて雇用と賃金が保障され、命と健康を守る社会保障が十全に行きわたった上でのことではないでしょうか。そうしてようやく、平等な条件で諸個人が力を発揮できるのです。
 国の役割である社会保障を否定する主張と、大企業・富裕層に応分の負担を求める税の応能負担原則を否定する主張は、自力救済の自己責任論と一体の関係にあります。
 コロナ禍で浮き彫りになったのは、これまでの政治、経済原理の根本的な間違いです。自己責任論、これと対になった社会保障の否定、財源論という本質的な課題を真正面から問い直し、国の責任で暮らしを支える社会保障を充実し、富を蓄えている大企業・富裕層に応分の負担を求めていくべきです。

 

連帯こそ

―新自由主義、自己責任論を乗り越える社会運動の展望はどのようなものでしょうか。

 社会を壊す新自由主義、それを支える世論である自己責任論に対する私の回答は、連帯です。
 貧困、雇用と賃金、生業、医療・介護それぞれの分野の課題を、当事者だけの問題としない向き合い方が重要です。自己責任とは、問題を当事者のうちに閉じ込める分断の論理でもあります。それを乗り越える展望は、各分野・各階層の人々と共鳴しあった運動をつくる中で探っていくものだと思います。保団連は、一方では、保険医の団体として診療報酬の引き上げ・改善など、独自の要求を掲げますが、それとて保険医だけの力で実現は困難です。
 最近では、2016年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)が注目を集めています。2030年までに、貧困や飢餓をなくすことをはじめ、全ての人に健康と福祉、質の高い教育の保障、ジェンダー平等、クリーンエネルギーの獲得、気候変動対策などの目標を定めたものです。ここでもグローバルなレベルから各地域まで市民社会の一層の連帯が必要とされています。
 自己責任論を超えた各分野・各階層の連帯で包囲していくことで、新自由主義を抑え込んでいく展望を掲げたいと思います。
 ストップ患者負担増キャンペーンも、目の前の患者さんの苦境に応えるのはもちろん、政府の役割を縮小する医療費削減と、受益者負担(=自己責任)の発想に立つ患者負担増を問い直す世論を喚起し、新自由主義を抑え込む展望に寄与する意義を持つものとしても強調したいと思います。
 会員の医師・歯科医師の先生方には、幅広い連帯で、暮らしをより良いものにしていく取り組みに加わっていただきたいと願います。医師・歯科医師は、地域で信頼される存在であり、医療機関を中心にひとつの共同体をもっています。新自由主義、自己責任論を問い直す世論を地域から作っていく拠点になり得る存在です。
 ぜひ、先生方に、保団連、協会・医会の運動に加わっていただけるよう呼び掛けます。

以上

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