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日本経済の現状とその活路 ―コロナ禍で考える

  A使用価値に基づく経済へ転換を   

全国保険医新聞2021年4月15日号より)

 

立教大名誉教授 小西一雄氏に聞く

小西一雄氏
小西一雄著
桜井書店●1,800円+税

 深刻化するコロナ不況に加え、「失われた30年」と言われる長期停滞状態にある日本経済の立て直しをどう考えるべきか。近著『資本主義の成熟と終焉』でこの問題を分析した立教大学名誉教授の小西一雄氏(写真)に話を聞いた。経済停滞の現状を分析した前回(3月25日号)に続き、今号ではそこから抜け出す展望を解説してもらう。

 

―前回、日本経済は、経済成長最優先でなくてもいい段階に入っているというお話でした。

 「ゼロ成長でもいい」「素朴な暮らしに後退しろ」などと言いたいわけではありません。
 強調点は、日本経済は、成長がなければ暮らしが良くできないというような段階を超えているということです。
 ところが、国の政策は経済成長最優先の立場に立っています。経済成長とは大企業の増収増益をさらに強めようということです。大企業が活動しやすくすれば、その分け前に国民があずかれるというわけです。
 前回見たように、経済成長を牽引した産業は、生産物が普及しつくす市場の成熟という条件下にあります。そこでなお利潤増大を目指す企業の行動は、深刻な社会格差を生み出し、無制限な生産力の追求は、気候変動などの自然環境破壊を深刻化させてきました。
 つまり、かつてのような経済成長を続けようとする行動は、人間生活や自然環境と折り合いがつかなくなっているのです。
 さらに、賃上げや消費税負担軽減はまずもって生活防衛のために不可欠なものですが、他方で市場の成熟のもとではそれらが実現しても、かつてのような成長軌道に回帰するのは難しいという点は押さえておくべきです。大量生産と市場拡大による大量消費という好循環が生まれないからです。
 そこで重要な課題は、経済成長最優先の経済の見直し、言い換えれば、利潤原理を制御し転換していくことです。

 

社会保障拡充が重要な後押しに

―利潤原理の制御、転換とは何でしょうか。

 資本主義では、生活に有用な財やサービスを提供すること、つまり使用価値の提供は、それ自体が目的なのではなく、それは利潤獲得の手段にすぎません。この関係を逆転し、使用価値の提供それ自体を目的として、利潤は事業経営維持のための手段にすぎないという関係にしていくことです。
 これは単なる願望や理想論ではなく、すでに現在の経済社会に多くの萌芽が見られるものです。
 最も分かりやすいのは、公共サービスの部門、つまり医療、介護、福祉、教育などです。ここでは、儲けを不断に増大させることではなく、必要とされるサービスの提供自体が目的となっています。コロナ禍の中、エッセンシャル・ワークとして重要性が再確認されている分野でもあります。
 多くは対人サービスであるこの分野では、一定の教育水準をもつ優秀な労働者の数が多く、安定して働ける環境が整うほど、提供されるサービス水準が高まり、他方、患者や介護利用者にとっては安価にアクセスできる必要があります。
 この分野の需要と就業者数は、今後着実に増大します。医療と教育分野だけでも、2025年には就業者の割合は20.1%に達するという推計もあります。
 この分野は、現在では企業の利潤追求の新たな領域にされようとしています。しかし、これらの仕事は、まともにやろうとすれば、経営効率を追求する営利企業が最も不得手な分野であり、非営利的な経営によって担われていくほかありません。
 また地域産業や中小企業では、使用価値の提供を目的とし、儲けはその手段であるという経営がすでに成立し、広がっています。
 さらに、大企業でも、株主のために儲けさえすれば何をやってもよいという時代は去りつつあります。社会的企業としての責任が問われる時代に入っており、大企業の活動を制御しようという声が高まっています。
 こうした利潤に振り回されない経済を創り出していくうえで、社会保障の拡充やエッセンシャル・ワーカーの待遇改善、地域産業や中小企業支援策が重要な後押しとなるでしょう。

 

財源は大企業・富裕層への課税強化

―医療・社会保障の充実などは昨今、厳しい財政危機論にさらされています。
 そうですね。実際、改革に財源論は避けられません。そして、冒頭にも指摘したように、非常時の財政政策を通常時にそのまま続けるわけにはいきません。
 しかし私の考えでは、日本資本主義の生み出した生産力は、基本的に、すでに改革に必要な「潜在的な財政力」を獲得しています。これが、経済成長というパイの拡大にこだわる必要はないと考える理由の一つです。
 日本の税収構造を見ると、法人税は1989年度の19兆円をピークに2019年度には11兆7000億円に減少しています。同じ30年間で消費税は3兆3000億円から19兆1000億円へと15兆8000億円も増加し、法人税等の減少をカバーしている形です(図1)

 

 近年、大企業は空前の経常利益をたたき出しながら法人税収がほとんど増えていないということです(図2)。アベノミクスの「成長志向の法人税改革」なるものが、大企業が儲けても税金はかからないという傾向を強めました。
 もし法人税収が経常利益と同率で増加していれば30兆円となり、2017年度の単年度だけでも法人税収は18兆円増加している計算になります。
 これはコロナ不況で実施された1人10万円の給付に要した約12兆円の予算を軽くカバーできる規模です。
 改革の財源を巡っては、まずもって、法人税の適切な徴収、所得税の累進性強化、金融収益優遇税制の是正といった、大企業・富裕層への課税強化こそが焦点です。
 なお、法人税を上げると企業が国外に逃げるなどという常套句はこけおどしに過ぎません。たとえば、G7諸国で法人実効税率が一番高いのはドイツで、イタリアは下から2番目です。しかしイタリア経済がドイツ経済より良いわけではありません。
 利潤原理の転換やそれを後押しする政策は、自動的に生まれてくるわけではありません。
 労働運動や消費者運動、医療改善運動や環境保護活動、女性差別反対運動など、さまざまな社会運動と連帯が政治を包み込むような形で進むこと、これが利潤原理の転換を実現するのです。

以上

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