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変異株にどう立ち向かう―かかりつけ医の出番だ
東京都医師会会長 尾ア治夫氏に聞く

全国保険医新聞2021年6月5日号より)

 新型コロナウイルスの感染拡大が収まらず、10都府県で緊急事態宣言が続く。入院治療が必要な患者の受け入れ先が見つからないなど、医療崩壊と言える状況も生じている。感染拡大防止を訴え続けてきた東京都医師会会長の尾ア治夫氏に、今行うべき対策や東京五輪開催の是非などについて、全国保険医団体連合会(保団連)の住江憲勇会長が聞いた。尾ア氏からは、医師会と保険医協会・医会、保団連で協力し、かかりつけ医がワクチン接種を推進していこうとの呼び掛けがされた。(取材は5月21日)

 

コロナ収束へ共に全力

 医師会はこれまで、感染拡大防止のために国民に自粛を呼び掛けてきたが、世論の反発を招くこともあった。尾ア氏は、本来は政府が迅速かつ十分な補償をした上で、責任を持って休業・時短要請などをすべきと指摘。「飲食業界VS医療界」の対立構図が作られることは政府の無策を覆い隠すと話し、「飲食業界と医療界との非難合戦に高見の見物をしている」と政府の態度を批判した。
 住江会長も、民間病院バッシングや開業医を非難の対象にする動きは、「虚構の対立構図」を作るものと述べた。
 新型コロナワクチンについて尾ア氏は、地域の医療機関が接種に貢献することで患者との信頼関係も構築されるとし、医師会と保険医協会・医会、保団連が協力して接種を進めようと呼び掛けた。
 住江会長も、ワクチン接種では、持病を持つ患者や高齢者の不安を解消するためにもかかりつけ医の出番だと強調した。

 

感染高止まりなら五輪中止を提言

 7月に開催予定の東京五輪について住江会長は、「五輪開催は中止し、感染収束、ワクチン接種に全力を挙げるべき」と強調。尾ア氏は、五輪では今も感染拡大が続く南米やインドなどからの参加者もおり、入国検疫で変異株流入を完全に防ぐことは困難と指摘。感染状況が高止まりでも開催に突き進む場合には、「中止」を提言せざるを得ないと述べた。

 

現状と宣言解除の判断は

東京都医師会・尾ア治夫会長
 

 住江 東京都は、緊急事態宣言が延長され1カ月が経過しましたが、感染拡大の現状はいかがですか。
 尾ア 5月の連休明け2週間では、感染者数が対前週比0.75ほどで推移しています。東京都の分析では連休中に歌舞伎町、夜の繁華街は人流が3〜4割減少し、自宅周辺で過ごされた方は6割から7割に上りました。現時点で指数関数的な感染爆発はなく、何とか抑え込めています。
 住江 菅首相は、5月10日にステージWからの脱却が緊急事態宣言の解除の目安と述べましたが、それではすぐに感染再拡大を招き、医療逼迫も解消されません。
 尾ア 従来株から英国型の変異株に置き換えが進み、感染急増が警戒されましたが、都民の協力のおかげで感染者数が頭打ちになってきています。しかし、今後、感染力が非常に強いインド株に置き換わる可能性があります。今の状態で解除すると7月に入り、大きな感染拡大の波が来る可能性があります。感染力が強い変異株が市中に出回った状態で集団接種となると、感染の危険性はないのかという議論も出てきます。順調にワクチン接種を推進し、診療体制の逼迫を防ぐためにも、緊急事態宣言は5月末に解除せず、しっかり抑えていくことが必要です。

 

自粛と補償はセットで

 住江 3度の緊急事態宣言や休業・時短要請が繰り返されることで、中小事業者は疲弊し倒産件数や失業者も増加しています。私たちは時短・休業要請は十分な補償とセットで提案すべきと政府に要望してきました。
 尾ア 日本のように休業・時短要請に伴う補償が乏しい国では飲食業は困ります。せめて協力金を先に支払い後で申請書類を提出するぐらい柔軟に対応すべきです。
 十分な補償が実施されていれば休業要請に協力しやすいですが、給付が乏しく大幅に遅延する中では、時短・休業の要請に従わないところも出てきます。

 

虚構の対立が政府責任隠す

 住江 ワクチン接種や検査体制など政府のコロナ対策は「五輪優先で後手に回っている」と強い批判を受けています。感染が収束しない中でGoToキャンペーンを推進し、昨年末の第3波の感染急増、医療逼迫を招きました。
 感染者数や死亡率など他国との違いが引き合いに出されますが、コロナ感染が長期化すればするほど、これまでの対策の効果や問題点を分析し、専門家の知見を踏まえ、実効的な対策を講じること、国民の理解と納得の上で協力を得ていくことが政治の役割です。
 尾ア 本来は政府が科学的に有効な対策を考え、休業・時短要請に際しても十分な補償を迅速に給付するなど感染症封じ込めに責任を持つべきです。そうした対策や努力を抜きにして休業や外出自粛などの協力は得られません。
 日本医師会が感染拡大防止のために国民・自営業者に自粛を呼び掛けると反発を招き「飲食業界VS医療界」のような対立構図が作られています。
 住江 一部メディアで民間病院バッシングの次は開業医をやり玉にあげようとしているようですが、虚構の対立構図と言うほかありません。
 尾ア 政府の無策を覆い隠し、結果として自分たちの首を絞めることになります。政府は、飲食業界と医療界との非難合戦に高みの見物をしています。

 

変異株への検査体制の強化を

 住江 英国株(N501Y)は、従来株に比べて感染力が強く重症化しやすい。クラスター発生頻度が高い高齢者施設や入院医療機関では大変な脅威です。検査体制を徹底的に拡大し、感染源を明らかにして、封じ込めなければなりません。特に、インド株など新たな変異株の流入を防ぐためにどんな検査体制が必要ですか。
 尾ア これまでは、PCR検査後に感染研でゲノム解析を実施し時間と労力がかかりましたが、1回のPCRで変異株のスクリーニングも可能な試薬ができました。ゲノム解析も国の系列だけでなく、大学・民間の協力を求めていくべきです。自動PCR装置で数千件のPCR検査が一度に実施できるようにもなってきています。陽性者すべてを対象に変異の有無を調べる勢いで検査を拡大すべきです。東京だと新宿、港、渋谷など中心部の繁華街など陽性者が集中する地域に一気にモニタリング検査を実施していくべきです。病院や高齢者施設の職員がウイルスを持ち込みクラスターが発生するケースが多いことから職員など定期的に検査すべきです。
 クラスター対策は、遡って接触歴を調べるもので後ろ向きの調査です。これからは、感染リスクが高い場所にどんどん検査を実施していく前向きな感染拡大防止対策が必要です。

 

病床確保に向け協力体制を構築

5月15日東京都医師会記者会見資料
5月15日東京都医師会記者会見資料

 住江 大阪では重症患者数が確保病床を大幅に超過し、死亡率も急増しました。1万5,000人が自宅療養を余儀なくされ、本来は入院加療が必要な中等症以上の患者が医療にアクセスできず在宅に取り残されるなど危機的な状況です。
 一方でコロナ重症者を受け入れる基幹病院は救急、手術など高度医療を提供しており病床確保に限界があります。回復患者の受け入れ先確保などに向け東京ではどのように協力体制を構築していますか。
 尾ア 東京でも第3波の時に自宅療養者が最大18,000人となり、入院待機中に死亡する事例も起きました。高齢のコロナ患者が多く、感染症は回復したもののリハビリ等を要する患者の受け入れ先確保が困難となり、コロナ病床の目詰まりが発生しました。
 リハビリなどが必要な患者に対応するため、回復期リハビリ機能を有した医療機関に転院させ、コロナ病床を空けることが焦眉の課題でした。当初あった「2週間経過しても感染の可能性があるのでは」などの誤解を払拭する中で、東京都全体では、回復患者を受け入れる病院で約1,000床、110の老健施設を確保しました。現在、コロナの入院患者が2,300人ぐらいで推移していますが、後方支援病院を確保したことにより入退院がスムーズに進んでいます。急性期病床をさらに確保することは困難ですが、後方支援病床を確保することで同じ効果があります。

 

ワクチン接種で患者さんとの信頼関係も

 住江 地域の医療機関では保健所が逼迫する中、発熱患者の相談・検査・診断を担い、軽症の段階から陽性者を把握し治療につなげるなど役割を果たしてきました。持病をお持ちの方や高齢者のワクチン接種に関する不安を解消する上でもかかりつけ医の出番です。
尾ア 医師会として五輪開催に関わらず高齢者へのワクチン接種を7月までに終わらせることを掲げています。地域の医療機関がワクチン接種に貢献することで患者さんとの信頼関係も構築されます。医師会だけでなく、保険医協会・保団連もみんなで協力してかかりつけ医がワクチン接種を推進していきましょう。
 住江 政府の支援策はコロナ医療確保が中心で、地域医療を面で支える診療所・病院への支援は限定的です。医療崩壊を防ぎ、国民の命・健康を取り戻すためには長引く受診抑制で経営が逼迫している地域の医療機関への支援も必要です。
 尾ア コロナ患者を診療している病院には国から支援金が給付され、非常に助かったという話を聞きます。一方、コロナ患者を診ていないとされる病院・診療所は受診抑制があり厳しい経営状況です。内科診療所で、昨年対比で約1割の減収。小児科や耳鼻科では、3割〜4割も減収となりました。地域医療を面で支える医療機関への支援も必要です。東京都医師会では、小池百合子東京都知事に要請し、ワクチン接種に積極的に対応した医療機関に対し、1日17万5,000円が支給されることとなりました。患者減で経営が厳しい医療機関には、ワクチン接種で協力してもらえれば、減収分の補充につながります。

 

五輪開催は断念し感染収束に全力を

 住江 変異株の感染収束が見通せない中、医療従事者を動員し、東京五輪・パラリンピックを開催することは困難です。政府は、五輪開催は中止し、感染収束、ワクチン接種に全力を挙げるべき時ではないでしょうか。
 尾ア 新型コロナは無症状者が16%と言われており、五輪開催時の感染状況が非常に重要となります。一つの目安としてステージU、1日の感染者数100人以下まで抑えると感染リスクが低くなり、緊急事態を緩めてもすぐにリバウンドが起きません。五輪を無観客で開催するにしても選手以外の海外からの報道陣や関係者、日本人ボランティアを含め17万人ぐらいが大会開催に関係します。
 連日30カ所で競技が行われ、選手は一般人との接触を避けるバブル方式で隔離されますが、日本人ボランティアはワクチン接種も完了していない状況で感染リスクは解消しません。
 さらに五輪は、感染拡大が続く南米、インドなど南半球からの参加者も多く、入国検疫で変異株流入を完全に防ぐことは困難です。
 台湾では海外からの入国者に14日間の隔離を求め、感染者を抑制してきましたが、3日間の隔離でよいとされた航空会社のパイロットを経由して国内で感染が広がりました。日本では変異株が主流となる国からの入国者に6日間の待機を求めていますが、五輪期間中に海外から入国者すべてに待機を求めることは事実上不可能です。本当に五輪を開催したいのであれば、どこまで感染を抑えるか。そのために隔離や検査などどのように対応するか早く決めることが必要です。
 そうした対応策が示されないままでは国民の不安が広がるばかりです。感染状況が高止まりでも「安全・安心」の連呼で開催に突き進む場合は「中止」を提言せざるを得ません。

以上

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