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「改憲」はなんのために 緊急事態条項あったらコロナ対策は?

明日の自由を守る若手弁護士の会二宮淳悟弁護士に聞く

全国保険医新聞2021年8月5・15日号より)

 

にのみや・じゅんご
2010年弁護士登録。東日本大震災以後災害復興支援活動をライフワークとしつつ、各地の災害復興支援活動に携わる。明日の自由を守る若手弁護士の会(通称:あすわか)においては「護憲でも改憲でもなく知憲」を合言葉に憲法講師活動を行う。新潟合同法律事務所所属。
早坂部員

 コロナ対策や自然災害発生時のために緊急事態条項は必要か、「押し付け憲法論」をどう考えるかなど、憲法に関する疑問を、「明日の自由を守る若手弁護士の会」の二宮淳悟弁護士に聞いた。(聞き手:早坂美都新聞部員)

 

「首相に強力な権限」より平時からの準備を

早坂  今年の憲法記念日に菅首相は、憲法に「緊急事態条項」を盛り込むことに言及しました。政府のコロナ対策は後手後手ですが、緊急事態条項があったらうまくいったのでしょうか。

二宮  必ずしもそうとはいえません。緊急事態条項は、「緊急事態が起こったときには内閣総理大臣が強力な権限を持つ」以上のことは書いていないものです。首相に強力な権限があっても、普段からの十分な準備がなければ、コロナ感染が爆発しても対応できません。
 たとえば通常時からの十分な病床や医療者の確保、感染拡大時に臨時の専門的な医療機関を作ると決めておくこと、十分な量のワクチン確保、これらはすべて、法律に基づいてあらかじめ準備をしておくことではじめて可能になります。それがなければ、緊急事態条項があっても、首相にできるのはせいぜい布マスクを配ることくらいでしょう(笑)。
 法律に基づいて対策を進める上で憲法が妨げとなるときに、はじめて改憲すべきかが問題になります。コロナ対策の遅れは、法整備などをして感染症対策をしてこなかったことが原因で、憲法ではありません。

権力者に人権保障求める

早坂  法律と憲法は、どういう関係なのですか

二宮  よく三角形のピラミッドで説明されますね(図)。頂点に最高法規である「憲法」、その下に、国会が制定する「法律」、内閣が制定する「政令」、各大臣が定める「省令」などがあります。憲法の下にある「法律」等は、憲法に違反してはいけません。逆に違反しなければ、法律は原則としていくらでも作ったり改正したりできます。
 憲法は法律などと異なり、国民に何かを命令するのではなく、国の権力者に対し、「人権を保障しなさい」と求めるものです。国民の自由を守るための憲法を最高法規に位置付けることを「立憲主義」といい、近代憲法の原則です。
 立憲主義のイメージは、左上の絵を見てください。王様が権力者、その周りにいるのが国民です。王様が横暴を振るって国民の生命、自由、財産等を奪うことのないように、憲法という重しをつけているのです。

早坂  医師・歯科医師と憲法は、どう関わっていますか。

二宮  憲法で定められる基本的人権の尊重とは、全ての人を個人として大切にして自由な生き方を認めるものです。思想は自由、何を学ぶのも自由、宗教を信じるのも信じないのも自由、差別はされない、財産は守られる等々を定めています。
 たとえばコロナ禍でも、医療者が無償のボランティアでコロナ対応を強制されることがないのは、憲法18条で個人の意思に反する苦役が禁止されているからです。

早坂  2年前に本紙で企画された「紙上憲法カフェ」で、伊藤朝日太郎さんという弁護士のお話を聞きました。当たり前のように大学で学んで、歯科医師として仕事をしてこられたことが実は憲法のおかげだったと初めて知り、驚きました。

二宮  憲法は空気のように私たちを取り巻いていて、平和な時代にはその存在を意識しないと思います。弁護士が憲法の大切さを講演しなければならなくなったら、自由が脅かされようとしている危険な時代だと危機感を持つ方がよいでしょう。

 

自然災害発生時は「現場の判断優先」が鉄則

二宮  菅首相は緊急事態条項が必要なケースの一つとして、大地震などの自然災害を挙げています。しかし、私がライフワークとして取り組んできた災害復興支援の経験からは、自然災害発生時に緊急事態条項は不要と断言できます。

被災地首長も「緊急事態条項不要」

早坂  私も実家が宮城県で親が被災しており、震災の問題は他人事ではありません。緊急事態条項が不要なのはなぜですか。

二宮  当然のことですが災害対策は、地震、津波、原発事故、水害など、災害の種類によって異なります。市町村は、それぞれに対応した災害基本計画を作っています。
 災害時に何より大事なのは、被災地を熟知している現場の判断を優先する、つまり現場に権限を与えることです。たとえば地方で災害が起きて道路が封鎖された時に、どのルートを通って物資を運べばいいか、その判断は現場の地理を知り尽くした人にしかできません。
 現場にいない中央の政治家に強力な権限を与えても、被害状況を正確に把握できずまともな判断ができません。台風被害の被災地に長靴を持たないで視察に行き、職員におんぶされた政務官の例が典型的です。2016年の共同通信の記事によれば、東日本大震災の被災3県の知事と市長村長へのアンケートで9割超が、震災発生当時の人命救助や復旧は、緊急事態条項がなくても支障がなかったと答えています。
 日本の災害時の法制度は、他国に比べても非常に精緻に整備されています。重要なのはそれを最大限に生かし、平時からの備えを作ることです。「いざという時は首相に強力な権限を」というのは、何の対策にもなりません。

早坂  平時からの備えが必要というのはわかりますが、想定外の事態に備えて、緊急事態条項を定めておく必要はありませんか。

二宮  緊急事態条項は不要なだけではなく、危険なものです。12年に自民党が出した憲法改正草案によれば、いったん「緊急事態」とすれば、内閣が、法律と同じ効力を持つ政令を作れるようになります。その際、憲法による人権保障の制約は弱まり、国会での承認は事後でよいとされています。いわば国会での議論なく首相が自由に法律を作り、国民はそれに従わなくてはならなくなります。
 左上の絵の王様から、憲法の重しが外された状態が、緊急事態条項のイメージです。万が一政府が国民の自由や財産を脅かしても、歯止めが聞きません。
 しかもこうした権限が認められてしまうと、政府はなにかと「緊急事態」だとして権限を振りかざす危険があります。権力者は多くの場合に、強大な権限を使いたがる傾向があることに気を付けないといけません。

 

押し付け憲法論をどう考えるか

早坂  緊急事態条項は新設すべきでないとしても、日本の憲法は米国に押し付けられたものであり、自主憲法の制定が必要という考え方もあるようですが。

二宮  自分も以前全く同じように思っていました。パイプをくわえたマッカーサーが、日本に憲法持ってきたようなイメージでした(笑)。それで憲法の制定経緯を調べてみたのです。
 日本が連合国軍(実際は米国軍)の占領下にあった1946年2月、連合軍総司令部から日本政府に、憲法の草案(マッカーサー草案)が提示されました。その内容を基礎として日本政府が「憲法改正草案要綱」を作成し、3月6日に閣議決定し、国民に公表されます。
その後4月10日に総選挙が実施されました。女性も選挙権を得た日本初の完全普通選挙で、政府が示した憲法の草案の是非が争点でした。ここで選出された議員により、衆議院で2カ月の審議を経て、賛成421、反対8という圧倒的多数で可決されました。その後貴族院でも賛成298、反対2で可決され、成立しました。
このように日本国憲法は、日本国民が選んだ議員が国会で議論し、成立しているのです。占領下とはいえ、当時の選挙の仕組みは民主的なものでした。当時の有権者が自律的な判断ができなかったとはいえないでしょう。
 さらに日本国憲法は75年間改正されていません。結局のところ日本の人々は現行憲法を認めてきたのではないでしょうか。

立法や法改正できるなら改憲は不要

早坂  これまでに何度も議論はあったのに、75年間改憲されなかったのは不思議です。海外には、何回も改憲している国もありますよね。

二宮  憲法のあり方は国によって異なるので、比較してもあまり意味がありません。たとえばフランスやドイツは、日本では法律にあたる部分も憲法で決めており、その部分を改憲しています。
 私自身も、何が何でも護憲という立場ではありません。私たちの生活が良くなるなら、どんどん改憲していいと思っています。
 ただ、改憲は必要に応じて行うものです。何か「困ったこと」があり(立法事実)、それを改善するために必要な法律を作ると憲法のどれかの条文に違反してしまう、こういう状況が生じてはじめてその条文を変えるかどうかという議論になります。
 改憲の手続きは、国会に改正案を提示し、衆参それぞれで総議員の3分の2以上が賛成し、国民投票で過半数の賛成を得るというもので、手間も時間もかかります。立法や法改正で解決できるのなら、改憲は不要です。

早坂  海外の国が日本を攻撃した場合に備え、平和主義を定めた憲法9条を変えるべきとの意見も聞きます。

二宮  自衛権は、今の憲法でも認められています。他国から攻撃されて日本に住む人々の生命が脅かされる危険があれば、必要に応じて自衛隊法などを改正して対応すれば十分です。

早坂  やはりまずは法律で対処できるかを考えるのが大切なのですね。

 

夫婦同姓強制は生き方の制約

二宮  法律が憲法に違反するかどうかが問題になるケースとして、選択的夫婦別姓の問題があります。6月に最高裁は、夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定について、両性の平等を定めた憲法24条には違反しないと判断しました。

早坂  私は離婚を経験し、別姓にしたいため現在のパートナーとは事実婚です。離婚時に姓を元に戻したときには、歯科医師免許の書き換えなどがとても大変でした。早く夫婦別姓を認めてほしいです。

氏名は人格の一部

二宮  今の法律では夫婦同姓が強制されており、別姓にできずに困っている人たちが、憲法違反だと訴えて出されたのが今回の決定です。非常に残念な内容です。 
 人は社会の中で、「氏名」によって個人として識別されます。個人が氏名と共に社会の中で認められていくことで、氏名は人格の一部となっています。ですから、結婚時にそれまで使った氏名(氏)を変更するかどうかは、個人のアイデンティティの問題です。夫婦の双方が生来の姓で生きていくことを望んだ場合でも、どちらかが姓の変更を強制されるのは、憲法13条が定める個人の尊重に反する事態といえます。 
 しかも現実には96%以上のカップルが夫の姓を選んでいます。事実上女性には姓を変えずに結婚するという選択肢がないのは、やはり憲法24条に違反すると思います。

早坂  私のパートナーが10年前に大きな手術をすることになり、同意書にサインする際に、事実婚であることが問題になりました。最終的には病院長の判断で私がサインできましたが、このように事実婚だと不安定な立場に置かれます。何とかしたい問題です。

二宮  選択的夫婦別姓も、国会で法律を改正し、結婚後に同姓も別姓も選べるようにすれば解決します。そのためには、選挙に行って1票を投じることも大切ですね。


明日の自由を守る若手弁護士の会作成の紙芝居『王様をしばる法〜憲法のはじまり』より

以上

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