ホームニュースリリース・保団連の活動保団連の活動など 目次

第36回医療研 記念講演概要
超高額薬価問題への処方箋 アカデミアの役割とは

岐阜県保険医協会会長 竹田 智雄
全国保険医新聞2021年11月15日号より)

 

 岐阜協会が主務となり9月19、20日に開催された第36回医療研究フォーラムでは、小島勢二名古屋大学名誉教授(写真)が「超高額薬価対策としてのアカデミアの役割」と題して講演した。概要を紹介する。

講演する小島氏

 2019年5月に、難治性白血病治療薬としてキムリア(点滴静注:ノバルティスファーマが製造販売)が保険適用された。キムリアに3,349万円という高額な薬価がつけられたことを契機として、日本の薬価制度さらには保険医療体制に関する議論が高まっている。キムリアは患者から採取したT細胞に、白血病細胞の表面にある抗原を認識する抗体とT細胞を活性化する受容体とを結合させたキメラ抗原受容体(CAR)を遺伝子導入した製剤である。20年5月に、脊髄性筋萎縮症(SMA)の遺伝子治療薬(ゾルゲンスマ:ノバルティスファーマが製造販売)が1億6700万円で保険適用が決まった。ヨーロッパでは、全世界で年間6万人の患者が発症するβ-サラセミアの遺伝子治療薬が承認されている。超高額な遺伝子治療薬の登場により、日本の薬価制度は根本的な見直しの必要性が迫られている。

薬価引き下げでも情報非開示を選択

 キムリアは類似薬がないことから、原価計算方式で薬価が算定された。製品総原価、営業利益、流通経費、消費税の合計額である3,073万円に、1,383万円の補正加算額がつき4,456万円の薬価になる予定であったようである。ところが、製品総原価に含まれる原材料費や研究開発費などの情報公開が50%未満であったので、1,383万円の20%、277万円の加算しかつかず、薬価は3,349万円に算定されたようである。1,000万円を失っても、製薬会社が守ろうとしたものは何だろうか。
 ノバルティスに限らず、CAR-T療法を開発している大手製薬企業は、自社が開発したのではなく、例外なくアカデミアが開発した技術を莫大なパテント料を支払ってその使用権を得ている。キムリアもペンシルバニア大学が開発した技術をノバルティスがパテント料を支払って取得し製品化したものである。

「薬価透明性」WHO決議に反対

 抗がん剤を中心に薬価の高騰は全世界共通の緊迫する問題である。19年5月にジュネーブで開催された世界保健機関(WHO)の年次総会で、医薬品価格の透明性改善をめざす決議が採択されたものの、原価や研究開発費の情報公開に関する項目は、大手製薬会社を抱えるスイス、ドイツ、米国、日本の反対で決議案から削除された。

超高額薬価の背景にマネーゲーム

 SMAは、SMN1遺伝子の欠失や変異が原因で、進行性の筋力低下や筋萎縮がみられる神経原性筋萎縮症である。乳児型においては、早期から人工呼吸管理を必要とし、人工呼吸器を使わずに2歳以上生存することは稀である。わが国の推定患者数はおよそ1,000人である。ゾルゲンスマはアデノ随伴(AAV)ウイルスベクターを利用した遺伝子治療薬で、投与法は1回の静脈内投与のみで済む。もともと、米国のネーションワイド小児病院から独立した研究者達がアベクシスというベンチャー会社を設立し、10数人を対象に治験をおこなった。その結果が有望ということで、18年の4月にノバルティスがアベクシスを87億ドル(1兆円)で買収した。キムリアと同様、ノバルティスが自社開発したものではない。アベクシスの株を保有していた研究者の一人は、4億ドル(400億円)の資産を手にしたと伝えられている。

アカデミアで安価に製造可能

 キムリアやゾルゲンスマに続く遺伝子治療薬の上市が続々と控えている。中でも、血友病の遺伝子治療薬は、患者数から日本の保険財政に破壊的な影響を与えかねない。
 遺伝子治療薬は、アカデミアの研究者によって開発されており、大手製薬企業が自社開発したものは皆無である。これまでの低分子薬とは異なり、遺伝子治療薬などの生物製剤は、アカデミアで最終製剤まで製造することができる。大手製薬企業が算定する原価の大部分は、パテント料や製造設備の初期投資で占められると考えられる。すでに、日本の多くの大学や研究所は、セルプロセッシングセンターなどの製造設備を保有しており、パテント料を支払う必要がなければ、これらの生物製剤はずっと安価に製造することができる。

パテント代不要、技術移転の許可も

 自施設でヒトに投与するレンチウイルスベクターを製造している海外の研究者によると製造コストは1製剤あたり100万円以下と済むと答えている。営利目的でなく、アカデミア間で共同で臨床研究を進める場合、パテント料の支払は不要で、技術移転を許可する研究者もいる。日本だとSMAのような稀少疾患に対する遺伝子治療は、1〜2の拠点施設で十分に対応できる。また、日本医療研究開発機構(AMED)から遺伝子治療に対して研究費が出ているが、あくまでアカデミアが開発した医療技術を企業に導出することを前提としている。アカデミアが自施設の患者のために、開発した技術を直接活かす道ができれば、これらの治療をずっと安価に提供できる。

感想

 国民が負担する公的医療保険制度の下、営利企業である製薬メーカーの過剰すぎる利潤追求を許してはならない。大学などアカデミアによる独自の安価な医薬品開発への支援も必要である。今後ますます申請が見込まれる超高額薬剤についても、情報の開示・公表に基づく適正な薬価算定を求めるとともに、公正で透明な薬価制度の早期の構築が強く望まれる。

以上

ホームニュースリリース・保団連の活動医療ニュース 目次