第33回全国保険医写真展 入賞・入選作品評
写真家・小松健一氏(全国保険医写真展審査員長)による講評
☆会長賞
「昔日の追憶」長澤 進(愛知協会)
作者の母親かと思わせる、被写体に対する愛情があふれた写真だ。ややもすると重苦しい写真になりがちな被写体を、明るくとらえたのがよかった。この病人をしっかりとらえていることによってこの人が生きてきた年輪や病状の重さも想像できる。そういう作者の視点が良かった。このコンテストにふさわしい作品が久々に会長賞に選ばれたと思う。
☆審査委員長賞
「老犬と共に」堀 司郎(広島協会)
作品の題名通り、おそらく長い間共に暮らし老いてきた犬と暖かい日差しが降り注ぐなかで、まるでこのおばあちゃんが、「お互いによく生きてきたね」と、犬に語りかけているような雰囲気のある優しい作品になっている。特に、新緑を包み込む日差しが清々しく、二人に「これからも末永く元気でいてください」とささやいているように感じられる。
☆特選1
「長崎秋散歩」牟田 啓三(長崎協会)
長崎市内の観光的な光景といえば眼鏡橋を主役にするのが一般的だが、この写真は、川の飛び石の上を高校生らしい少女が渡っている瞬間をとらえたところが、オリジナリティがあってよかったと思う。 斜陽で少し色づいた川や柳、街の静かな佇まいの中、少女の動きをとらえている。川面にはボラか、魚影のはねた跡がいくつも見えて動的になっている。静かではあるがそれがまた一つの動きを生み出していて印象深い。
☆特選2
「醍醐桜」吉次 興玆(山口協会)
桜の大樹で知られた有名な桜だと思うが、昼間の満開の桜でなくて夜に撮ったというのがこの作品の良さだ。特に満天の星空に天の川がかかり、この醍醐桜をシルエットにしている。まるで星屑が、この桜の花びらが散っているようにも見えるし、天と地が一体となっている気もする。人が行ってあまり見ることがない夜の桜の樹を作品化した点が評価できる。
☆特選3
「もちもちの樹」河合 美枝子(大阪協会)
撮影した場所はわからないが、深い森ということは想像できる。その中に「もちもちの樹」という一つの大樹に的を絞って、大きな幹とその花と、そして実をそれぞれ丁寧に撮ってまとめている。物語性があり、上手くまとめた作品だ。最後は、単に実が落ちているだけでなくて、地元の農家の老人が実を持っている写真でしめたところが、この作品をさらに深くした要因だ。
☆入選1
「寒い朝」坂野 昭八(岐阜協会)
夜明け。前日から夜深けに降った雪が、霧氷となって木々に付いている。そして今、朝陽が当たってきたというその瞬間を撮っている。その雪原にローカル電車が走って来るというドラマチックな写真だ。ただ、タイトルは「寒い朝」。もちろん寒い朝なのだが、それだけで終わっているところがこの作品のもったいなさである。もう一歩踏み込んで、この寒い朝の電車を作者がなぜ撮ったのかがテーマなのである。この点が題名に出ていれば、この作品はよりランクの上がったものになった。なぜこれを撮ったのかをよく考えて、タイトルに反映するようにして欲しい。
☆入選2
「霧氷」中原 広明(神奈川協会)
この作者もまずタイトルについては一考する必要があると思う。カラマツ一面に付いた霧氷、その後ろに朝霧が流れている。この瞬間を撮ったのがこの作品の最大のポイントだ。手前の静に対してその背後の動、それを組み合わせて。背景にはさらに深い森林が続いていることがわかる。幻想的な作品に仕上がっている。
☆入選3
「『いいおにわですねぇ』」稲葉 裕美(岐阜協会)
「本当にいいお庭ですね」というふうに、赤ちゃん同士が、まるで老人たちが話でもしているようにじっと庭を見ているところを、ユーモラスに撮ったのがこの写真の良さだ。実際はそんなことを話しているわけではないが、まるでそのように見えるという、そういう瞬間を逃さず狙ったのが良かった。写真はユーモラスさも大事なので、こうしたことにも積極的に挑戦をして欲しい。赤ちゃんたちの顔は見えないが、二人の満足そうな表情は想像できる作品になっている。
☆入選4
「ダッシュで帰る」成田 博之(神奈川協会)
突然ぼたん雪が降って来たのか。少年が、学校帰り慌てて駆けてる姿を撮った写真だ。背景にラーメン屋の大きな看板を少し入れることで町の雰囲気がうまく出て、少年が家路を急いでいる雰囲気が出ている。おそらく、多くの人は傘をさして歩いている場面などを撮ると思うが、この作品が入選したのは「少年がダッシュしている」とこを捉えたからである。
☆入選5
「お・お・あ・く・び」内山 勝之(三重協会)
クローズアップし、牙がむき出しになった迫力あるゴリラのあくびの作品はよくコンテストでは見受けられるが、この写真は、それと同時に左側の窓辺にまったく無関係な表情をしたもう一頭のゴリラがいるところが味噌だ。夫婦か恋人か分からないが、窓辺に座っているゴリラは、大きなあくびをしているゴリラにお構いなしに、まったく無関係のごとく下を向いている、その対比がユーモラスだ。よくこの場面をとらえたと思う。画面の構図のバランスも良かった。
☆入選6
「旅立ち」 佐藤 導直(神奈川協会)
渡り鳥か水鳥か。「旅立ち」だから朝日かもしれないが、太陽が雲間からぐっと出てきた、そして赤く空が染まった時に一斉に何百、何千の鳥たちが飛び立った瞬間をとらえている。なかなかこれだけ多くの鳥が一斉に飛び立つ光景には出会うことが少ない。少し色づき始めた海と、赤く染まっている空、そしてこの鳥たちという状況を見事にとらえた作品になった。
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