第35回全国保険医写真展 入賞・入選作品評
審査委員長 小松 健一
☆会長賞
「宝」工藤 美千代(徳島協会)
タイトルにも表れている通り文字通り、子どもは「宝」という、母親の気持ち、愛情がよく表れた作品になっている。一番大切なのは、親子のその愛情の兼ね合いであり、その子どもたちが次の未来を託す子どもたちへの母親の愛情が凝縮されているから、それがこの写真の一番の強さなのです。このタイトルにもそれが表れているし、作者の狙いもそこにある。ただ、強いて言えば、子どもと母親の対比がほぼ比率が同じになっているので、どちらかに比重を置いて、宝だから、子どものことを指していると思うので、子どもを主役にして、カメラアングル、カメラの位置、光の角度とか変えれば、さらにこの作者が意図することが表現できたと思う。しっとりとした静かさの中に、母親の子どもに対する愛情がよく捉えられており、それを優しく見守りながら、シャッターを切っている作者の気持ちもよく伝わってくる。会長賞にふさわしい、このコンテストの趣旨に合った作品である。
☆審査委員長賞
「走れ走れ妊娠馬!」善成 敏子(徳島協会)
これは道産子、多分十勝かな。挽曳競馬馬だと思が、妊娠をしている。お母さん馬たちの、お腹が大きくなっているのがよくわかる。必死になって先頭になって走っている力強さ、逞しさ、母性の持っている強さを真正面から、よく撮った。母親馬の持っているエネルギーを捉えた作品だ。ぶつかるのではないかと思うほど、正面から撮っている。でも恐れずに作者は果敢に正面からシャッターを切った。これが斜めから撮っていたら、こんな強い写真にはならなかった。後方に人が出過ぎない程度にいるのもいい。今までいろんな馬の写真を見てきたが、これは秀作といってもいい作品だ。
☆特選1
「悠久の樹」大阪 正視(大阪協会)
毎年、自然の大樹を題材(モティーフ)にした写真はあるが、これは文字通り「悠久の樹」。その樹の持つ生命力。力強さ、おそらく何百年と大地に根を張って生きている、大樹の持っている生命力をクローズアップし、強調して撮ったことが成功している。また自然や環境の大切さ、樹の持っている逞しさなどを見る人に伝えたいという作者の熱い思いが伝わってくる作品である。
☆特選2
「一期一会」佐藤 導直(神奈川協会)
撮影地は、インド。日本の列車と違って窓が狭いインド特有の列車の感じが出ている。三つ窓があるが、それぞれの車窓の中に、人間模様が映っている。真ん中のメインとなっている窓には、お母さんがちょっと疲れている表情を浮かべているが、懸命に生きている。左側これは若者なのか、青年みたいな影が写っている。それぞれの窓の中に、それぞれの人生が映り込んでいる、そういうシャッターチャンスをものにした。作者は、メインの窓の女性に目がいって瞬間に撮ったのだろう。各窓にもいろんな人生があるというのは多分、後で気がついたと思う。でもそれをちゃんと選んで、コンテストに応募したのはやはり作者が持っている力だと思う。いい一瞬を捉えた作品である。
☆特選3
「READY TO GO!」濵武 諭(熊本協会)
新幹線が、博多から鹿児島まで伸びて、北海道から九州まで繋がったわけですけど、その新幹線をデザイン的に捉えた作品。10車輌ぐらい並んで映っているが、それをうまい角度で撮っている。何か動いているみたいに。ピントが合っているわけではなく、流し取りの感じで、それぞれが動いている様に表現したのが面白さだ。出発準備完了だから、これからそれぞれの街に向かって走り出すのだろう。作者がどういう思いで撮ったかわからないが、今までこのコンテストにはない、切り口だった。作者がこの光景を発見して、「乗り鉄」とか「撮り鉄」とか、鉄道の写真が流行っているけど、それとはまた一味違った作品となった。
☆入選1
「白馬八方池」原国 政裕(沖縄協会)
白馬の八方尾根の中腹にある池ですね。非常に美しいところなので、みんなここまで登って来て一休みをする場所なのですが、たまたま登山者が一休みしていて、手前の池に映り込んでいる。向こうの谷から湧き上がってくる、霧の中で幻想的になった光景を捉えた作品だ。この池まで行けば大体こういう場面を撮るのだけど、それでもこの状況にはなかなか遭遇出来ない。朝早く行かないとね。右側の山肌には日が少し当たり始めた幻想的な白馬を印象的に捉えている。
☆入選2
「夢中(むちゅう)」佐藤 友美(神奈川協会)
メジロが、咲き始めた桜の蜜を夢中になって、体がひっくり返っても、吸っているところをユーモラスに捉えた作品。ともすると周りがうるさくなったり、ピントが甘くなったりするが、周りやバックの処理が良い。メジロがぐっと映り出るように、うまく背景を処理しながら撮った。手前の桜がちょっとうるさいが、そんなには気にならない。いい瞬間を撮ったし、一番のユニークさは、逆さまになったままでも、「夢中」になっているメジロを発見して撮ったのがこの作品の最大のポイントである。
☆入選3
「ミ・ズ・カ・ガ・ミ」坂野 昭八(岐阜協会)
池か川か、湖か、ダムかもしれないね、形状からすると。早朝の谷間、「ミズカガミ」というタイトルだから、そこがこの作品の一番の味噌だ。どうしても山の綺麗なところに目が行きがちですが、それを真二つに上と下にした。上部は本物の世界で下部が虚の世界、偽りの世界。画面を二つにして、両方見せた大胆さがこの写真の魅力です。真二つにして、事実と事実でないものをぶつけ合った作者の発想が光っている。
☆入選4
「待つ」石川 一郎(岩手協会)
鳥の持っている自然界で生きている生命力がよく出た作品である。眼光鋭く、目の中の光までにピントをピシャリと合わせたこと。ややもするとうるさくなってしまう木の枝、それをうまく構図の中に生かして、鳥が木に止まっているだけじゃなくて逆に自然の木枝を活かしたこともこの作品の良さに繋がっている。この状況では、なかなか構図としてうまくフレームできないが、作者の感性がいいのでしょう。自然のリアル感をだしている。
☆入選5
「2023マスクが去った夏」西内 健(徳島協会)
阿波踊り。「マスクが去った夏」というタイトルに表れているように、今までマスクをしての観客も踊っている人も息苦しかった。自由にできないもどかしさを、マスク無しで行けるという気持ちが踊っている人たち、特に一番手前で踊っているおじさんと周りの観客の人たちも含めて喜びが、画面から溢れている。そして、この作者自身も実はそれを喜んでいる。「マスクが去った夏」という視点で被写体を見たところが良かった。人々の心からの喜びが見る側に伝わってくる作品となっている。
☆入選6
「待ちに待った春舞台」 佐藤 正(熊本協会)
いい瞬間を捉えている。待ちに待った若者たちが本当に喜びを体中から表して、一斉に飛び上がった瞬間を捉えた作品。特に真ん中に写っている女子が、後ろの旗と一緒に重なり合って空中に飛んでいる。しかし旗とダブってしまい、よく見ないとわかりづらいのが残念だった。例えば望遠を使って、被写界深度を活用して後ろをもう少しボカして手前をもっとクローズアップできるような状態にすればよかったかもしれない。しかしこの作品は、これはこれでいいと思った。
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