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多くの診療所で経営が悪化、診療報酬の引き上げが必要
―医療経済実態調査に医科・歯科政策部長が談話―

(全国保険医新聞2015年12月5日号より)

 

 厚生労働省は11月4日の中医協総会で、第20回医療経済実態調査の結果を中医協に報告した。保団連は11月24日、三浦清春(医科)、池潤(歯科)両政策部長が「多くの診療科で経営が悪化 診療報酬マイナス改定に強く反対する」との談話を発表。要旨を紹介した。

「第20回医療経済実態調査」の有効回答率は、一般診療所52.6%と、前回調査比で2ポイント増。回答施設数(1,637)は前回(1,715)を下回った。歯科診療所は有効回答率(51.8%、▲3.3ポイント)、回答施設数(585→645)とも前回を下回った。
今回の調査では最頻値が公表され、平均値と最頻値に大幅な開きがあることがあらためて明らかとなった。保団連は09年実施の調査以後に廃止されていた損益差額等の最頻値の公表を要請していた(2013年調査への談話(PDF))
一方で、医療経済実態調査は、@定点調査は2年単位でしか比較できない、A集計区分によっては回答施設数が一桁の診療科がある、B事業年度の対象期間が施設によって異なり診療報酬改定年度通年の影響を反映できない―など多くの課題がある。本調査だけを診療報酬改定の基礎資料とすることは不十分である。

図 損益差額 平均値と最頻値

 

【全体の概要】 診療所全体の損益差額は減少 病院も赤字傾向

入院を含む一般診療所全体の医業収益の平均値の伸び率(13年度から14年度比。以下同年度比較)は▲0.2%、損益差額率は▲0.6ポイント悪化した。
最頻値では、医業収益▲1.5%、損益差額率は▲0.8ポイント悪化で、最頻値のマイナス幅が大きい。厚生労働省は「一般診療所全体の損益率は、入院収益の有無にかかわらず悪化している」と指摘している。
一般病院は消費税負担の増大もあいまって病床規模にかかわらず赤字が継続。国公立、医療法人を含む一般病院全体の損益差額率は▲1.7%から▲3.1%へと大幅に拡大した。これでは十分な人材確保や設備改善による地域医療体制の充実は望めない。
14年度の実質マイナス改定で、設備投資が大きく、仕入れコストが増えた大病院ほど悪化したことが考えられるが、その影響は一般診療所にも及んでいることがうかがえる。
歯科診療所(個人)の損益差額はわずか0.4万円増と変わっておらず、前回調査(13万円増)でも経営改善にほど遠い改定であったが、今回も同様の結果となった。また有効回答施設数は医科に比べても少なく、年度ごとにも減少している。歯科医療現場の実態にはほど遠い調査といえる。

 

【診療所(個人・無床診)】 損益差額・率ともに悪化 損益率30%未満が半数

 医業・介護収益の平均値は14.2万円(+0.2%)の微増だが、前回調査の191.4万円増と比べ、大幅に低下した。
 医業収益の平均値でみると、「公害等診療収益(労災、自賠責等)」が増加。「その他診療収益(自費等)」と、「保険診療収益」はほぼ横ばい。「その他の医業収益(健康診断、文書料等)」は減少した。
 医業収益の最頻値は▲0.8%と悪化。「公害等診療収益(労災、自賠責等)」、「保険診療収益」、「その他の医業収益(健康診断、文書料等)」が軒並み減少した。
 医業収益の平均値と最頻値では、2000万円近くの差が生じた。
 医業・介護費用の平均値は、44.4万円増加(+0.7%)。最頻値は34.8万円減少(▲0.7%)した。
 平均値、最頻値ともに、「委託費」「材料費」が増え、「医薬品費」が減少。委託費と材料費の増加は消費税8%への増税によるもの、医薬品費は後発品使用促進と受診延べ日数減少の影響と思われる。また、「給与費」は平均値では増え、最頻値では減った。多くの診療所で給与費を減らしている傾向が現れている。
 医業・介護費用の平均値と最頻値は、約1000万円の差が生じた。
 損益差額の平均値は、2641.8万円→2611.5万円と30.3万円減少(▲1.1%)。前回調査の171.2万円増加(+7.0%)と比べ大幅に低下した。最頻値は、1771.7万円→1756万円と15.7万円減少(▲0.9%)した。平均値と最頻値には900万円近くの開きがある。
 損益差額率の平均値は、30.6%→30.2%と▲0.4ポイント悪化。最頻値は26.2%で変化なしだった。
 診療科別の損益差額率(平均値)では、9科のうち7科(内・小児・精神・外・眼・耳鼻咽喉・皮膚)の診療科の経営が悪化。保険診療収益では内科(▲0.5%)と皮膚科(▲2.4%)がマイナスとなった。
 損益率の分布は、「20%未満」が26.4%→28.7%と増加。
 14年度では「30%未満」が49.1%と、医科個人診療所の約半数を占めた。最も割合が多いのは、「20%以上30%未満」(21.4%→20.4%)である。
 医療従事者の給与等では、14年度の診療所(医療法人・無床診)院長の給与等は▲0.7%と減少。勤務医は+3.4%となっている。
 診療所(個人・無床診)の勤務医の給与等は、▲0.5%と減少した。

 

マイナス改定は地域医療壊す

 医療経済実態調査は無作為抽出による調査で、一般診療所の回答施設数も1,637施設しかない。
 厳しい経営の医療機関は調査に協力できかねる傾向があるものの、診療所の損益差額の最頻値だけでなく、平均値も減少しており、厳しい経営状況がうかがえる。
 こうした中での診療報酬本体のマイナス改定は、さらなる地域医療の崩壊を招きかねない。在宅医療充実をめざす政府の方針にも逆行する。
 地域医療を支える診療所や中小病院の存続のためにも、診療報酬を引き上げることが必要だ。

 

【歯科診療所(個人)】損益差額(平均)の伸び大幅低下、最頻値との差は170万円

 医業収益の平均値は、11.8万円(+0.3%) の微増だが、前回調査の33万円増と比べると大幅に低下した。
 医業収益で増加したのは、「労災等診療収益」(+26.7%)。「その他診療収益(自費等)」と「保険診療収益」はほぼ横ばいだった。
 最頻値の伸びは+1.2%とほぼ横ばい。「その他の医業収益(健康診断、文書料等)」、「その他診療収益(自費等)」が増加し、「保険診療益」はほぼ横ばいであった。
 医業収益の平均値と最頻値は500万円近くの差が出ている。

医業・介護費用
 平均値は3.9万円(+0.4%)の微増だが、前回調査と比較すると、▲332.4万円と大幅に減少。最頻値は17.7万円(+0.7%)増加している。
 平均値、最頻値ともに、「歯科材料費」が増え、「給与費」は微増。「減価償却費」、「その他の医業費用」が減少した。
 医業・介護費用の平均値と最頻値は、330万円前後となっている。

損益差額
 平均値は1274.2万円→1274.6万円と0.4万円増のほぼ横ばい。前回調査の13万円増と比べ大幅な低下といえる。最頻値は、1085.8万円→1111万円と25.2万円(+0.4%)増加した。平均値と最頻値には170万円近くの開きがある。

損益差額率
 平均値は31.3%→31.3%と横ばい。最頻値は、30.6%→31.0%となっている。
 損益率の分布は、20%以上30%未満療診療所の割合が最も多い(18.2%→19.1%)。

医療従事者の給与等
 14年度の歯科診療所(個人・無床診)の歯科医師は、3.5%増加したが、前回調査と比較すると▲13.5万円と減少した。

 前回第19回の調査結果について、保団連は「医療保険データベース(MEDIAS)」との比較・検討を行い、「実調」の数値はすべての状況を反映しておらず、次期診療報酬改定の基礎資料とはならないと指摘した。
 そのうえで、「実調」の集計に当たっては今後「全体」の表示とともに、実態を偏りなく表示するなどの工夫・改善や、中央値、最頻値(09年度以降示されていない)を提示すべきと指摘した。
 保団連の要請で改善はみられるが、「最頻損益差額階級の損益状況」の回答施設数は60施設と歯科医療機関の実態を反映したものとなっていない。
 歯科医療の現状を打開し、安心、安全、良質な歯科医療を確保するためには、医療費の総枠拡大、次期診療報酬改定での技術料を中心とした大幅引き上げとともに、患者負担の軽減を早急に実現することが求められる。

以上