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負担増と給付抑制強調
―「骨太の方針」策定の議論―

全国保険医新聞2018年5月5・15日号より)

 

 

 政府は6月に閣議決定する「骨太の方針2018」に向けて議論を進めている。この間強調されてきたプライマリーバランスの黒字化=「財政再建」があらためて方針として具体化されそうだ。問題点を解説した。

 

75歳以上2割負担を提起

 3月29日に開かれた経済財政諮問会議では、16年以降の「経済・財政一体改革」の中間評価をとりまとめた。1%程度を目安としてきた18年度のプライマリーバランス(PB)の対GDP比赤字の見込みが2.9%に悪化したなど、財政再建の進捗に遅れが見られるとし、その要因に消費税増税の延期などを挙げた。一方で、歳出面では社会保障費の抑制を中心とした歳出削減を「改善」と評価し、一層の社会保障費抑制を進めるべきとした。
 5月に建議を取りまとめる財政制度等審議会では、後期高齢者の窓口負担2割化や、年金で既に導入されている「マクロ経済スライド」を例に経済や人口の動向により給付を抑制する自動調整制度の導入などが提案されている。PB黒字化という財政再建目標の達成時期の策定とあわせ、ドラスティックな患者負担増と給付抑制策が提起されている。

 

PB黒字化は絶対か

 PBは国債費等を除いた財政収支を指し、単年度の政策的な経費をどの程度税収により賄えているかを示す指標だ。18年度予算総額は97兆7128億円だが、対する税収は59兆790億円と見積もられた。支出のうち国債費等を除いた政策的経費と、税収の差額(PB)は10兆3902億円の赤字とされる。財務省は17年末の日本の債務残高を1071兆5594億円と発表した。これが「国の借金」と言われる数字だ。
 債務残高に対する評価やPBという指標に対する考え方は諸論ある。例えば、政府の保有資産を割り引いた「純債務」で見れば、財政赤字は深刻ではないとする見方もある。また、経済成長に重点を置き、財政再建のための緊縮的な財政ではなく、赤字が拡大しても財政出動により景気浮揚を図るべきとする議論もある。安倍首相自身も国会の答弁で、経済を無視してPBを均衡させても意味がないと発言している。
 PB黒字化の目標を全面に押し出して歳出削減と消費税増税の議論が進められてきた。しかし、財政再建論者の中でも、債務対GDP比の圧縮のためには経済成長を阻害する消費税増税を行うべきではないとする指摘もある。財政再建をどのように考えるかは、識者の間でもさまざまな見解がある問題だ。

 

一貫して進められた消費税増税・社会保障費抑制

 重要なのは、危機的と言われる債務の累増が、消費税を中心とした庶民増税と、社会保障費抑制が一貫して進められる中で進んでいる事実だ。消費税の税率は導入以後、3%から8%、つまり2倍以上に引き上げられた。今や税収に占める消費税の割合は、法人税を上回り所得税と並ぶ。
 しかし、それだけの増税をしながら財政は一向に改善していないのはなぜか。消費税が大企業・富裕層向け減税の穴埋めにされてきたためだ。消費税増税は必ず法人減税とセットで行われてきた。また、「貯蓄から投資へ」の流れの中で、証券優遇税制などにより富裕層が恩恵を受けてきた。その結果、大企業は400兆円を超える史上空前の内部留保を積み上げ、安倍政権下の5年間だけでも約70兆円を積み増している。にもかかわらず、給与所得者の賃金は97年以来下がり続けている(図)。
 国民には消費税負担と社会保障削減を押し付け、他方で大企業や富裕層への優遇を推し進めてきたのが「財政再建」の名の下に行われてきた政策。それにより格差と貧困が拡大し、先進国中最低レベルとされる子どもの貧困などの実態が生まれ、経済が成長しても税収が上がらない構造が作られてきた。
 財政を健全化するというなら、消費税導入以来引き下げられてきた所得税の最高税率や法人税率を元に戻すことや、行き過ぎた証券税制の優遇を改めることが最優先だ。

 

国民生活がすべての基本

 経済と財政を支える基盤は国民の暮らしだ。
 財政や社会保障財源の問題を考える際にも、雇用と賃金による所得の保障と、累進的な税制と社会保障による再分配によって、国内消費を中心とした安定的な経済を実現することが基本となる。
 国民生活に苦難をもたらしてきた消費税増税と社会保障費抑制の政策と決別し、この根本に立ち返る議論が必要だ。

以上