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新型コロナ感染対応に直面して
風評被害の経営影響重大 医療崩壊させないために

全国保険医新聞2020年4月25日号より)

 

 新型コロナウイルス感染が広がり、医療機関にも不安と混乱を招いている。熊本託麻台リハビリテーション病院の平田好文理事長(熊本協会、写真)は、自院の職員が感染し、診療停止や風評被害を経験した。どのように事態に対処し、残った課題は何か、寄稿してもらった。

 

発症時

―感染公表、病院封鎖に近い対応

感染症への対応

実施した院内感染防止対策

表玄関の出入口を停止し、職員以外の院内への立入禁止
外来診療・外来リハビリの中止
患者面会の禁止
訪問リハビリの中止
入退院の停止
薬の処方箋依頼については、エントランスで対応(主治医に報告)
入院患者の外出・外泊禁止入院患者の外出・外泊禁止
院外でのリハ訓練の禁止
訪問診療、訪問リハの中止
歯科往診の停止
非常勤医師の出勤中断
保育所の中断
洗濯物等の受け渡しは、エントランス又は職員通用口で対応
職員は、病棟間をまたがない
食事介助時はデイルームの使用禁止
院長による入院患者向けの院内放送
第3及び第4会議室の使用停止
法人が実施するセミナーや研修会等は中止または延期とする
院外主催者で当院を利用する研修やセミナーは中止または延期を依頼
出張を禁止
ホームページに現状報告を適宜更新

 2月下旬、当院の20才代の看護師が休暇中に新型コロナウイルス感染症に罹患し、感染症指定医療機関に入院しました。約1カ月の間に人工呼吸器を装着した時期もありましたが、現在は人工呼吸器を離脱し酸素も外れ、自宅待機をするまでに回復できたことをとても嬉しく思っています。
 発症から一度も病院に勤務していませんでしたが、2週間の不顕性感染の時期に勤務していたので、院内感染の可能性を否定できず熊本市保健所と相談して、感染が分かった当日に病院名を公表しました。
 また、発症前日に一緒に会食をしていた11人も濃厚接触者ではありませんが、院内感染の防止及びクラスター発生の防止の目的で、2週間の自宅待機としました。表のような院内感染の防止対策を徹底して行いました。
 これは、病院封鎖といってもいいと思います。発症後2週間の間に行われたPCR検査は全員陰性でした。院内感染もクラスターも発生しませんでした。

 

風評被害

 公表当日から数日間は患者さんに無関係の方からの心ない電話が途切れることなく鳴り響きました。とても悲しい気持ちになりました。

 

発症から通常診療再開まで

―対策本部の迅速設置、外来中止

感染症への対応

熊本託麻台リハビリテーション病院
熊本託麻台リハビリテーション病院

 @感染対策委員会のメンバーを中心とした、新型コロナウイルス対策本部を感染が分かった当日すぐに設置しました(熊本地震の時に経験した対策本部の運営が参考になりました)。熊本市保健所から2人の職員が当院の感染対策本部に常駐してくれて、院内の感染対策強化及び、11人の自宅待機者の医療情報の共有を行い、PCRを行うのかの判断を相談しました。行政が私たちを支えてくれて、One-teamとして活動できました。
 Aこれらの熊本市保健所の情報に基づいて、院長が毎朝、病院内の入院患者さんにPCRの件数、判定の状態と院内感染が生じていないことを放送し、安心して入院生活を過ごしてもらう努力をしました。入院中の患者さんからクレームはほとんどありませんでした。
 B外来は全て中止にしましたが、外部から来院される方は他にも洗濯クリーニング関係をはじめ多数の方がおられます。これらの外部の方もほとんど立ち入りを禁止し、委託部門の職員も当院と同じルールで働いてもらいました。大学病院の非常勤医師の当直も中止し、すべて当院の常勤医師で行いました。もし、院内感染が生じると大学や他病院に迷惑がかかるからです。

 

風評被害

 公表したのだから、病院への風評被害があることは覚悟していました。
 しかし、思ってもみなかった風評被害が職員の家族におよびました。全く接触のない職員の家族に対して、保育園には来ないでほしい、ご主人には勤務しないでほしい、診療所からも診療拒否をされるなどがみられました。熊本でははじめてのことなので、地域の方々の気持ちは分かります。職員及び家族には我慢してもらいました。
 発症から2週間、全く院内感染は生じず、自宅待機の職員もすべてPCRは陰性でしたので、通常診療を再開しました。
 この公表により、職員や家族に対する風評被害は全く消失しました。熊本市の地域の方々に深く感謝しています。

 

通常診療再開から

―情報公表を徹底、患者の不安いまも

感染症への対応

 @外来を再開する前に、熊本市保健所の方に当院の感染対応の再評価をしていただき、この結果に基づいて通常診療の再開を決定しました。
 A外来診療再開とともに外来の患者さんのみならず、外部から来院される方にもすべて体温測定を行い、面会は謝絶としています。これらの経過を当院のホームページに載せて感染対策が十分行われていること、再開した根拠などを公表しています。さらに、すべての連携医療機関、介護施設に連絡や訪問を行い理解を得ています。「わかりました。大丈夫ですね」と言われ、すぐに再開できると思っていました。

 

風評被害

 外来患者さんの来院は少しずつ回復してきています。入院患者さんもすぐ元に戻ると思っていましたが、基幹病院の先生方が当院をすすめても家族がまだ怖いと言ってほとんどリハ目的の入院は無くなりました。1カ月経過した今でもこの状況は続いています。
 熊本の地方紙やメディアも取り上げてくれましたが、まだ回復には程遠いようです。

 

心のケア

 感染した職員及びその家族、自宅待機した職員のみならず、全職員に心のケアが必要です。熊本地震の時と同じように皆、我慢していたのです。熊本市と当院の心理士の3人で現在、心のケアを行って職場復帰の支援を行っています。個々の職員と組織にとってはとても大事な問題です。

 

新しいフェーズの対策を

―誰もが感染の可能性

 熊本では、これまで当院が病院名を公表してから、介護施設、温浴施設、飲食企業が施設・企業名を公表し、クラスターの拡がりは追跡することができ、最小限に抑えられていてとても嬉しく思います。
 しかし、緊急事態宣言が発表された都道府県からの帰省がはじまっています。私たちの病院も、7都道府県から帰ってこられる方が、家族との接触があると考えリサーチするとかなりの症例が認められました。入院は面会時にチェックができますが、外来患者、訪問診療、訪問看護、訪問リハの患者の家族もチェックしています。緊急事態宣言が出てから、フェーズが変わっているようです。現在は、院内に感染を入れない対策が複雑になっています。
 これからは、誰もが感染している可能性を想定した新しい感染対策が必要と感じています。一方、面会できない患者さんと家族の対策が必要です。テレビ電話を用いた新しい面会と患者さんの心のケアを行いたいと思っています。

 

最後に

―風評被害の経営影響は重大

 職員が新型コロナウイルス感染症に罹患し、病院名を公表しました。院内感染もなく、クラスターを予防し感染拡大を防止することができました。
 しかし、風評被害にて地域の方が新型コロナウイルス感染症を未だに怖がり、急性期病院からの転院は少なく、退院先の病院・施設は怖がって転院はできず、病院の施設基準を維持するのは困難な状態となり、経営に重大な問題が生じています。
 私たちの病院に生じている問題は当院のみならず、現在、全国に発生している職員の罹患した病院や患者さんが入院した病院にも同じようなことが生じていると言われています。
 今後の医療体制の崩壊を起こさないためにも、施設基準の維持は最低限の保障であると考えます。
 風評被害に関しては、熊本市のホームページをはじめ、熊本市長がツイッターで人権侵害がおきないように、いつもメッセージを載せてくれています。そのこともあって風評被害が最小限になったと思われます。公表したことにより、行政から守ってもらったと思っています。

以上