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コロナ禍と医療現場

感染拡大防止に尽力
 医療体制拡充は焦眉の課題を

全国保険医新聞2020年7月15日号より)
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 新型コロナウイルスの感染が拡大する下で、医療機関は感染拡大防止に尽力しながら医療提供を継続してきた。緊急事態宣言が解除されて、1カ月半が経過したが、患者は再度増加傾向にある。医療現場の実態を紹介し、今後の課題を考える。

 

通常の対策さらに強化―宮城協会 杉目 博厚

杉目氏の歯科医院に貼られている
感染対策への理解を求める張り紙

 コロナ禍の中、歯科は患者の受診抑制により甚大な経営危機に陥っている。国民の外出自粛による受診控えもあるが、科学的根拠のない厚労省通知や誤ったマスコミ報道も大きな影響を与えた。
 そもそも歯科はCOVID-19以前からさまざまな感染症と対峙しながら診療を行ってきた。歯科におけるスタンダードプリコーション(標準予防策)は徹底されている。これに加え換気を行い、COVID-19用問診票・受付パーテーション・フェイスシールド等を用いさらに対策を強化している。結果、歯科診療によるCOVID-19の感染者はいまだ一人も確認されていない。この点を国民に周知することは必須である。
 さらに、「歯科医療はウイルスと闘うために必要な医療」であることを訴えていく必要がある。
 インフルエンザ予防に関して、口腔ケアが重要であるということは既に知られている。
 歯周病菌が出すタンパク分解酵素(プロテアーゼ)がウイルスの細胞への侵入を促進させる。SARS-CoV(SARSコロナウイルス)もプロテアーゼ依存性を持ち活性化することが論文で発表されている。またウイルス感染への有効な対策は体の免疫力を低下させないことである。腸内細菌のバランスは全身の免疫に密接に関わるが、口腔内の細菌は腸内細菌のバランスを乱し、免疫力を低下させる。
 このような点からも「歯科医療はウイルスと闘うために必要な医療」なのである。
 このことを多くの国民に発信すると共に、我々自身がCOVID-19の終息に必要不可欠な医療を担っているという気概を持って前へ進むことが必要であると考える。

 

消毒液が1カ月届かず―神奈川協会 田辺 由紀夫

通常時からの感染症対策を徹底している
田辺医師

 眼科では有効な薬剤のないウイルス性結膜炎が存在するので、感染症対策といってもあまり特別なことはしていない。元々多くの眼科医がしているように、患者さんひとりひとりについて手指の消毒または手洗いは励行している。以前よりもこまめに行うようになったのは手すりや椅子の清拭とマスク着用くらいである。
 職員には、毎日の検温を指示したが、発熱で眼科を受診する患者はまずいないので、患者への検温は実施せず、入口に注意喚起のポスターを貼り、密回避で待合室内の人数制限を行っている。診察に使用する細隙灯顕微鏡では医師・患者間が35センチほどとなるので、透明のシールドを設置する施設もあるが、当院では行っていない。
 マスクや衛生材料の不足が問題となっているが、消毒用エタノールが注文して1カ月届かなかったのには、一番困った。幸い蓄えがあったので何とか間に合った。
 マスクについては神奈川協会や横浜市などからの配給があり、現在は充足している。
 また、入居しているテナントの関係で商店会に入っており、そこからもマスクの他、手指用消毒剤の配給があり、会費を払っているメリットを実感した。
 政府の緊急事態宣言が出てからは、高齢者を中心に受診控えが起こり、4・5月は前年同月比で約3割の収入減となったが、種々の調査を見た限りでは当院はマシな方だ。
 宣言解除後は患者さんも戻ってきており、その威力を感じる。だからこそ、政府の施策を注視することが必要だ。

 

PCR検査の敷居高く―愛知協会 浅海 嘉夫

PCR検査拡充が
焦眉の課題とする浅海医師

 新型コロナ緊急事態宣言が全国に拡大された4月中旬。多くの患者が発熱で心配しつつ、受診を躊躇したりPCR検査を望んだりしてさまよい、最前線の現場医療機関も翻弄される日々を送っていた。
 医療資材の不足はもちろんだが、とにかくPCR検査への敷居の高いこと。患者が電話すると、「かかりつけ医に受診するように」との一辺倒だが、ことは簡単ではない。
 一例だが、長引く高熱、全身倦怠感、高度肝障害の高校生であった。相談センターに電話を入れると、確かにPCR検査への手配はしてくれた。しかし入院も含めた精査の依頼を持ちかけると、「PCR検査対応しかしていない。先生の方から直接高次医療機関に相談してほしい」となった。やむなく名古屋屈指の病院いくつかに連絡したが、「発熱者は診ない」「PCR検査予定者は診ない」との返事で八方ふさがり。もちろん現場が大変なことはわかるが、これでは発熱すると重症患者は行き場がない。
 何とか保健センターに談判し、PCR検査のできる郊外中核病院の感染責任者と話すことができた(本当はどこでPCR検査をするかは教えないのだが)。同病院の感染責任者と上司の英断で、熱はあるものの濃厚接触が否定的なので、PCR検査とともに高熱、肝障害の精査もしていただいた。結局その日の午後はこの対応だけで終わってしまった。こんなことが何度か続き、地域医療体制の崩壊をいやでも思い知らされた。
 今でこそ基幹病院は発熱患者受け入れに余裕はあるが、抜本的な医療体制の増強、保健センター・PCR検査拡充は焦眉の課題である。人が生きていくために必要なものは、自己責任論ではなんら解決できない。

以上

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