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インボイスの医療機関への影響 

税理士 益子良一
全国保険医新聞2021年10月15日号より)

 

 2023年10月から消費税にインボイス制度が導入される。導入に伴う医療機関への影響について保団連顧問税理士の益子良一氏(税理士法人コンフィアンス・写真)に聞いた。

 

仕入れ税額控除に制限

 インボイス制度の導入とは、消費税に「適格請求書等保存方式」が導入されるということである。
 税務署に登録した「登録事業者」すなわち適格請求書発行事業者のみが適格請求書いわゆるインボイスを発行でき、その登録事業者が交付する適格請求書等の保存が仕入税額控除の要件となる。
 その結果、「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」でないと仕入税額控除ができない。
 このインボイス制度は2016年度税制改正で創設され、23年10月1日から施行される。
 インボイス制度が導入される23年10月1日から登録事業者になるためには、原則として23年3月31日(困難な事情がある場合は23年9月30日)までに登録申請する必要がある。その登録申請書は、21年10月1日から提出が可能となる。

制度の概要

登録事業者
 登録事業者(適格請求書発行事業者)とは、免税事業者以外の事業者(登録事業者となるには課税事業者になる必要がある)で、納税地を所轄する税務署長に申請書を提出し、適格請求書を交付することのできる事業者として登録を受けた事業者をいう。
 登録事業者は国税庁のホームページで公表され、インターネットを利用して閲覧ができる。

法人番号等
 法人番号(法人の場合すでに税務署で付番済み)を有する課税事業者は、「T」(ローマ字)+法人番号(数字13桁)、個人事業者や人格のない社団等の課税事業者は、「T」(ローマ字)+数字13桁の登録番号が付番される。なお、その13桁の数字には、マイナナンバー(個人番号)は用いず、法人番号と重複しない事業者ごとの番号となる。

記載事項
 インボイスの記載事項は、▽適格請求書発行事業者の氏名又は名称及び登録番号▽取引年月日▽取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)▽税率ごとに合計した対価の額(税抜き又は税込み)及び適用税率▽消費税額等(端数処理は一請求書当たり、税率ごとに1回ずつ)▽書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称―である。
 小売業、飲食店業、タクシー業等の不特定多数の者に対して資産の譲渡等を行う事業については、適格請求書の記載事項を簡易なものとした「適格簡易請求書」を交付することができる。

経過措置
 インボイス制度導入後、次のような経過措置(※)があるが、あくまで期間限定の経過措置と認識すべきである。

23年10月1日から26年9月30日までは仕入税額相当額の80%
26年10月1日から29年9月30日までは仕入税額相当額の50%

医療機関への影響

 消費税は消費一般に広く課税する間接税で、国内における商品の販売・サービスの提供が課税の対象となる。そして取引の段階ごとの税率で次のように計算して納付する。

【納付すべき消費税=課税売上に係る消費税―課税仕入に係る消費税】

 インボイス制度の導入で「課税仕入に係る消費税控除」が問題となるが、医療機関にどのような影響をもたらすだろうか。

医療機関に与える影響

@ 消費税の課税売上が1000万円以下の場合
   消費税の納付は生じないため、その限りにおいてはインボイス制度の影響は生じない。
A 消費税の課税売上が1000万円超5000万円以下で簡易課税を選択している場合
   消費税の仕入税額控除について「みなし仕入れ率」を適用するので、仕入先がインボイス発行事業者か否かは関係ない。
B 消費税の課税売上が5000万円超(事業所健診を行う病院や診療所、または矯正歯科などが考えられる)の場合
   原則課税となるので、仕入先がインボイス発行事業者か否かが大きく関係してくる。

届出選択は慎重な検討必要

 視点を変えて医療機関の収入の相手方が事業者で、その事業者が簡易課税でなく原則課税で消費税を申告している場合、前述の@、Aであると、その事業者にとって仕入に係る消費税の税額を控除できるかどうかは切実な問題となる。
 例えば事業者が従業員の健診費用33万円を医療機関に支払った場合、本体価額は30万円、消費税は3万円となる。その場合インボイス発行事業者である医療機関への支払いだと3万円について仕入税額控除できるが、インボイス発行事業者でない医療機関に33万円支払ったとしても、その3万円の仕入税額控除はできない。そうなるとその事業者は、消費税売上が1000万円以下で消費税の納付義務がない医療機関に対し、課税事業者となりインボイス発行事業者になることを求めてくることが考えられる。
 要求に応じて課税事業者となった場合は、課税売上1000万円以下でも消費税の納税義務者となるので、医療機関の負担が増えることとなる。一方要求に応じない場合は、健診を受ける医療機関を変更されてしまう可能性があり、悩ましい選択を迫られる。

登録事業者で毎年消費税納付も
 今年特有の事情として、新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種対応に追われていると考えられる。そのワクチン接種の収入は自費収入となり、その結果、課税売上が1000万円を超えてしまうと、2年後は課税事業者として消費税の申告の必要が出てくる。そのとき簡易課税の届け出とともに登録事業者すなわち適格請求書発行事業者の申請も一緒に行うかである。
 消費税の課税売上が1000万円を超えるのが毎年でないとしても、登録事業者になると課税事業者として毎年消費税の納付が出てくることになる。そこで簡易課税を選択したとしても、登録事業者になるか慎重に検討する必要がある。

自費5000万円超では大きく影響
 医療機関の自費収入が5000万円超の場合、原則課税となるので、仕入先がインボイス発行事業者か否かが大きく関係してくる。
 例えば矯正歯科で原則課税の場合を考えると、技工所が登録事業者かどうかにより納付する消費税の額が異なってくる。また、飲食等の経費について、所得税や法人税の経費になったとしても、その事業者が登録事業者でないと消費税の仕入税額控除はできないことになる。なお、医療機関は、非課税収入もあるので、個別対応させない限り、インボイス発行事業者からの仕入であったとしても全額控除できるわけではない。

導入時期延期を提言

 23年9月30日までの帳簿記載方法は「区分記載請求書等保存方式」で、消費税課税に当たり有効に機能している。そのようなこともあり、全国15の税理士会で構成されている日本税理士会連合会では、最重要建議・要望として、インボイス制度導入による事務負担に与える影響や中小企業の廃業等市場取引に与える影響に鑑み、「適格請求書等保存方式(インボイス)制度を見直すとともに、その導入時期の延期」を提言している。

顧問税理士と相談が必要

 国税庁が発行したパンフでは、インボイス制度の導入が推進されている。
 しかし、インボイスを発行するためには消費税の課税業者となって税務署に登録が必要で、医療機関にとっては設備投資や事務手続きを含め過重な負担が生じる。
 23年10月1日から登録事業者になるには、原則として23年3月31日までに申請書を提出すればよいので、その間に顧問税理士あるいは保険医協会・医会とよく相談して対応すればよいだろう。

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以上

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