1章 政府の医療改革がめざすもの



 厚生労働省は05年10月に「医療制度構造改革試案」(以下「厚労省試案」)を発表しました。05年6月に閣議決定された「骨太方針05」では、医療制度構造改革が最重点に位置付けられています。厚労省試案をたたき台に、政府・与党は05年12月に「医療制度改革大綱」(以下、「大綱」)を決定し、今後、06年の通常国会に医療関連法案を提出する予定です。
 「大綱」は、医療保険給付費の伸びを「経済財政と均衡」させて抑制し、総枠管理することを最大の目標にかかげています。1.医療給付費(給付)と保険料(負担)を連動させて、地域格差を拡大させる公的医療保険の都道府県単位化、2.-都道府県ごとの「医療費適正化計画」の法制化、3.公的保険給付範囲の縮小と「保険導入検討」医療の導入などによって、医療給付費の総枠抑制を実現しようとしています。



 先進国中最も重い患者の負担にもかかわらず、さらに患者・国民に負担増を押しつけようとしています。

(1)高齢者の患者負担を1割から2割(一定所得以上は2割から3割)へ!

  07年から団塊世代が定年退職をむかえ、高齢者が増加します。政府は、こうした世代に焦点をあて、高齢化がピークとなる2025年に向けて、高齢者の負担増をすすめる計画です。介護保険料をあわせると月1万円以上が年金から天引きされることになります。配偶者や、子どもの扶養家族となっている400万人から新たに保険料を徴収する計画です。

(2)長期入院の食費・居住費を全額自己負担に

  介護保険の改悪にならって、長期入院時の食費・居住費として月3万円程度の負担増が計画されています。一般の入院も、保険から給付される「食事療養費」の減額が検討されており、その結果によっては現行の食事代1日780円の引き上げの可能性もあります。







(3)患者負担の月額上限の引き上げ
  現行の患者負担月額上限(高額療養費、高額医療費)の引き上げが検討されています。






1.かぜ薬、ビタミン剤、漢方薬など市販されている薬を保険給付の対象からはずす。
2.保険免責制の導入












 「保険証1枚」でかかれる公的医療給付費を縮小させる一方、保険がきかない医療を拡大させようとしています。2004年末の厚生労働相と規制改革担当相の合意で、混合診療(特定療養費)を認める医療行為を拡大することになりました。現行の特定療養費制度を廃止し、保険導入のための評価を行う「保険導入検討医療(仮称)」および保険導入を前提としない「患者選択同意医療(仮称)」に再構成した上で、2006年10月をめどに実施する計画です。
 保険外の負担を拡大するならば、患者さんの経済力の差により受けられる医療の格差が広がります。




 都道府県の医療計画で主要な疾病ごとに医療を管理する体制を構築し、「年間外来受診回数」「年間総入院日数」などの削減目標を、地域での受け入れ体制や地域性を考慮せず、機械的に導入しようとしています。病院からの追い出しや患者さんのフリーアクセスが阻害されることが危惧されます。
 不採算医療や難病医療をはじめ地域の医療を担ってきた国公立病院等の統廃合と民営化が進んでいます。これも医療に対する国などの公的責任の放棄です。



 財界は、医療・社会保障に対する企業負担を軽減し、「国民の互助制度」に変えていこうとしています。また、保険企業業界などは、保険診療と保険のきかない診療による混合診療の導入、株式会社による病院経営、それらを自由化する医療特区の設置などを通じて、医療を大企業の利潤追求の場にしようとしています。医療を営利企業のもうけの対象にしようという流れのなかで、神奈川県では株式会社が経営する医療機関の第1号が認可されました。