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【政策解説】見えてきたTPP
―企業が政府に圧力―

(全国保険医新聞2016年2月5日号より)

 

 TPP交渉参加の12カ国は2月4日、署名式を開催する予定だ。署名によって最終合意となり、内容が確定する。安倍内閣は、TPP協定承認案と関連法案を3月上旬に国会提出し、4月以降、審議を開始する方針である。前回に引き続き、医療制度への影響を解説した。

ジェネリック薬企業の参入が困難に

 新薬の保護強化制度では、特許リンケージ制度を新たに導入する。ジェネリック薬企業から製造販売承認の申請があると、政府当局が、当該医薬品にかかる特許権者(新薬の開発企業)に通知を行い、特許権を侵害していないか確認することを義務づける制度だ。特許権者が訴えを起こした場合は、政府当局は製造販売の承認審査を停止する。
 米国は、特許権者が訴訟した場合、係争中はジェネリック薬の製造承認を保留させることを要求していたが、これが通った形である。韓米FTAや豪米FTAでもこうした通知制度が設けられている。
特許期間を延長し、新薬のデータ保護期間を設けるなど、製薬企業の独占的利益を保障する一方で、ジェネリック薬企業の参入に対する新たな障壁が出現することになる。

民間医療保険の規制緩和

  「投資」(9章)で、「投資家と国との間の紛争の解決(ISDS)」を規定している。外国企業や投資家が、投資先の国や自治体が行った施策や制度改定によって、不利益を被ったと判断した場合、制度廃止や損害賠償を投資先の相手国に求め、国際仲裁法廷に提訴できる国際法上の枠組みである。
 厚労省が「先進医療」の保険収載を進めることによって、米国保険会社の先進医療保険の売れ行きが落ち込み、不利益を被ったとして、ISDS条項を発動して施策の中止や変更を求めることが懸念される。
 米国で認可されている民間医療保険を持ち込み、日本での商品認可や販売に関する規制緩和を求めて、ISDS条項を発動することも考えられる。
 ISDS条項を盾にして、米国企業の政府への圧力が強まることや、ISDS条項の発動を回避するため、政府に制度改正への萎縮効果が生じる懸念もある。
 一方、「正当な公共目的等に基づく規制措置を採用することが妨げられない」と規定している。しかし、医療が「正当な公共目的」に該当するのか、投資家が提訴する自由をどの程度、規制するのかなどは不明である。
 国際仲裁法廷の裁量とTPP委員会の解釈に委ねられており、政府が行った規制措置が誤りであると認定される可能性がある。

外国医師、歯科医師の流入も?

  「国境を越えるサービスの貿易」(10章)は、「自由職業サービス附属書」で、「資格を承認し、及び免許又は登録の手続きを円滑化」するため、「自国の関係団体に対し、他の締結国の関係団体との対話の機会を設けることを奨励する」ことを規定している。日米の医師会など医療団体による対話を促しているとも読める。
 「自由職業サービスに関する作業部会の設置」に「努める」としており、将来的に、医師、歯科医師をはじめ自由職業サービス資格の相互承認が進むことが予想される。

権限持つ「委員会」

 「運用及び制度に関する規定章」(27章)で、TPP委員会(大臣又は上級職員で構成)を設立し、その下に多くの補助機関を設置することを規定している。
 TPP委員会は、▽協定実施や運用に関する問題、▽協定の改正・修正に関する提案検討、▽協定の解釈や適用に関する紛争解決、▽各締結国に対して実施計画やその進捗状況の報告を求めるなど、規制やルール作りに対し、一定の影響力を持つ可能性がある。
 TPP協定の実施や運用について、締結国の政府と国会を超える広範な権限を持つ事務局が出現することが懸念される。

日本の手続きなければ発効せず

 TPP協定発効には12カ国中、日米を含む6カ国以上、合計GDPで85%以上の国々で手続を完了することが要件だ。日本(GDP17.7%)と米国(GDP60.5%)に加えて、4カ国以上が不可欠である。日本が手続きを完了しなければ、協定は発効しない。
日本の公的医療保険制度を脅かすTPP協定は国会承認すべきではない。

以上