老後の安心売り渡すのか
年金―支給減額、積立金運用
(全国保険医新聞2016年2月5日号より)
安倍内閣は今通常国会に、公的年金制度改定法案を提出する。年金給付の伸びを物価や賃金より低く抑える「マクロ経済スライド」(厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」ホームページより)を見直し、さらに給付を削減する内容。公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、株式を自家運用することも盛り込む予定だ。
■マイナス分をキャリーオーバー
「マクロ経済スライド」は、年金支給額を物価と賃金の上昇分より低く抑える仕組み。公的年金の被保険者数の減少率の実績に、平均余命の伸びを勘案した一定率(0.3%)を加えた「スライド調整率」を、賃金・物価上昇による年金額の伸びから差し引いて、年金額を決める。少子高齢化を踏まえた将来世代の給付水準を確保するとの名目で2004年に導入。15年度に始めて実施された。
これまでは、物価・賃金の伸びがマイナスの場合や、物価・年金の伸び幅が小さいためスライド調整率を差し引くと前年の支給額を割り込む場合には、実施しないこととされていた。
今回の改定案は、「マクロ経済スライド」を実施できなかった年の支給の削減分を、次年以後に持ち越し、物価上昇時にまとめて実施するようにする。いわばマイナス分のキャリーオーバーで、物価・賃金上昇で本来なら支給額が増えるはずの年でも、大きく減ることになる。
■GPIFが株式投資に直接関与
一方で、厚労省・社会保障制度審議会年金部会では、公的年金を運用するGPIFが株式を自家運用することを検討している。公的年金制度改定法案に盛り込む予定。運用会社に支払う手数料の節減、運用能力の向上などが目的とされる。
GPIFは厚労大臣から年金積立金の寄託を受け、管理・運用を行う独立行政法人。年金積立金を国内外の株式、債券に投資し運用する。これまでは国内外の株式については、信託銀行や投資顧問会社に運用を委託してきた。
■株式投資で8兆円の赤字も
昨年11月の発表では、GPIFの7〜9月期の運用損益は7兆8899億円の赤字となった。国内株式、外国株式での運用赤字が要因だ。
GPIFが運用する年金積立金は約135兆円。発足当初の資産構成割合は、国内株式と外国株式がそれぞれ12%だったが、安倍政権の下で「より機動的な運用を目指す」として、14年10月に見直された。現在、国内株式と外国株式の割合はそれぞれ25%。個人が納めた積立金から巨額の金が株式市場に流れ、株価にも大きな影響を与えている。
安倍政権は、国民の年金受給額を低く抑えながら、老後の安心ための原資を株式市場につぎ込み、「成長」を演出する狙いだ。「老後の安心」を売り渡すことにならないかが厳しく問われる。
以上