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厳戒態勢続くパリ
―週刊紙社襲撃から1年―

全国保険医新聞2016年3月5日号より)
理事・ジャーナリスト 杉山正隆

 

 フランスのパリで1月、昨年相次いだテロ事件の犠牲者を追悼する式典が開かれ、遺族ら数千人が出席して犠牲者を悼んだ。式典では、昨年1月に風刺週刊紙「シャルリ・エブド」やユダヤ教徒を主な顧客とする食料品店「ハイパー・キャッシャー」が襲撃された事件で死亡した 人と、同11月の同時テロで亡くなった130人を追悼した。

「屈しない」決意

 非常事態宣言下ではあるが、同広場は事件の追悼や言論の自由を訴える集会の場となっており、共和国のシンボルであるマリアンヌ像の前にはろうそくや花束、犠牲者の遺影が並んでいた。
 追悼式に参加した市民らは襲撃された新聞社への連帯を示す「私はシャルリ」と書かれたプラカードを掲げたり、フランス国歌を口ずさんだりして、テロに屈しない決意を新たにした。
 同広場は1年前、テロに立ち向かう160万人の市民らがデモ行進した出発点。市民の1人は「今も怒りと不安のはざまにあるが、テロに屈しない姿勢を示したいと思って来た」。別の参加者は「以前のような自由で平和な暮らしを続けたいと願っているが、それが不可能なことも分かっており、とてもつらく悲しい」と話した。パリ北部の警察署に刃物を持った男が侵入し警察官に射殺される事件が式典の数日前にあり、市民らは再び大きな衝撃を受けた。

戸惑いも

 シャルリ・エブド事件の後もパリ市民は従来通り街頭に出てデモに参加していた。しかし、身近な仲間や知人、友人までもが犠牲となった昨年11月の同時テロはあまりに衝撃的だった。市民は怒りや悲しみの中で、街頭デモで何かを変えられるとは信じられなくなってしまった。
 「あまりに隙だらけだ」との声がある一方で、「何をどうして良いのか分からない」。自由を謳歌し、自他ともに「人権先進国」と認めるフランス。常にその中心であり続けたパリは今、静まり返っている。官公庁や駅などは武装した兵士らが巡回し警戒しているが、非常事態宣言が出されているためというより「当惑が深いあまりデモで意思表示をしようとの気持ちが消え失せつつある」との指摘も。

過激思想どこから

 容疑者が潜んでいたとされるパリ北部や、彼らの多くが生まれ育った隣国・ベルギーのブリュッセル近郊のモレンベーク地区は中近東などからのイスラム系移民が多数を占める。しかし、どちらも実際に歩いてみると当局が「テロ過激派の温床」というほどの雰囲気はなく、昼間はベビーカーを押す女性や子どもたちの笑い声が響く「中東の町」のような平穏な空間があった。
 テロ事件の現場はパリ東駅からヴォルテール大通りの数キロの徒歩圏内に集中する。東駅前には中東系の若い母親と3人の幼児が冷たい雨の中、座り込んでいた。見かねた老婦人がバナナを差し入れ母子はむさぼるように食べていた。ベルギーでもフランスでも、職の無いイスラム教移民の若者が少なくない。行き場のない閉塞感が若者をISIS(イスラム国)などの過激思想に走らせる、との指摘もうなずける。

以上