新専門医 拙速開始は疑問
―「延期」「白紙」求める声も―
(全国保険医新聞2016年4月15日号より)
社会保障制度審議会医療部会に設置された「専門医養成の在り方に関する専門委員会」は3月25日、初会合を開いた。同委員会は2月の医療部会(2/18 第44回社会保障審議会医療部会)で、2017年4月の制度開始は「拙速」「延期すべき」との意見があったことを受けて設置された。地方の中小病院での医師確保、医療の質の担保などが懸念されている。制度を運用する日本専門医機構のガバナンスや運営の透明性にも疑義が出された。専門委員会の議論でも依然、「制度を白紙に戻して基本的な議論を」との意見が相次ぎ、医療関係者の間で合意が得られているとはいえない状況である。
少なくとも医療界の合意と納得を得るまでさらなる検討が必要であり、拙速な制度開始は疑問だ。
新専門医制度、地域医療への懸念解消されず
17年4月実施を前提にプロセス案
社会保障制度審議会医療部会に設置された「専門医養成の在り方に関する専門委員会」は3月25日、初会合を開いた。医療部会では「延期」「拙速」との意見が相次いだものの、委員会では、当初予定の17年度からの養成開始を前提にしたプロセス案が示された。
プロセス案では、日本専門医機構、都道府県及び厚生労働省の役割が示された。
日本専門医機構は4〜6月にかけて、都道府県と各プログラム情報を共有し、研修施設の偏りや、専攻医募集数・要請数などを審査し、調整する。
都道府県は、大学等の研修基幹施設や連携施設、医師会等で構成する協議会で、必要な施設が研修施設から漏れていないかなど、地域医療確保の観点から検証、調整する。
厚労省は、日本専門医機構と都道府県における調整の支援や、両者間の調整を行うとしている。
情報提供・周知も不徹底
2月の医療部会(2/18 第44回社会保障審議会医療部会)では、研修に必要な症例数が得られない地方の中小病院には専攻医が集まらず、医師偏在が助長されるのではないかとの懸念が出されていた。プロセス案でこうした懸念を払拭できるかは不明だ。新専門医制度に関する協議会を設置して議論を始めている都道府県は16に過ぎない。6月までに全国で地域医療への影響を精査し、調整を行える保証はない。
また、地域の開業医に対する評価や、既存専門医の新専門医への移行・更新についての情報提供や周知も不徹底なままである上、日本専門医機構のガバナンスや運営についても懸念が出されている。
委員会の議論では、なお「白紙に」、「延期」との意見が出された。医療界の納得と合意が得られているとは言いがたい。
「医師の不安高まっている」
京都協会が厚労大臣に要望
京都府保険医協会は3月18日、新専門医制度について厚労省医政局の担当者と懇談し、垣田さち子理事長、吉中丈志理事が協会でとりまとめた塩崎恭久厚労大臣宛の要望書を手渡した。要望書は、会員医師との意見交換を重ねる中で、制度に対する不安や疑問が寄せられているとして、病院への影響、開業医への影響、地域医療構想との関係での懸念を指摘している。
厚労省担当者は、要望について医療部会に設置された専門委員会で日本専門医機構から説明があり、議論される予定であるとし、基本的な考えとして「専門医機構が実施する制度だが、地域医療に影響を及ぼすことになれば、厚労省としてもすべきことがある」と述べた。
また、新専門医資格取得は、「法令による義務ではなく、取得しなければ仕事ができないわけではない」とし、専門医資格の更新は「経験を重視するが、症例絶対視ではない」などの見解を述べた。専門医とそうでない医師とで診療報酬の差別化が生じるのではないかとの懸念に、個人的見解としつつ「専門医制度は国の制度ではない。診療報酬と結びつけて議論することは困難」との認識を示した。
京都協会は厚労省との懇談に先立ち、中小病院を対象に緊急アンケートを実施。「新専門医制度」について11病院中8病院が「問題あり」と回答。「医師確保が難しくなり、このままの制度ではまた医療崩壊につながる」、「医師の安定確保が保たれるのか。中小病院にとって医師の不足、派遣医師の引き上げは大きな影響となる」などの意見が寄せられた。
以上