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【TPP ここが問題】公的保険を切り崩す
―TPPの外圧 政府の規制緩和、給付減―

全国保険医新聞2016年4月25日号より)

 

 政府は今国会でのTPP(環太平洋連携)協定の承認案と関連法案の成立を断念し、秋の臨時国会で成立を目指す方針と報じられる。TPPが日本の医療制度に与える影響をあらためて考える。また、協会・医会でも多くの会員が加入する共済制度もTPPの影響に晒される。今号と次号で問題点を解説する。

自由化にむけて内容変わる

 TPP協定の最終目標は「関税ゼロ」と、貿易の妨げになるとされた国の制度やルールを変更する「非関税障壁の撤廃」だ。動き出したら未来永劫、再協議や追加交渉が続く。附属文書で規定された「二国間での協議」も継続するので、自由化に向けていくらでも内容が変わる危険がある。
TPP協定という外圧≠ニ、政府による規制緩和や負担増・給付抑制計画によって、日本の公的医療保険制度は切り崩されていく危険がある。

中医協に影響力「透明性と公正」

 日本の中医協(中央社会保険医療協議会)のような国の保健医療当局での保険適用の可否や薬価の決定プロセスについて、利害関係者である製薬企業に対する透明性と公正な実施の確保が定められた。「透明性及び腐敗行為の防止」章で策定された附属書「医薬品及び医療機器に関する透明性及び手続きの公正な実施」で規定されている。
 政府TPP対策本部は、公的医療保険制度に関する変更は行われないと説明するが、「本附属書は公的医療保険制度に直接関連する」とも説明している。公的医療保険制度の一部である薬価制度、新薬の特許期間やデータ保護についてTPP協定は対象としている。
 政府は保険給付における価格決定プロセスは変更されず、医薬品の価格に影響はないと説明するが、日米両国政府の「交換文書」では、「関連する将来の保健制度を含む」ことについて「協議する用意があることを確認」し、薬価制度を含む公的医療保険制度を、二国間での協議対象とすることに合意している(法的拘束力はないと明記しているが、TPP協定と一体である)。

新薬価格すでに高い

 すでに新薬価格は高額になっている。2015年に保険適用となったC型肝炎治療薬「ハーボニー配合錠」(米国のギリアド社)の薬価は、1日1錠約8万円で、治療に必要な12週間の服用で約670万円に上る。
 米国はこの間一貫して、利害関係者に対する審議会の開放性や透明性を向上させることを求めていた。
 今後、利害関係者である米国の巨大な製薬企業が、中医協(薬価専門部会、薬価算定組織)における医薬品の保険適用の可否や薬価の決定プロセスに対して、透明性と公正の実施を盾にして、これまで以上に影響力を及ぼすことが懸念される。

国民にとっての透明性こそ

 公的医療保険において、有効で安全な薬が合理的な価格で利用できるように、高額な新薬の適正な価格設定のルールの明確化と、国民と医療者にとっての透明化こそ必要である。


共済も狙われている―TPPが壊す助け合い

 TPPを通じて米国の保険・金融業界が日本国内での事業拡大を狙っている。
TPP協定では、「金融サービス」章が独立して設けられ、すべての保険サービス、銀行業務、その他金融サービスが対象とされている。米国政府にとって保険分野は、牛肉、自動車と並び、TPPにおける関心事であると明言されている。

■共済に規制求める

 在日米国商工会議所(ACCJ)の意見書や米国通商代表部「2016外国貿易障壁報告書」では、「かんぽ生命」と「共済」の名を挙げて、民間保険会社と同等の規制を課すべきであると要求している。また、これらの措置が講じられるまでは、業務拡大につながるあらゆる事項を認めるべきではないと主張している。
 米国が規制を求める「共済」には、JA共済や全労済、生協共済など協同組合が行う共済制度のほか、各団体が会員のために行う助け合いの共済制度も含まれる。米国はすべての共済を金融庁の監督下に置き、保険業法による監督を求めている。仮に共済制度が保険業法の対象となれば、すべての共済が保険会社となるか、民間保険による事業継続しか認められないこととなる。

■批准させない

 そもそも共済団体は、組織活動の一つとして共済事業を行っている。今日では、社会保障制度だけでは不十分な部分を共済制度が補うなど、国民生活の安定に寄与している。助け合いの制度を守り発展させるためにも、TPPを批准させないことが重要である。

以上