皆保険歪める審査「効率化」
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審査のあり方をゼロベースで見直すための検討組織の設置 |
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業務の最大限の効率化等を図るための審査のあり方の見直し |
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効率的な組織・体制を追求 |
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厚労省は4月、「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」を立ち上げ、審査のあり方の見直しなどを打ち出した。内閣府に設置された規制改革会議は昨年から支払基金改革の議論を進めており、6月3日に閣議決定された規制改革実施計画では、検討会が「審査の在り方をゼロベースで見直す」ための検討組織に位置付けられている。
現在検討会で議論されているのは、全国統一の審査基準を策定し、コンピューターチェック項目に反映する仕組みの構築である。「医師の関与の下で」としつつも、医師による専門的見地からの審査を機械的審査に置き換えていく方向性だ。同時に、審査の地域差解消も目指している。
これが進めば、審査の画一化や、診療における医師・歯科医師の裁量の制限が懸念される。公的保険による国民の医療保障を後退させることにもつながりかねない。
さらに河野規制改革担当相は「医療費を削減しなければいけないというときに、全くコストの削減ができない組織が市場原理も何もなしで1つぽんとありますというのはおかしな話」と審査支払機関を攻撃、市場原理の導入を強調している(15年11月26日規制改革会議健康・医療WG)。しかし公的医療保険制度を支える審査・支払業務と市場原理は相容れない。
審査支払機関は、診療報酬の適正な審査と迅速な支払を通じて、医療保険制度の公正性と信頼を担保し、世界に誇る皆保険制度を支えてきた。しかし政府の規制改革会議で示されている審査の「効率化」の方針は、こうした審査支払機関の役割を否定し、皆保険制度を歪めるものだ。
検討会は、この夏に中間とりまとめを行うことを予定している。全国保険医団体連合会は、議論の動向を注視しつつ、医療における医師・歯科医師の裁量権を尊重し、皆保険制度を充実させるための審査を求めていく。
厚労省は4月から「データヘルス時代の質の高い医療の実現に向けた有識者検討会」を立ち上げた。検討会の議論の問題点を解説する。
検討会における厚労省の提案の第1は「ビッグデータ分析によるデータヘルス推進等のインフラ整備」であるが、社会保険と地域保険のレセプトデータの連結が不十分と指摘し推進を求めている。第2に審査支払機関には「ビッグデータのインフラを活用し、審査業務の効率化・統一化や、審査の地域間格差の解消」を求めている。これを実現するため打ち出しているのが、徹底した審査の機械化による、活用できるデータ構築と、審査支払機関の組織・体制の見直しによる「不要・非効率な業務の削減」である。この業務削減の狙いは、「業務集団」から、レセプトデータの分析・活用を提案する「頭脳集団」としての役割発揮(4月25日同検討会・塩崎厚労相)を意図しているとともに、業務の民間開放も想定している。「審査手数料の大幅削減」だけではなく、審査支払機関そのものの徹底した効率化・合理化を企図しているなど大変重大な中身である。
しかし本来、審査支払い業務は、社会保障としての公的医療保険制度を充実・発展させるために必要不可欠なシステムであり、市場原理の導入や民間企業の参入、行きすぎた効率化・合理化には問題がある。
6月3日に閣議決定された規制改革実施計画には改革の主要部分が盛り込まれ、検討会は夏には中間とりまとめを行うことを予定している。今後注視が必要である。
全国社会保険診療報酬支払基金労働組合(全基労)はこの検討会で提起されている問題を取り上げ、厚労省要請(5月20日)を実施、支払基金は公的医療保険制度を支え、国民の医療を保障するために現行の運営の仕組みとなっている点を強調し、それにふさわしい役割強化を求めた。またいきすぎた「効率化」や「費用対効果」の追及は日本の医療保障制度を歪めるものであるとし、厚労省が組織・体制の在り方で、支払基金業務への民間企業参入を打ち出している点について、「審査・支払業務を、利潤追求を目的とする民間へ開放することは、国民医療の充実、審査の公平性の確保等の観点から公的医療保険制度とは相いれない」と厳しく批判した。
全基労の要請はまた、審査の地域格差の解消について「自治体が実施している独自の医療支援政策の広がりを考えれば、地域行政との関係はますます重要であって、審査の集中もしくはブロック化は、それに逆行するもの」と反論している。
※データヘルス事業
健診やレセプトなどの電子管理された健康医療情報を保険者が分析し、加入者の健康状態に即して行われる効果的・効率的な保健事業のこと。
以上