2016参院選 識者の視点
使い捨てされる若者たち―
『下流老人』著者 藤田孝典さん@
(全国保険医新聞2016年6月15日号より)
各分野の識者に、参院選で問われる課題をシリーズで聞く。今回は、昨年20万部を突破するベストセラーとなった『下流老人』著者の藤田孝典さん。若者から老人までを覆う現代の貧困の実態を聞いた。
ふじた・たかのり
1982年生まれ。社会福祉士。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に『下流老人 ― 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)、『貧困世代 ― 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社)など。 |
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日々17時間労働でうつ病発症
現代の日本では、家族の機能や地域のつながり、企業の福利厚生など、これまで人々の生活を支えてきたセーフティネットが非常に弱くなっており、そのことがあらゆる世代の貧困を生み出しています。
学生の約半数が奨学金を借りています。理由は親の年収の低下と学費の高騰です。しかし、奨学金の延滞は33万人に上っています。大学を卒業しても、奨学金を返済できるだけの収入を得られないのです。
私が代表理事を務めている「NPO法人ほっとプラス」に相談に来たある若者は、大学を卒業してIT企業に入社した直後から、毎日17時間もの仕事を課せられました。「若いのだから今のうちは努力しなさい」と言われ続け、3年ほどがんばったものの、不眠症となり、その後うつ病を発症。休職後に退職に追い込まれます。両親は月18万円程度の年金で生活しており、息子の生活を支援する経済的余裕がありませんでした。
建設業で営業をしていた24歳の若者は、過酷な販売ノルマに追われ、パワハラにさらされながら2年間働いてきました。しかし、営業成績が伸びない時期が2回ほどあったために会社を辞めろと言われ、社宅を追い出されそうになり、相談に来たときにはうつ病も発症していました。
彼らはいずれも、世間では一流と言われる大学を卒業しています。
「普通に働く」がぜいたくに
以前は、会社が社員を育てて定年まで働かせ、福利厚生も充実していました。しかし今は入社後すぐに即戦力として長時間働かせ、心身を病んだら退職に追い込んでしまう。がんばって働いても終身雇用も一定の給与の保障もない、報われない雇用が増えています。若者が仕事を辞めると「甲斐性がない」と言われることもありますが、雇用の質が以前とは劇的に変わってしまっているのです。
若者の4割が非正規ですが、残りの6割のうちの約4割は過酷な労働を課せられて使い捨てのように働かせられる「周辺的正社員」。以前のように、企業の中で育てられ、定年まで働くことが保障されている正社員は2割ほどだと思います。
相談に来る若者は皆、「普通に働きたいだけ」と言います。正社員としての地位と待遇を保障されて「普通に働く」ことが、今はぜいたくになってしまっているのです。
私が『下流老人』で書いた高齢者の貧困は、こうした若者の貧困と密接に関わっています(次号に続く)。
以上