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2016参院選 識者の視点

貯金3000万でも貧困に― 『下流老人』著者 藤田孝典さんA

全国保険医新聞2016年6月25日号より)

 

 各分野の識者に、参院選で問われる課題をシリーズで聞く。前号に引き続き、昨年20万部を突破するベストセラーとなった『下流老人』著者の藤田孝典さん。高齢者の貧困の実態や、野党共闘への評価などを聞いた。

ふじた・たかのり
1982年生まれ。社会福祉士。NPO法人ほっとプラス代表理事。聖学院大学人間福祉学部客員准教授。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に『下流老人 ― 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)、『貧困世代 ― 社会の監獄に閉じ込められた若者たち』(講談社)など。

 私は著書の中で、「下流老人」を「生活保護基準相当で暮らす高齢者及びその恐れがある高齢者」と定義しました。
 たとえば夫婦二人で月25万円の年金で生活していても、ブラック企業で心身を病んで働けなくなった子どもへの経済的な支援、親の介護施設への入所、夫婦のどちらかが病気になる、などのいくつかの要因が重なれば、たとえ貯金が3000万円あっても、すぐに下流老人に転落してしまいます。

70〜80代で貯金なくなる

 私たちのNPOに相談があったある男性は、61歳まで地方銀行で働いていました。若年性痴呆症が疑われる症状が50代半ばで表れて早期退職し、その後妻と離婚。60代で月額12万円の厚生年金で一人暮らしという状況でした。アパートの家賃を滞納して追い出され、娘も生活に余裕がなく父親の支援ができず、野宿生活をしていました。 
 医療費が払えないという相談もあります。ある70代のがん患者は、年金が少ないため新聞配達のアルバイトで月8〜10万円の収入を得て、9万の家賃を支払っていました。窓口負担が支払えないため、病院に行けないと言っていました。
 高額療養費制度があっても、入院すれば食事療養費や差額ベッド代などの支払いで、退院と同時に預貯金を使い果たす人も多いです。国民年金の場合は70代、厚生年金をもらっている場合でも80代で貯金がなくなるケースが多い。
 現役時代の世帯年収700〜800万円の中間層までは、下流老人予備軍といえます。

野党の存在意義 問われる

 少し前までは、国民の間に所得の差はあっても、企業の福利厚生や家族の同居による支え合いで一定の生活を維持できる仕組みがありました。そういう中では選挙でどの政党が勝利しても生活はそれほど変わりません。多くの人はなんとなく自民党に投票していましたが、それでも問題なかった。
 しかし、社会が貧困化、不安定化してきた今は、これまで野党であった勢力の存在意義が問われていると思います。多くの野党の政策は、社会保障の充実や働く人の生活を重視する点で共通しています。しかしこれまでは、保守に対してまとまって明確な対抗軸を示すことができずに負けてきました。
 参院選に向けて進められてきた野党共闘は、今の不安定化した社会情勢を反映した必然的な動きだと思います。ようやく市民の側から、共闘の要求が出てきて、細かい違いにこだわって協力できなかった野党もこれに応えようとしている。私は、今の野党共闘の動きは肯定的に見ています。
 医師・歯科医師の方には、医療が社会と密接に関わっていることを再認識していただきたい。私たちのNPOに相談に来る方々は、生活に困窮し、医療・介護が贅沢品になってしまっています。参院選では、全ての人が所得に関係なく必要な医療が受けられるようにするための選択をしてほしいと思います。

以上