厚労省「局横断的に実効性ある対策を」
―高額薬剤めぐり議論加熱―
(全国保険医新聞2016年7月15日号より)
医療費は約40兆円、そのうち薬剤費は約10兆円と4分の1を超え伸び続けている。昨年は、ソバルディ、ハーボニーなどC型肝炎新薬の保険導入(※)、新しいタイプのがん治療薬オプジーボの肺がんの一部への適応追加などがされた。優れた薬効を示す高額薬剤の登場が今後も見込まれる中、高額薬剤対策が中医協で焦点となっている。
適応拡大時に引き下げを―日医
議論の発端は、4月4日の財政制度等審議会。化学療法の専門医がオプジーボについて、体重60キロの成人の場合で年3460万円、少なく見積もり5万人の使用で年1兆7500億円かかり、国が「破滅」すると主張(資料1-2:癌治療のコスト考察;特に肺癌の最新治療について)。“オプジーボ・ショック”を契機に、中医協で高額薬剤をめぐり議論が噴出した。
日医は、4月6日の記者会見、続く13日(議事録)、27日(議事録)、5月18日(資料)、さらに6月22日(資料)と毎回の中医協で、高額薬剤対応について厚労省の認識を質した。「適応の拡大時には、次回改定を待たずに薬価を見直す(引き下げる)べき」との日医の主張に、支払側委員も「あり得る」と同調。厚労省の薬剤管理官は「理論上あり得る」としつつも「市場規模の把握が課題」との認識を示した。
承認と薬価収載過程見直しも
日医委員は、薬事承認(医薬・生活衛生局所管)から事実上90日以内に薬価収載(保険局所管)される仕組みも見直すよう提起している。▽薬事承認を受けた効能・効果の一部のみに保険収載を限定する▽承認時に薬価・市場規模など医療経済的視点も考慮すべきなどと中医協で発言した。
薬価引き下げの議論に対し、製薬メーカーは「本当に必要とする患者のために使われる仕組み」や「処方のあり方」など適正使用についても議論すべきと応じている。
早急に検討結果示す ―厚労省
5月26日の社保審医療保険部会で、厚労省は、薬剤費が医療費の伸びを押し上げている状況を報告。2015年度4月〜11月の医療費の伸び率は3.1%であり、2%程度の伸びで推移していた12〜14年度と比べて高めになっているとして、特に、調剤医療費は8.2%と高く、抗ウイルス剤等の薬剤料の影響が大きいとした。支払側委員が指摘したように、「一連のC型肝炎の新薬が大きい」と見られる。
議論が収束する気配がない中、厚労省は、高額薬剤対策について「早急に検討結果をまとめ、中医協に提示する」としている(中医協、6月22日)。武田俊彦医薬・生活衛生局長も「高額薬剤問題は大きなテーマ。国内の薬剤開発のイノベーションに十分に配慮した上で局横断的に実効性ある対策を進めていきたい」(日本病院学会、6月23日)としている。鈴木康裕保険局長も研究開発意欲と保険制度の持続性のバランスを取っていくため「医薬・生活衛生局、医政局と共同で問題に取り組むことが大事」と応じており、局横断的な論点も含めて具体的な検討が開始されるかどうか、審議動向が注目される。
※ ソバルディは、薬価1日単価が約6.2万円(16年4月以降は、約4.2万円)で、1治療当たり519万円(同355万円)。ハーボニーは薬価1日単価が約8万円(同5.5万円)で、1治療当たり673万円(同460万円)とされる。患者負担は、医療費助成で月額1万円(上位所得は2万円)
以上